サイドストーリー1話 祝言の極み

 私は堀 ぱせり、中学一年。

 ひょんなことからお兄ちゃんに3人の許嫁ができて、いろいろあって、家が壊れてしまいました。

  ご近所にはとりあえずガス漏れの爆発が起きたということにしておいて、親子三人全員で謝りに回りました。でも、お母さんを亡くしてほぼ兄妹2人暮らしというのはみんな知っていたし、近所のみなさんに物理的被害が出なかったこともあって、総じて優しく同情的でした。


今は夏真っ盛り。お父さんは仮住まいを探すために不動産屋を練り歩いてて、お兄ちゃんは炎天下の中、壊れた家でお片付けしながら大事なものを選別中。


「お兄ちゃーん!オタマちゃんも!」

「なんだぱせり、お前は宿題でもやってろって言っただろ。崩壊した家の中は危ないからな。」

「うん、これから図書館に行くところだよ。ホテルだと落ち着かなくて。そのついでに差し入れでお水買ってきたよ。オタマちゃんの分も。」

「サンキュ。」「うむ、かたじけないのじゃ。」


「あれっ、家の周りだけ涼しいね。今日も真夏日なのに。」

「ああ、オタマが水の粒子の術か何かで涼しくしてくれてるんだ。大分助かってる。」

「へー、オタマちゃんありがとう!」


「ま、まあこの状況はちょっとはわらわのせいでもあるから…せめてもの手助けなのじゃ。」

 小さく「大和に守ってもらったし」と付け加えたのが聞こえた。お兄ちゃんが「手伝わなくてもいい」って言っても手伝うつもりで来たけど、もしかしたら別の意味でお邪魔だったかもしれません。


「お兄ちゃん、それじゃあ私行くね。やっぱり手が欲しかったら電話鳴らしてね。」

「ああ、勉強の邪魔はしないから余計なこと考えずに集中しろよ。」

「もう、ちょっとは甘えてくれてもいいのに!じゃあね!」


 と、手を振った時、突然大風が吹き、砂埃を巻き上げた。風が止むと、お兄ちゃんの前に、天狗のような服装をした白髪の─私と同じくらいの年齢に見える女の子が宙に浮いていた。


「こんにちは、あなたが堀 大和さん、だね。」

 お兄ちゃんが死んだ目をしている。これ以上やっかいごと…神様に関わりたくないんだと思う、多分。


「帰ってください。間に合ってます。」

「まーまーそう言わないで。大和さん、奥さんと喧嘩してるそうじゃないですか。いやーおうちもこんな無惨な有様になっちゃって。」

「どこでねじ曲がったか知りませんが、夫婦げんかなんてしていませんよ。喧嘩(物理)のバトルフィールドがこの家になっただけです。」


「おやおや、ちょっと依頼とは違うみたいだけど、まぁいっか。自己紹介が遅れました。私は菊理姫(ククリヒメ)、またの名をご存知白山大権現!」

「はぁ。どうも、それじゃ。」


「あら、反応薄いっすねぇ…。私は仲直りや縁を取り持つのが得意なのです!古くは伊弉諾さまと伊弉冉さまの日本最古の夫婦げんかも私が収めたんですよ。そんな私を崇めて小角(おづの)さんという方が『祝言道』という山に籠って婚活する宗教を始めたほどです!」

「すげーねじ曲がってる気がする…。」

「私を信仰することにより神通力を得た小角さんはアメリカに渡り小角魔法使いと呼ばれ」

「それは嘘だ。」

「で・す・か・ら、大和さんの痴話げんかも四角い小角がまーるく収めまっせ、ってね!さあ今日の相談をコント形式で再現してください!」

「…。」

 お兄ちゃんがめんどくさい顔に…。


「ククリさん!さっき『依頼』って言ってたけど誰の依頼で来たの?」

「乗るなぱせり!適当にあしらって帰っていただくんだ!」

「ご依頼ごとの夫婦げんかの仲裁が済めば帰りますから!…んで、ご依頼は磐長姫さんからっす。怖い顔していきなり駆け込んでくるものですからそりゃもうびっくりですよ!『旦那の家を壊してしまったー』って。」

「あー、うん、夫婦ではないけどイワナガヒメさんが家を壊したのは、まあ、事実、かな。」

「こわばった顔しちゃってすごい反省してましたよ。あんまり怒らないであげてくださいね。」

「あー…俺は全然怒ってないぞ…。なにせイワナガヒメさんが守ってくれなければ俺は死んでたわけだし…。家が壊されたのはまあアレだけど…命には代えられないしな。」

「そうだね、お兄ちゃんもオタマちゃんも大ピンチだったもんね。」

「やはり磐長姫ねーさまは強くて怖かったのじゃ…。」


「えっ…そうなんですか…。せっかくの私の腕の見せ所が…今からでも喧嘩しないっすか?」

「おい仲直りの神…。イワナガヒメさんと喧嘩するなんて下手すると俺の体にこんな穴が空くかもしれん…、そう思うとゾッとするな…。」

 お兄ちゃんは家に空いた大穴を指さしてそう言った。


「んー…ちょっとつまらないですが、磐長姫さんには大和さんが怒ってないって伝えておきますね。」

「ああ、助けてくれてありがとう、とも伝えておいてくれ。」

「わかりました、磐長姫さんの大喜びする顔が目に浮かぶようっす!それでは!」

 そう言うとククリさんはつむじ風とともにフッと消えてしまった。うーん、イワナガさんの大喜びする顔はちょっと想像つかないかな…。


「お兄ちゃん、それじゃ私も行くね。オタマちゃんお兄ちゃんをよろしくね。」

「ああ。」「任されたのじゃ。」


 さあ、あとは若い?お二人に任せて図書館に行こう。そしたらちょっとだけ、イワナガさんたちが登場する日本の神話のストーリーを調べてみたいと思います。

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