第十四章 その三 破壊の始まり
連邦議会の上院本会議場では、ランドルフ・カッタルケントが、警備隊法改正についての演説を行っていた。
「事は緊急を要するのであります。直ちに、上院と下院で同時に改正の審議に入り、旧帝国軍に対抗すべきです」
ランドルフは議員達の反応を見てほくそ笑んだ。
(手応えあり、だな)
ミタルアム・ケスミーは、彼の右腕であるザラリンド・カメリスと共に、自家用ジェット機でディバート達がいるシャトールに向かっていた。
「今頃ザンバースはさぞかし驚いているだろうね」
ミタルアムは嬉しそうに言った。ザラリンドは操縦桿を握りしめて、
「でしょうね。何しろ、完全に寝耳に水だったでしょうからね」
ミタルアムは前方を見て、
「とにかく、ディバート君達と話し合って、今後の事を決めなくてはならない」
「ええ。ザンバースもいよいよ本格的に動き出すでしょうから」
ザラリンドが言うと、ミタルアムは頷き、
「そうだな」
バジョット・バンジーは、各新聞から、閣僚会議室爆破事件の記事が消えているのを不信に思い、いろいろと調べていた。
(どうも妙だ。閣僚会議室の事件を、まるで忘れさせようとしているようだ)
彼は考え事をしながら、舗道を歩いていた。その彼を、暗殺団の一人が木陰からライフルで狙っていた。
「連邦警察に行ってみるか」
バンジーが思い直すように踵を返した時、銃弾が発射され、彼の右胸を貫いた。
「ぐはっ!」
バンジーは胸を真っ赤に染めて地面に倒れ伏した。通行人達が立ち止まり、バンジーを囲んだ。暗殺団の男は素早くその場から立ち去ってしまった。
「すぐに病院に運びます。手伝って下さい」
事件の一部始終を見ていたケラル・ドックストンが野次馬に分け入った。彼は何人かに手伝ってもらい、バンジーを自分の車に乗せ、病院へと向かった。
レーアとクラリアは、テレビのニュースを見ていた。旧帝国軍の攻撃が次々に都市を破壊している映像が流されている。
「酷いわ。何であんな事をするの?」
レーアが堪りかねて叫んだ。クラリアは頷いて、
「そうね。人間として、最低の行為だわ。無抵抗の人々を攻撃するなんて……」
画面の戦闘は、激烈を極めており、レーアは恐ろしくなってテレビを消してしまった。
「どうして人間同士が戦うの? 殺し合うの?」
「レーア……」
クラリアは泣き叫ぶレーアを抱きしめた。
(可哀想に……。疲れているのね、レーア)
ケラルは、ある病院の手術室の前で、執刀医と話していた。
「貴方の応急処置が素晴らしかったので、患者も助かりました。礼を言います」
「とんでもない。昔、軍隊で軍医に教えられた荒療治ですよ」
ケラルは運ばれて行くバンジーを見ながら、
「彼はどれくらいで意識を回復しますか?」
「そうですね。三日はダメでしょう。完全に隔離して、治療に当たりますので」
執刀医は歩き出して答えた。ケラルも彼を追いかけながら、
「そうですか。では、彼の意識が回復したら、ここへ電話を下さい」
彼は名刺を渡した。医師はそれを受け取って、
「ザンバース・ダスガーバン氏の邸の執事の方なのですか。こりゃ驚いた」
と立ち止まった。ケラルはそれに頷いてみせた。
「わかりました。意識が戻ったら、すぐにご連絡致しますよ」
「よろしくお願いします」
ケラルは病院を立ち去り、ザンバース邸に帰った。外はすでに夕闇に包まれていた。
翌日、スピード審議された警備隊法「改正」案が可決され、即日施行された。それにより、ザンバースはリタルエス・ダットスに武器購入を命じた。バトルフィールドファクトリーとコンバットカンパニーの両軍需産業から、大量の兵器が供給され、すぐ戦場へと運ばれた。
「フランドールとカサラグは用済みだ。構う事はない。双方共、全滅させろ。一人残らず殺せ」
ザンバースはプライベートルームのテレビ電話に映るダットスに言った。
「わかりました、大帝。吉報をお待ち下さい」
「うむ」
ダットスは敬礼して消えた。ザンバースはニヤリとした。
他方、ミタルアム・ケスミーとザラリンド・カメリスは、シャトールでディバート達との会談を終え、ディバート、リームの二人と共に連邦の首都アイデアルに向かっていた。
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