野球しようよ③ バッテリー

「やったー!エースだ!」


「サル、野球経験も知識もないクズハにピッチャーをやらせて大丈夫か。身体能力はあるんだし外野の方が…」

「いや…逆に言うとピッチャー以外にないんだ。外野にオタマさんを据える以上、野球経験のない黄泉を外野に入れるのはリスクが高い。なら身体能力が生きるピッチャーの方が良い。」

「ピッチャーもベースカバーがあるだろ?」

「キャッチャーが都度指示すればフォローが効く。幸い守備がいいメンバーが集まったからボールがストライクゾーンに入りさえすれば試合にはなる。緊張とかしなさそうなタイプだし、ある種ベストポジションだ。」

「なるほどな…キャッチャーは大変そうだが…。」


「というわけでヤマトはキャッチャーだ。ヤマトなら黄泉ともある程度意志疎通できるだろう。」

「いくらクズハでも一応会話は通じるだろ…。」

「やったー!大和と夫婦だ!」

「頼んだぞ、ホイキャッチャーミット。ひとまずストライクゾーンに投げるのを教えることからはじめてくれ。」


「とりあえず試してみるか。肩は強いみたいだし最初から投げ込んでみてもらおう。」

「オイラ打席に入るでやんす。」

「サンキュー藪江くん。じゃあクズハ、藪江くんに当てないように俺のミットめがけて投げてみてくれ。大事なことなので二回言うけど藪江くんには当てないようにな。」

「わかった!大和を殺すつもりで全力で投げるね!」

「あっちょっ待っ」

「死ねええええええええええっ!!!!!」


 ギュオン!


 ボールは風切り音を残し俺の頭上を遥かに越え、遠くに飛んで行ったようだ。


「ちょっと力みすぎちゃった。」

「こいつ…防具無しの人間に全力で投げやがったよ…。」

 あの目と球はマジで殺す気だった…。

「軟式球なのに100キロ以上は出てたでやんす…。」

「遠投で80~90mくらいかな?すごいな黄泉。」

「女子プロだと最高球速120キロ台だそうだから、今からでもプロで通用しそうだねクズハっち!」

 俺が肝を冷やしたというのに藪江くん、サル、天野と野球に詳しい面々が感心している。


「ごめんねー!次はちゃんと頭狙うからー!」

「狙うのはグラブ!!!!ノー頭!!!!ちゃんと防具つけるから待ってろ!!」

 こんな剛腕とは想定していなかった。いかに軟式球であろうと直撃すれば命にかかわりかねない。こいつの球を受ける時は必ず防具をつけよう…。


 *


「塩土様!」

「うむ!ゴリラ塚殿!」

「ウホッ!ウホホホ!」

 サルがノックし、ショートに飛んだ打球をイワナガヒメさんが捕球し、華麗にグラブトス、受けたシオツチのおじさんがセカンドベースを踏み台に、ファーストのゴリラ塚さんにストライク送球。ショート─セカンド─ファースト(通称6・4・3ロクヨンサン)のダブルプレー。内野の連携は順調そうだ。


「行くでやんすよー!」

「うむ!どんと来いなのじゃ!」


 ポテッ パシ


「オタマっちーその調子!」

 外野ではセンターの藪江くんが高くに球を投げ、オタマの守備練習を手伝っている。そして、逸らしても良いように、オタマの後ろに控えている天野が声をかけている。子どもと戯れているように見えるが、あれはあれでほのぼのしていて楽しそうだ。


 一方で急造の俺たちバッテリー。


 ビュッ バシィ!

 ビュッ バシィ!


 投げるにしたがって制球がまともになっていくのを感じる。クズハは運動神経が良いから体の使い方のコツの飲み込みと修正が早い。直球にもノビがあり、経験者でも初見で捉えるのは難しいかもしれない。しかし…


「だいぶ良くなってきたな!」

 守備練習に区切りをつけたサルが様子を見に来た。

「ああ、少し球は暴れるけど問題ないレベルだ。ただ…やっぱり変化球が欲しいな。」

「手っ取り早く習得できる変化球だとスライダーか。」

「いや、右打者から逃げる球はオタマのライト方向に球が飛びやすくなる。スライダーやカーブはボールゾーンに外す球にしか使えないな。」

「…うーん、そこらへんのことは女房役のヤマトに任せた!頼むぞ!」

「おいサル!無責任だぞ!…行っちまった。」


「大和~!どしたの~!」

「ああ、直球はイケそうだから変化球を、と思ってな。」

「変化球!?楽しそう!」


 本人は乗り気みたいだしやってみるか。できれば三振が取れる球と、堅守の内野を生かせるゴロを打たせる球…。


「よし、クズハ。2つ変化球を教えるぞ。こういう風に球を握って─」

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