第7話 死が二人を結ぶまで

『よかろう。では我が医術の力にて肉体を再生し、反魂の法をもってその子らを呼び戻す。そう時間はかからぬが儀式が済めばお前は我が連れていく。最後の時間を大切にするがよかろう。』

「はい…。二人ともこんなにも冷たくなって…。あなたたちは…生きて。できればもっとあなたたちの側に居たかった。」


『…やっぱりあと少し時間がかかるかもしれんな…。』

「最後まで母さんが手をつないでいるからね…。まだこんなにも小さい手…目を覚ますまで握っていてあげたい…。」


『…おっと、契約手続きに若干時間がかかっているようでもしかしたらそのくらいの時間はあるかもしれん…。』

「冷蔵庫のひき肉の期限がもうすぐだから今夜はあなたたちの大好きなハンバーグを作ってあげたい…。」


『…それはちょっと…。』

「明日の朝ごはんも作ってあげたい…あと毎日の幼稚園の送り迎えと子供会の百人一首大会のお手伝いと来月の豆まきお楽しみ会用の鬼のお面作りと」


『終わり!終わった!さあお前を連れていくぞ、よいな?』

「…ありがとうございます。二人とも、母さんの分まで幸せにね…。寂しい思いをさせてしまうと思うけれど…母さんはあなたたちに生きて欲しい。大好きよ…さようなら…」




「…と、いうわけで二人を助けてもらう代わりに、お母さんは大国主様に連れられて根の国…黄泉の国に行ったの。」

「そうだったのか…。母さんは俺たちの代わりに…。」

「ええ話じゃ…ズビー。」

「そうですね、うるうる。」(無表情)


「お兄ちゃんの死の定めっていうのは?もしかして大国主様に貰った寿命が切れたの?」

「いえ、大国主様の反魂の術を受けた人は、逆に寿命がありえないほどブーストして無病息災、不老長生、滋養強壮、子孫繁栄と良いことずくめだそうなのよ。」

「やったー!」

「俺は全然やったーじゃないぞ…。」


「話には続きがあってね。お母さんは約束通り大国主様のお孫さんの面倒を見ることになったの。やんちゃな子で最初のうちは困ったこともあったけど素直な良い子でね。よく懐いてくれたから『瑞穂おかーさんって本当のお母さんみたい!』ってよく言ってくれたものだわ…。」

「うん、さすが瑞穂だ。」

「いいなー私もお母さんに育ててもらいたかった。」


「それでね…『瑞穂おかーさんが本当のお母さんになればいいのに』って言うようになって」

「うん。」


「そのうち『瑞穂おかーさんを本当のお母さんにするね!』って。」

「うん?」


「『あたしと大和が結婚すれば瑞穂おかーさんが本当のお母さんになるよね!』って。」

「待て。その理屈はおかしい。」


「小さい子の言うことだから、あらあらお母さん嬉しいわー、って言ってたんだけど、どうやら本気だったみたいで…。」

「言うかな…言うかも…。」


「ついこの前『16歳になったからもう大和と結婚できるよね!』って言い出して」

 なんだか嫌な予感がしてきたな…。


「オペレーション『大和を黄泉の国に連れてくる大作戦!』を発動させたの。」

「は?」


「要するに、大和が死ぬように差し向けて、黄泉の国で一緒に暮らそう、ってこと…みたい。」

「サイコかその子は。」

「サイコですね。」

「メ~。」

「こわーい。」

「さすが瑞穂だ。」

「親の顔が見たいのう。」


「つまり、その子は俺を殺そうとしているのか…。」

「そう…なるわね…。ごめんね、お母さんが『瑞穂おかーさんも大和と一緒に暮らせたら嬉しいよね!』って言われて、そうねーとても嬉しいわーなんて答えちゃったから…。」

 そりゃ俺だって母さんと一緒に暮らせたら嬉しい。母さんは悪くない。問題はその子だろう。なんかもうまともに会話ができるかすら怪しい。


「それで、作戦が失敗続きだから、ついに業を煮やしてその子自ら『大和を殺しに行く!』って黄泉の国を飛び出しちゃったの。お母さん心配で、休暇届を出して急いで家に戻ってきたわけ。」


「…」

 もう何が何やらわからない。俺は一体どうなってしまうんだ…。


「大和!今すぐ逃げるんだ!命が危ない!」

「…ハッ、父さん、そうか…でも逃げるってどこへ!?」

「わからない、でもとにかく家は危ない、母さんが来ている以上真っ先にここが狙われるだろう。ここではないどこかへ!」


ぐしゃっ、めりめり、ばりばり、どかーん ぐちゃっ


 突然、玄関の方から何か破壊的な音が聞こえてきた。


「あらあら…あの子ったら…物を壊しちゃダメってあれほど言っておいたのに…。」

「まいったな…瑞穂、次からはインターホンを鳴らすようにとも言っておいてくれないか。」


 インターホンを鳴らしたらどうするというのだこの父親は。

 その時、俺には廊下の足音が文字通り死神の足音が迫っているように聞こえていた。

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