野球しようよ② メガネとゴリラと野球

 本日晴天なり─。場所は葦原町河川敷球場。


藪江やぶえくん!藪江君じゃないか!」

「久しぶりでやんすね、大和くん。」

「変わらないな、藪江くんは。すぐにわかったよ。」

 分厚いメガネが特徴の藪江くんは相変わらずだった。中学の時から全く変わらない。


「サル、8人揃っているからあとは食中毒にならなかったチームの人だな。」

「ああ、チームでゴリラ塚さんだけは無事だったから今日の顔合わせにも来てもらうことになっている。ゴリラ塚さんは電車に乗らない人だから車で来るはずだ。」

「さすがパティシエだな。きっと普段から食中毒には気を付けてるんだろうな。」

「ゴリラ塚殿はこの前のプリンを作った人ですかな。実に美味なプリンでしたからお会いするのが楽しみですな。」

「シオツチのおじさんもあのプリン気に入ってくれたんだな。ゴリラヅカはプリン以外もおいしいから色々食べ比べてみるといいですよ。」

「ふむ、楽しみですな。」


「あっ、あの車は…ゴリラ塚さんの車だ!」


「ゴリラ塚さん、チッス!」

「ウホッ」





「のう叔父上。わらわの目にはゴリラが車から降りてきたように見えたのじゃが…。」

「私にもそう見えておりますぞ。人ではなく、動物のゴリラですな。」

「ゴリラだね。」

「野生のままのゴリラですね。」


「大和よ、なぜゴリラが車に乗っていたのじゃ?」

「ゴリラって…おいおいゴリラ塚さんに失礼だろ。そりゃ名前はゴリラ塚だけどルックスはイケメンじゃないか。」

「お待ちくだされ、ゴリラにしか見えませんぞ大和殿。」

「大和様、ゴリラが野球をできるのですか?」

「ウホッ」

「ほらほら!今『ウホッ』って言った!」

「いや、今は『ははは、名前がゴリラ塚だからね。よくゴリラってからかわれてるから大丈夫、僕は気にしないよ。それに力を合わせて隣町と戦うチームメイトだからね、みんな、よろしくたのむよ!』って紳士的な発言をしていたじゃないか。さすがゴリラ塚さん、いい男だ。」

「待つのじゃ!今の『ウホッ』だけでそんな長い発言なわけがないのじゃ!」

「大和は惑わされてるんだよ!あのゴリラに!」


「ウホホ ウホッホウホホッ」

「手を差し伸べて…握手ですかな?」

「む、むぅ…悪いゴリラではなさそうじゃ…。」

「優しいまなざしをしていますね、あくまで紳士的なゴリラのようです。」

「ふむ、私が思いますに、ゴリラ塚殿は葦原町のみなさまを見守る土地神や鎮守神ちんじゅがみの一種なのかもしれませんな。故に、人間たちにはゴリラではなく人の姿として認識されているのでしょう。」


 ゴリラ塚さんとオタマががっしりと握手をした。

「うん、ヤマトの連れてきたみなさんとも早速打ち解けたみたいだな。」

「じゃあ私も。私は天野 ミカド。オタマっち、シオツチさんよろしくね。」

「うむ、よしなに頼むのじゃ。」

「よろしくお頼み申しますぞ。」


「じゃあ早速だけどミーティングを始めたいと思う。野球の未経験者はオタマさんのほかには…。」

「クズハやったことなーい。」

「オタマとクズハだけか。結構ポジションも自由に組めそうだな。あとは各々の適正だけど…。」

「大和様。この野球能力を査定する神アプリをご使用ください。」

「…そんな都合の良いものがあるのか。」

「試しに大和様を測定してみましょう。『ステータスオープン!』と言うとステータスが表示されるんですよ。」

ミートC パワーC 走力C 肩力C 守備C


「…凡庸じゃのう。」

「…ちょっとダメージ受けるなこれ。」

「ひとまず参考までに全員測定してみましょう。」


大和 CミートCパワーC走力C肩力C守備

本宮 CミートBパワーD走力C肩力B守備

天野 BミートEパワーC走力C肩力B守備

小玉 FミートGパワーF走力F肩力D守備

塩土 DミートEパワーB走力C肩力A守備

山石 FミートBパワーE走力C肩力A守備

葛葉 AミートBパワーA走力A肩力G守備

藪江 DミートCパワーA走力D肩力B守備

ゴリ GミートAパワーG走力A肩力A守備


「…大分バラけたな…。」

「とりあえず藪江くんのセンターとゴリラ塚さんのファーストは決定だな。いつも守ってるポジションだし。」

「了解でやんす!」

「ウホッ!」


「二遊間は守備の高い塩土さんと山石先生でセンターラインを固めよう。」

「了解ですぞ。」

「かしこまりました。」


「オタマさんは負担の軽いライトにしよう。」

「サル、負担を軽くするならレフトじゃないか?」

「いや、隣町には右の強打者が多い。となると左方向に強い打球が飛びやすいからライトの方が負担が軽いんだ。」

「なるほど。」

「オタマさんは経験はなくても野球の基本的な動きは知っているから、打球は無理せずワンバウンドで処理してもらってシングルヒットに抑えてもらえれば十分だ。センターの藪江くんは右寄りに、セカンドの塩土さんは思いっきり深く守ってオタマさんのフォローに入ってくれれば問題ないだろう。ライト線の打球は守備に定評があるゴリラ塚さんが封鎖してくれるしな。」


「セカンドの私が深く守ると内野安打が増えませんかな?」

「大丈夫、相手は右打者ばかりだし、もういい歳だから足の速さもそれほどじゃない。守備が良ければ十分刺せますよ。」


「藪江くんがライトをフォローするから、レフトは守備範囲の広いミカドだ。ファインプレーは狙わず長打にならないようにしてくれると助かる。」

「オッケー!」


「残りはピッチャーとキャッチャーとサードか。」

「クズハは~?」


「黄泉は…ピッチャーだな。」

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