第十五章 その一 旧帝国軍殲滅

 ジェット機の中で、ディバートはミタルアムと話していた。

「それにしても、ケスミー財団倒産のニュースは、驚きましたよ。まさかそんな方法で、ザンバースに反撃するとは思いませんでした」

 ディバートの絶賛をミタルアムは苦笑いして聞き、

「まァね。ザラリンドが考えた事だよ。私はそれに同意しただけだ」

とザラリンドを見た。彼は笑って、

「法律畑の事しかわからない私にとって、お役に立てるのはそれくらいですから」

 ジェット機は、アイデアルの摩天楼に消えた。


 ニホン列島の警備隊は、空輸された重裝戦車やミサイル搭載トレーラーを駆使し、旧帝国軍に猛反撃を加えていた。いくら旧帝国軍が強大とは言え、完全な軍隊に昇格した警備隊の前では、只の盗賊団に過ぎなかった。彼等は次々に拠点を叩かれ、ニホン列島から脱出し始めた。しかし、警備隊の追撃は留まるところを知らず、ジェットヘリと戦闘機による掃討作戦が展開され、ニホン列島を根城としていた「サスカッチ」は全滅した。

 他方、サハラ砂漠からキリマンジャロ付近にかけて戦闘を繰り広げていた「グハマン」も、ジェットヘリと戦闘機の奇襲攻撃を受け、敗走した。頭領のカサラグ・ドズは、側近と共に地中海の本拠地に戻り、ザンバースに連絡を入れた。ところが、先に「サスカッチ」の頭領であるフランドール・ガジムルがザンバースに抗議していた。

「一体どういうつもりだ、貴様!? 警備隊があんな兵器で仕掛けて来るなんて……。約束が違うぞ」

 連邦ビルの秘密の地下室でザンバースは含み笑いをして罠に嵌められた男の言葉を聞いている。フランドールの怒りが一息ついたのをカサラグが見て取り、

「そうだ! 俺はやっとの思いで地中海に逃げたんだ! 約束を守ってもらいたいものだな!」

と怒鳴る。しかし、ザンバースは表情を全く変えずに、

「約束などした覚えはない。お前達の役目は終わった。歴史と共に消えろ」

と言うと、一方的に通信を切ってしまった。


 フランドールとカサラグは激怒して、態勢を立て直した上で再反撃に出る事にした。しかし、いくら立て直したところで、盗賊は盗賊だった。フランドールの本隊は、東アジア州本土の警備隊の攻撃でたちまち全滅し、カサラグの本隊も、ヨーロッパ州とアフリカ州の警備隊の挟み撃ちに遭い、全滅した。こうして、旧帝国軍は、歴史の中に埋もれて行ったのである。

 ザンバースは、次にシャトールを攻撃させた。シャトールはたちどころに火の海と化し、共和主義者達は散り散りになって脱出した。


 レーアは、居間のテレビを一人で見ていた。旧帝国軍の壊滅が、報道されていた。

「本当に良かったです。どうしてもっと早く警備隊法を改正しなかったのかと思います」

 ニホン地方区の住民が、番組のキャスターの質問に答えていた。

「何言ってるのよ、バカ! とんでもない事が起ころうとしているのよ!」

 レーアはムッとして叫んだ。彼女は、その住民が実はザンバースが仕込んだ「サクラ」なのを知らない。

「ありがとうございました。では、続いてアフリカ州の……」

 キャスターが妙に嬉しそうな顔で話し始めたので、レーアはテレビを消した。

(こんな事していられない。パパに会わないと……)

 彼女は居間を出て、ケスミー邸を離れ、自分の家へと走った。

「婆や、元気かしら?」

 レーアは懐かしい思いを胸に進んだ。

「早く会いたい」

 彼女は必死になって歩道を走った。歩いている人達が、レーアに気づく。皆、口々に何か話すが、彼女に直接声をかける者はいなかった。


 ザンバースは総裁執務室のプライベートルームの椅子に座り、傍らに立つマリリアを見上げた。

「今夜、幹部会議を召集する。全員に伝えてくれ。午後七時だ。場所は地下室。これは絶対に直接伝えろ。本人がいなかったら、改めてかけるのだ」

「はい」

 マリリアはすぐに自分の机に戻り、受話器を取った。ザンバースは手を組んで顎を載せ、

「内容は極秘だ。地下室で発表する。誰にも知られたくないのでね」

 マリリアは黙って頷き、バネルを操作する。彼女はまず、タイト・ライカスのところにかけた。

「補佐官ですね? 今夜七時、地下室で幹部会議を開きます。内容はその時に……。では」

 マリリアは受話器を戻し、再びパネルを操作した。


 レーアは感動の面持ちで自宅の前に立っていた。そして玄関の扉をバーンと開け放ち、中に入った。

「只今! 婆や、婆やはいる?」

 彼女は廊下を大股で歩きながら、叫んだ。マーガレット・アガシムはその声を聞きつけ、階段を降りて来た。

「お嬢様!」

 彼女は目に涙を浮かべ、階段を急ぎ足で降りた。

「婆や、只今」

 レーアはニッコリして言った。マーガレットはレーアにすがりついた。

「お嬢様……。よく、よくご無事で……」

 彼女は泣き出してしまった。レーアは困った顔で、

「ごめんなさい、婆や。いっぱい心配かけてしまって……」

「いいえ、お嬢様がご無事なら、私はそれで満足です」

「ありがとう、婆や」 

 マーガレットはまた泣き崩れた。レーアもとうとうもらい泣きした。二人はしばらく抱き合って泣いてしまい、周囲にメイド達が集まり出した。

「とにかく、旦那様にご連絡しませんと……」

 マーガレットがようやく涙を拭って顔を上げる。するとレーアは苦笑いして、

「あ、いいのよ。私からしておくから。それより婆や、何か美味しいものはない? お腹空いちゃった」

「はいはい、ございますよ」

 二人はキッチンへ歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る