第8話 恋せよ乙女 (相手の)いのち短し

ぺったんぺったん


それは裸足でやってきた。


「あっ、瑞穂おかーさん!先に来てたんだー!」

 やってきた死神は年は俺と同じくらいの…かなりかわいい女の子だった。着物を軽く着崩し、右手には俺よりも低い身長には不釣り合いの…無骨な片刃の大剣を握っていた。


「クズハちゃん。物を壊しちゃダメって言ったでしょう。」

「えへへ…早く大和に会いたかったくて…ドアが開かなくて邪魔だったからちょっと壊しちゃった…。ごめんなさーい。」

「クズハちゃん、どうしてそんなものを持っているの…?」

 『そんなもの』というのはもちろん右手に握っている大剣だ。かなりの年代物のようで、刀身に大きな刃こぼれがあるものの、俺を殺すのには十分すぎる代物のように思えた。


「ひいお爺ちゃんの家にあったからちょっと貰ってきたの。だって、クズハにピッタリなんだったから!」

 と、言うとクズハと呼ばれたその女の子は棒切れを振るうかのように軽々と、その大剣を振り回して見せた。

「ひいお爺様が愛剣がないと探していましたよ…。」

「というか…家の中で長物を振り回すのはやめてくれないか…。」


「あっ、あなたが大和?」

「いえ!違います!」

 即答した。

「へー…瑞穂おかーさんに聞いた通りだったから、あなたが大和だと思ったんだけどなぁ。」

「いえ、私はほっ…ホーリー太郎。この家で家事を勤めるイケメン人型アンドロイドです。大和様はしばらく家には戻らないと言っていましたよ。ピピー。」

「なぁんだ…残念…。」

 よし咄嗟だったので変な名前になってしまったが何とか誤魔化しおおせた。母さんの話から知能が低そうだと予想したが、まさにその通りでかなり頭がゆるい女の子だ。


「大和が居ないんならしょうがないなぁ…ちょっと外を探してくるね。」

 よし、生命の危機は脱した。とっさの機転が利く自分を褒めてあげたい。


「クズハちゃん、ちょっと待って…着物をそんなに崩して着たらみっともないわ。」

「えー、こっちの方が動きやすいし可愛いんだもん。」

「しかも左前になっているし…直してあげるからこっちへいらっしゃい。」

「えへへ…。」


「いいなー、私もお母さんに着付けてもらいたいなー。」

「そうね、ぱせりには今度浴衣を見立ててあげようかしら…あらあら、下着もつけないで…あなた、大和、ちょっと後ろを向いててちょうだいね。」

「わかった。」

「はっはっは、僕は瑞穂一筋だよ。」


「…」

「…あっ。」

「母上殿!!今のあやつは大和ではなくホーリー太郎ぞ!!!!!」

「あらあら、ごめんね大和。」

「まずいぞ逃げるんだ大和!」

「みんな黙ってくれ!!!!バレちゃうだろ!!!!!」


「なーんだ…やっぱり…あなたが大和だったんだね…。やっぱりクズハの思った通りの人だった…会いたかったよ…。」

「うn、俺は会いたくなかった。頼むから帰ってくれないか。」

 聞いてか聞かずか、死神の手が俺の頬をそっと、撫でる。

「大和…運命って信じる?クズハは信じるよ。きっと瑞穂おかーさんが根の国に来たのは運命で、私と大和と結婚して本当の家族になるのも運命だと思うの。だから…殺すね。」

 うん、やはり意味が分からん。コンタクト失敗だ。スッと一息に剣を振り被ったかと思うと、考える間もなくすぐにその腕が振り下ろされた。


ガキンッ!


 しかし振り下ろされた剣は、俺の目の前で壁のようなものに弾かれた。


「そこまでです。大和様を害することは許嫁の私が許しませんよ。キリッ」

「イワナガヒメさん!」

「その剣…なかなかの力を持っているようですが、私の守護壁ならばその剣の斬撃でも何度かは防ぐことができるでしょう。大和様ご安心ください。」

 無表情な彼女だが、今はそれが頼もしい。


「おっと、わらわのことも忘れてもらっては困るのじゃ。小娘、これ以上の狼藉は許さんぞ?」

「オタマ!」

 イワナガヒメさんに負けじと、ずずいとオタマがマーちゃんにまたがり前に出た。


「その尻尾はわにちゃんの化身かなぁ?邪魔をするなら活け造りにしちゃおうかな…。大和はわにのお刺身好き…?」

「知らん。いらない。食べたくない。やめて。」

「うん、その摩伽羅マカラちゃんと一緒に二種盛りにしよう!クズハお料理は得意じゃないけど解体は得意だから!」

「メ~!!!!」

「侮るな小娘!わらわは150万年生きた海の神の娘ぞ!おぬしなぞけちょんけちょんにしてダイオウイカの餌にして海の幸にしてくれるのじゃ!」

 その150万年のうちほとんどは家でぐうたらしてたと思われるが…根拠はわからんがすごい自信だ。


「それに加えておぬしの長物は屋内では存分に振り回せまい!地の利を得たぞ!」

「ふふん。そっちの摩伽羅ちゃんの機動力も生かせないからお相子だよっ!」

「表でやってください。お願いします。」

「もはや血を見るまでは収まらんのう…もちろんその小娘のじゃがな!」

「お料理は屋内でやるものだよっ!」


「覚悟するのじゃ!」「覚悟っ!」

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