第18話 分かれの情景
………
……
…
「?」
クズハは確かに水蛇の術を食らったようだが、見た感じ、ノーダメージに見える。
一呼吸置いて
「や~ら~れ~た~!」
いきなりクズハがわめきだし、そして、
とて、ててて
と、不自然な足取りで俺の方にしなだりかかり、両腕を俺の首に回した。
「ハァハァ…大和…だいじょぶだった…?」
「ああ…っていうかクズハも大丈夫だったように見えたんだけど…?思うにやられたフリをしてるだけですよね?」
「クズハもうだめかもしれない…。」
(おや、頭の方の話かな…?まあ前から頭はだめだったような気もするけど…)
「や…やったのじゃ!!あの生意気な小娘をやっつけてやったのじゃ!!」
あっちはあっちで以前無様に敗北したリベンジに成功したと思い込みはしゃいでいる。
「はいそこうるさい!…ハァハァ…大和…実は私たち本当の兄妹じゃないの…。」
「知ってる!というか兄妹とかいう設定初めて聞いたよ!」
「そこはほら…育てのおかーさんが同じっていうところで…なんとか。そういうことにしておいたほうがロマンチックだし…。そういう設定にしておいて、はい、今のやり取りやりなおそ?」
「やり直さないよ!ねつ造するな!」
「何をごちゃごちゃ言っておるのじゃ!大和から離れるのじゃこの敗北者の泥棒娘!そこになおれ!トドメを刺してくれるのじゃ!出でよ海神の鉾!」
オタマはいきりたち、水で生成した鉾を片手にこちらににじり寄ってきた。
「大和!このまま攻撃されるとクズハがやられちゃうからクズハを庇って!そして死んで!」
「断る。」
「なんで!?クズハよりあのおじさんの方が大事なの!?好きなの!?愛してるの!?」
「ああもう何かすごくめんどくさい…。母さん…あなたは一体この子をどう育てたんですか…。」
「もういいもん…大和を殺してクズハも死ぬもん…。」
「何も良くないし、結局最初に戻っただけだこれ…。」
「別れの挨拶の時間はもうおしまいなのじゃ…さよならなのじゃ!根の国に帰るのじゃ小娘!」
そうこう言い合っているうちに、すぐ近くまで来ていたオタマが暇も与えず水の鉾を打ち下ろした。
「わにちゃんうるさい。」
カキンッ
しかし、クズハは片腕で俺にしがみついたままに、もう片腕で剣を手繰り寄せ、オタマの鉾を難なく弾いてしまった。
「むむっ、わらわの術で死にぞこないなのに小癪なのじゃ!」
そのままの位置関係で鉾を繰り出し数合続けて撃ち合うが、すべてクズハに捌かれてしまう。
「やはり小玉姫では勝てませんな…格が違いますぞ…。」
「おじさん、大丈夫なのか!」
ぐったりして力なく道に横たわっているシオツチのおじさんが冷静に戦力分析をしている。
「大和殿、今のうちに何とかお逃げくだされ。」
「おじさん、オタマに勝ち目はないのか!?」
「むぅ…難しいですな…。小玉姫のあの海神の鉾は綿津見殿の神器に似ています…仮にあの神器を模した水鉾とすると、かなりの威力を秘めたものと見ます。あの鉾が当たりさえすれば、いかにあの小娘が天才的戦闘センスを持ち合わせていたとて無事では済まぬでしょう。…ですが、悲しいかな武器を扱う技量が伴っておりませぬ。あれでは大人と子ども、神剣とわりばしくらいの差がありますぞ。」
「わりばしかぁ…それはキツイな…。いや、当たりさえすればいい、ってことであれば…。それなら!」
「きゃっ!」
俺は片腕で抱き着いてきているクズハの体をがっしり抱きしめた。できるだけ、剣を持っている側の腕を動かしづらいように力強く。
「これならっ…クズハの動きも止められるし、攻撃を捌く剣も満足に動かせない…!オタマのへっぽこな技量でも攻撃が当てられるはず…!」
「大和!わかってくれてうれしい!」
いや、俺はわかってないし、クズハも俺の意図をわかっていない。しかし戦闘中なのにも関わらず、クズハは持っていた剣を投げ出し、両腕で俺に抱き着き返してきたことはオタマをフォローする上で更にプラスに繋がった。
「今だオタマ!!やれーっ!!!!」
「大和…おぬし…。」
「むきいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!何をしておるのじゃ!!!!そのっ…その小娘にいきなり抱き着くなどっ!!!!破廉恥なのじゃ!!!!浮気者なのじゃ!!!!」
あっ…オタマも俺の意図がわかってなかった。これはとんだ誤算だったなぁ。はっはっは。
そして意図が伝わらなかったちびっ子は、前にもまして苛烈に水の鉾を打ち下ろしてきた。その切っ先からは俺もろとも貫いてやるという殺意が感じ取れた。
俺まで貫かれたらたまらないと何とか身をよじって身をかわす。…クズハに抱き着かれたままで非常に動きづらいが、わりばしと評されるだけあって、動きづらいながらもなんとかギリギリかわすことができる。
「あぶっ…あぶないっ…俺は攻撃するなバカ!!!!」
「バカとはなんじゃ!バカとは!バカはおぬしじゃバカ大和!むきー!!!!制裁っ!制裁っ!」
「ハハハ…小玉姫は綿津見殿にそっくりですなぁ…。」
なんて一家だ。
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