第4話
「――という話がある。前にどこかで読んだ話なんだけど、僕はこの話に……というか、この話の使われ方、見解についてどうも納得いかない部分があって。というのも、この話を一緒に読んだ家族や友人たちは、みんな最後のマジシャンを幸せだって言ったんだよ」
「ん……ああ。あなたはつまり、主人公であるマジシャンを不幸だって言いたいのね? 物語終盤のいかにも幸せそうな地の文に対して、この話を読んだその他大勢に対して、あなたは一人、彼を哀れんでいると」
「うん、公演依頼を蹴って少年の元へと行き、マジックを披露して幸せそうにしている場面のマジシャンは確かに幸せなんだろう。でも、境遇についてはどうだ?」
「境遇? 誰の? マジシャンの、才能はあるけれども何故か仕事に恵まれないという点? それとも少年の、家族間での不和?」
「どっちも違う。マジシャンの、少年との約束の日時とホテル公演の日時とが一致したことさ。これはどうしようもなく不幸なことだろう? もしこの二つの約束の時期が一日でもずれていたならば、彼は仕事という経済的な面や名声的な面で成功し、なおかつ少年のおかげで本当のマジックとは何かということに気付き、精神的な面でも何かを得られていたはずなんだ。しかし彼は不運にもその片方を手放さなくてはいけなくなってしまった。その結果、彼はようやく掴みかけた成功へと続く糸を、自らの手で断ち切った。これを不幸と呼ばず何と言う? 確かにマジシャンは最終的にマジックの本質を悟り、幸せの一端を掴めたかもしれない。しかし彼の境遇は、本当に、どうしようもなく、悲しいまでに不幸だった。そうだろう? つまり、この一つの話はその中に、観点は違えど幸福と不幸とを共に内在させているんだ」
「なるほど……で、あなたはこの世に幸福と不幸とが代表するような、簡単に区別できる二元論のようなものは存在しないと、そう言いたいの?」
「うん。少し話が長くなったけど、言いたかったことはそれ」
彼はフゥーと長く息を吐いて、まだ綺麗な原っぱを見つけてそこに横たわりました。周りは騒がしいというのに暢気な人です。経済悪化やその他諸々による戦争でこうしてここまで送られてきた私たちですが、派遣された軍人が皆彼のようであったなら、私も役目もなしにただ自由に、縛られることなく野原を駆け巡ることができたのでしょうか。
まぁいらない想像です。
私は充分に、今の生活を満喫出来ているのですから。
……。
はい、そうなのです。今の私たちは戦争をしているのでした。さっきから私と様々な雑談をしている彼は兵隊で、そして私はそんな彼らの慰め係であったのです。
そもそも、何故今私たちは戦争を行っているのでしょうか。(※以下省略可)戦争なんてそれこそ生命が時の流れに身を委ねている間にはどこにでも発生して当たり前のように私たちの生活の中にあるものなのですから今この戦争も経済悪化による人民の疲弊というまず一番に挙げられる理由の他にはそれらと同じく何とも陳腐な理由の下行われているわけでしてもしこれが何かしらの物語であるのだとしたらベタすぎていささかのがっかりを味わわれることかと思う次第なのですが一応これが全て創作物である可能性というものを考慮いたしまして不肖この私めが何とも退屈でそれっぽいかといって決して正確でもない(※省略終わり)この戦争というもののそもそもの原因を説明いたしますと、それは領土問題でした。
平和条約を結んだA国とB国。
ある日A国がB国に攻め入って、領土の一部を奪いました。B国は取り返そうと四苦八苦しましたが中々目的の達成は上手く進まず、百年が過ぎました。
そして今、B国が私たちの住むA国、その辺境である元はB国であった土地に戦争を仕掛けてきたのです。
そもそも侵略をしたのは私たちの先祖であって、百年が経った時点で、この土地は、今ここに住んでいる私たちの故郷でもあるんですけどねえ。
どっかーん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます