サイドストーリー2話 神様は家族仲が悪い

「貸し出し、ですね。ええと…堀 ぱせりさん。」

 本を受け取った司書さんは白髪…というよりも、先に見たククリさんの髪よりも強く光を弾くきれいな銀色の髪をした見慣れない男の人だった。


「はい、お願いします。…えっと。夏休み中に何回か図書館に来てますが、お兄さんとは初めてお会いしますね。新しい司書さんですか?」

「いや、僕は正式にはこの図書館の司書ではないよ。夏休みをローテーションで回していると人手が足りないみたいでね…臨時で手伝いに来ているだけなんだ。随分熱心に読んでいたみたいだけど、『解説 日本の神話』か。日本の神話に興味があるのかい?」

「うん…ちょっといろいろあって。勉強してみようかなって。」


「難しい顔をしているけど、ちょっと文章が難しかったかい?同じ題材でもっと易しい本を探してあげようか?」

「あっ、ありがとうございます。読むのは大丈夫でした。ただ、内容が…。」

「内容が、どうだった?」

「神様って、何なのかなって。」

「難しいことを考えるんだね。」

「なんと言うか…夫婦や兄弟でケンカばかりしていて…幸せになれていないような気がします。そう考えると、どうしても神様のことがわからなくて。」

「うん、そうだね、わからない。日本の神様は、人の手に余る自然や現象が当てはめられているから、人が神様を理解できないのは、多分ある種当たり前のことだと思う。逆に神も人を理解できないから、恵みを与えたりするし、災いを為したりする。そういうものだから、そもそも人と神は相容れないものなのかもしれないね。」

「…難しいですね。やっぱり神様は人とは考え方が全然違うのかなぁ。」

「でも、ぱせりちゃんも神様と同じように兄弟げんかくらいはするんじゃないかな。」


「…ないです。」

「えっ?」

「お兄ちゃんと、兄弟げんか、したことないんです。」

「そうなんだ、仲の良い兄妹なんだね。」

「…うーん、お兄ちゃんがちょっと優しすぎて。」

「良いことじゃないかな。」

「うん…。でも、優しすぎて…きっとお母さんが亡くなってから無理してるんだと思う。私、今までお兄ちゃんに怒られたことないし、自分を殺しちゃってるみたい。つい最近も刃物を持った女の人に殺されかけたのに、もう何でもない顔をしてるし…。」

「それは大変だったね。」

「もう少し怒ってもいいのに、もう少し、甘えてくれてもいいのに。」

「お兄さんが怒らないのは君が良い子だからじゃないかな。君も君でお兄さん想いだよ。」

「…そうかな。でも私はちょっとお兄ちゃんとの間に壁を感じるかな…。」


「兄弟げんかも度がすぎると大変だよ。僕も三人兄弟だけど、姉さんとは大ゲンカしてもう長いこと会ってすらいないから。姉さんは下の弟ともケンカして追い出してるしね。」

「…それはちょっとやりすぎかな。仲直り、しないんですか?」

「どうかな。僕も姉さんも、弟も人の気持ちがわからないから。きっとぱせりちゃんとお兄さんの仲のようにはうまく行かないと思う。僕からしてみれば、ぱせりちゃんがうらやましいよ。」

「そう、ですか。そうですよね、ありがとうございます。」

「ただ優しすぎるのも大概にしないとだけどね。さすがに殺されそうになったらちゃんと『迷惑だ』って意思表示しないと。このままだとお兄さんきっと殺されてしまう。」

「…そこ、なんですよね…。私からも強く言ってみます。」



「はい、それじゃあ本の貸出期間は2週間。お兄さんの女性関係、うまく行くといいね。」

「お話ありがとうございました!あっ、仲直りはククリヒメさん、っていう神様が仲直りが得意だって言ってましたよ!」


────────

「菊理姫か…。あの子はうるさいから苦手なんだけど…。それよりも、堀 大和。彼にはちょっと興味が湧いてきたかな。」

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