第十三章 その三 二人の野心家
「お久しぶりね、レーア」
ステファミーが戻って来たレーアに改めて言った。アーミーは微笑んで、
「元気だった?」
レーアはその言葉に涙ぐんでしまった。
「ええ。みんなも元気そうで良かったわ」
タイタスがドッカとソファに座って、
「何だよ、レーア、さっきの格好の方が良かったのに、そんな長いスカート履いたら、つまんないぞ」
「エッチ」
レーアはそれでも嬉しそうに言った。イスターが、
「レーア、やつれたんじゃないか? 頬が
「私、元々痩せてるからね」
レーアは苦笑いした。タイタスが、
「だから胸は今でも小学生だよな」
「タイタス、うるさい!」
レーアはタイタスの頭をゴツンと殴った。
「いてっ!」
二人はいいコンビね、とクラリアは思って笑う。
「いいなァ、レーアは。私なんか、毎日ヘルスメーターと睨めっこよ」
アーミーが羨ましそうに呟く。するとそれを聞きつけたステファミーが、
「アーミーは太ってないじゃん」
クラリアもそれに同意して、
「そうよ。アーミーは顔が丸いから、損なだけよ」
「そうかなあ」
否定するような言葉を口にしながら、アーミーはニヤけている。
「そんな下らない事、どうでもいいじゃんよ」
空気を読めない事にかけてはクラス一のタイタスがやってしまう。アーミーはキッとして彼を睨む。
「下らないって、どういう事よ、タイタス?」
「そうよ、随分とキッパリと言ってくれるわね」
ステファミーも参戦して来た。タイタスはたじろいで、
「いや、その、別に俺はね、喧嘩しようって訳じゃなくてね……」
「女の子にとって、容姿って言うのは凄く気になる事なの! それを下らないなんて、よく言えたものね!」
アーミーはプウッと頬を膨らませた。タイタスはイスターを見て、
「おい、助けてくれ、イスター」
と言ったが、イスターは巻き添えを恐れたのか、
「今のはお前が全面的に悪い」
更にステファミーが追撃に入る。
「貴方だって、大した顔でもないくせに、偉そうなのよ。自分の顔、鏡で見た事ないの?」
「ひでえなあ。俺は別にアーミーが不細工だとか、ステファミーが醜いとか言ってないぞ」
「今言ったじゃない!?」
二人がタイタスに詰め寄る。タイタスは冷や汗を流して弁解しようとしたが、遂に二人に懲らしめられてしまった。
「畜生、どうしてこんな事になっちまったんだ?」
タイタスが涙目で言うと、レーアはニヤリとして、
「普段の行いが悪いからよ」
タイタス以外の全員が、大笑いをした。
ミケラコス財団の総帥ナハル・ミケラコスは、連邦ビルの五十階にある総裁執務室で、テーブルを挟んでザンバースと対峙していた。小柄でズングリとしたナハルと、大柄でがっしりしたザンバースは好対照だ。
「話の本題に入ってもらおうか、ミケラコスさん」
ザンバースは煙草を灰皿にねじ伏せて言った。ナハルはザンバースのその動作を見たままで、
「君の腹は読めとるよ、ザンバース君。君は私を抱き込んで、帝国を復活させようとしている。しかし、私を抱き込む事はできない」
その時、隣の部屋からマリリア・モダラーが紅茶をトレイに載せて現れた。ナハルはマリリアの会釈に応え、カップを取り、一口飲んだ。
「私にも意地がある。君の兄エスタルトに踏みつけにされた事を私は忘れてはいない。あくまで、私は君から離れた所で、君を援助する事にしたい」
するとザンバースはニヤリとして、
「なるほど。私の風下に立ちたくないという事か。別にそれならそれでいいがね」
ナハルはカップをテーブルに戻し、ザンバースを睨む。
「君はこの私を甘く見ているようだな。老いたりとは言え、ミケラコス財団を一代で築き上げた男だ。君如きに負けはしない」
「ほォ。そういう事か。ミケラコスさん、あんたはドッテルより頭が悪いな」
ザンバースはフッと笑った。
「何!?」
ナハルにとって、ドッテルと比較される事は何よりの屈辱だ。しかも、自分がドッテルより劣ると言われたのだ。彼は立ち上がり、
「それはどういう意味だ!?」
ザンバースはナハルを見上げて、
「ドッテルは、私と争うつもりはないと言った。それなのに、あんたは私と争う事を望んでいる。だからあんたはドッテルより頭が悪いと言ったのだ」
ザンバースは事も無げに言ってのけた。ナハルは拳を握りしめた。ザンバースはそれに気づいたが、別に気にも留めない。
「どうしようとあんたの自由だが、バカを見るのはあんたの方だという事を忘れないようにな」
ナハルは
「良かろう。私が頭が悪いのか、アジバムが頭が悪いのか、そのうちはっきりするだろう」
ナハルの言葉に、ザンバースはニヤリとしただけだった。
レーア達は、キッチンで楽しく夕食を摂っていた。ミタルアムも帰宅し、皆と気さくに話をしていた。
「でも、タイタス、貴方、本当によく食べるわね」
クラリアが呆れて言う。するとレーアが、
「そんなに食べるのに、身長は伸びないのよね」
「う、うるさいよ!」
一番気にしている事を、一番言って欲しくないレーアに言われ、タイタスは泣きそうだったが、何とか堪えていた。レーアは大笑いしていたが、
(こんな楽しい食事、次はいつできるのだろう?)
そして、ディバート達がどうしているのか、思いを巡らせた。
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