第17話 愛の万能

「シオツチおじさん危ない!クズハは機動力を殺す手を召喚するんだ!オタマはそれにやられたんだ!」

「大丈夫ですぞ大和殿。太陽の下では天照様の力で黄泉平坂ヨモツヒラサカの門は開くことができません!」

「そうか!なら大丈夫だな!がんばれシオツチのおじさん!」


 ガツン!


 振り下ろされたクズハの剣はシオツチのおじさんには当たらず、空を斬り、アスファルトに突き刺さった。

「何度斬りかかっても無駄ですぞ!」


 後ろに回りこんだシオツチのおじさんが攻撃姿勢を取る…が、既にクズハは剣が刺さった瞬間、次の動作に移っていた。地面に刺さった剣を瞬時に逆手に持ち替え、飛び込んだ勢いを利用し、体操のあん馬種目の前転とびのように空中に飛び上がった。 そして、クズハは頭を下にした状態で反転すると、左手に弓を生み、矢をつがえた。


「捉えろ…生弓矢イクユミヤ!」


「まずい!あの矢は…!」

「至近距離の斬撃をも見切る私に飛び道具など無駄ですぞ!」

「ダメだ!あの矢は散弾になる!かわせない!」

 あの散弾ならイワナガヒメさんの守護を受けている俺が盾になれば防げる…!おじさんを庇えと頭が命令した。だが

「もう遅いよっ!広がれっ!」

 無情にも散弾はシオツチのおじさんと周囲の地面を撃ち抜き、おじさんはうめき声を漏らし膝をついた。


「不覚…。侮ったわけでは、なかったのですがな…。」

「おじさん!大丈夫か!?」

「大和殿…面目ない…。膝に矢を受けてしまったようですぞ…。」

「いや、膝どころか全身に矢を受けてたように見えたけど!?」

「ぐっ…体が思うように動きませんな…。大和殿、お逃げ下され。もはやあなたをお守りすることはできなさそうです。」

「そんな…放っておけるか!」

「ふふふ…私を心配してくれているのですな…ですが大丈夫。私はまだとっておきの奥の手を残しているのですからな…。」

「でも…!」

「私も後から追いかけます…庇おうとしてくれたこと…嬉しかったですぞ…。」

「死ぬ気かおじさん!」


「ちょっと!」

 俺とおじさんのやり取りに、いきなりクズハが大声で割り込んだ。


「…ずるい…。」

「えっ?」「むぅ?」


「ずるいずるいずるいずるい!!!!クズハも大和とそういうやり取りしたいのに!!!!」

「えー…。」

「そうだ!おじさんクズハをその奥の手やらで攻撃して!そんで大和はクズハを庇って死ぬの!」


「うn…?えーとちょっと整理させてくれ…クズハは俺を殺そうとしていて…で、おじさんは俺を守ろうとしてくれてるわけで…それで俺がクズハを庇って死ぬ…?」


 簡単に図式化してみよう。


    俺

 殺す♥↑↓庇って死ぬ

   クズハ


 うん、やっぱりおかしいよな。


「なあクズハよ。その脚本はおかしいと思う。」

「愛よ!」

「意味が分からん!誰か説明!」

「さあ!そこのおじさん!奥の手とやらを見せてちょうだい!そして私を追い込んでみて!」

「いえ…奥の手というのは大和殿に心配かけないように吐いた嘘でハッタリですぞ…。実はもう体力的にしんどくてかないません…。」

「おじさん…俺のために無理をして…(キュン)。」

「あ~~~~~っ!!!!また!!!!ずるいずるい!!!!それ私もやりたい!!!!」


「おぬしら何をやってるのじゃあ!!!!!!!!!!!!」


 声の主は息を切らしたマーちゃんの上にまたがったオタマだった。


「あっ、オタマだ。」

「『オタマだ。』ではないのじゃ!!叔父上の霊圧とあの女の霊圧を感じて飛んで来たら…大和!おぬしなぜ叔父上とラブコメをしておるのじゃ!気持ち悪いのじゃあ!!!!」

「違うんだ聞いてくれオタマ。これには情事があるんだ。」

「問答無用じゃ!この浮気者っ!水弾の術!」

 オタマが術を唱えると、空中に水球が無数に浮かび上がり、その水球が一斉に俺に襲いかかった。


「ぐえー!…あれ、平気だぞ。」

「大和殿は綿津見殿から鹽乾の珠を預かっておりますからな。万年引きこもりで神力の弱い小玉姫のちんけな水術程度では傷一つつけられませんぞ。あと磐長姫の守護もありますからな。」

「叔父上!その言い方はあんまりなのじゃ!…まあ事実なのじゃが。」

 図星を付かれたらしいオタマは少し半べそをかいている。


「わにちゃん!もう一回!それもっかいやって!ワンモア!大和に向けてすごいやつを!バシーンと!」

 クズハはクズハで何か良からぬことを考え付いたらしい。なんとなく察しがついてしまうのが嫌だ。

「乗るなオタマ!それは何かクズハの良からぬ策っぽいぞ!」

「うむ!大和殿の言う通りですぞ!小玉姫の敵は私と大和殿ではなくあの小娘ですぞっ!」

「うるさいのじゃ!またしても男同士でいちゃいちゃとっ…ええいっ!大和食らうのじゃ!水蛇の術!」

 制止も聞かず、今度は家でぶっ放した水蛇を生み出し、俺にけしかけてきた。


「大和ーっ!あぶなーいっ!」

 オタマの術が襲い掛かるその瞬間、いきなりクズハが術と俺の間に割り込んで、水蛇から俺を庇った。

「きゃーっ!」

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