第十章 その三 ディバートの苛立ち
レーアは、クラリアからクラスの様子を聞き、郷愁を募らせていた。
「やっぱり、行きたかったなァ、学校。男子達、私の顔が見られなくて、みんな寂しがってたでしょ?」
レーアがサラッと言ってのけたので、クラリアは呆れ顔になり、
「まァね。特にタイタスなんて、日に日にやつれているわよ」
「あら、そうなの?」
タイタス・ガットはレーアの代返要員だったから、彼女も心配になった。
「そろそろお父様が帰って来るわ」
クラリアが机の上の時計を見て言った。
「リビングルームに行きましょうか、レーア」
「はいはい」
レーアは、クラリアの事を「ファザコン」だと思っているが、クラリアが知れば、レーアこそ筋金入りのファザコンだと言うだろう。
二人がリビングルームに行くと、ミタルアムが帰って来た。
「お父様、お帰りなさい」
クラリアが笑顔で言う。
「おじ様、お帰りなさい」
レーアも負けずに笑顔で言う。ミタルアムは二人を見て、
「只今。美人が二人で迎えてくれるとは、非常に光栄だね」
と微笑んだ。レーアとクラリアは顔を見合わせて、クスッと笑った。ミタルアムは部屋の隅にあるバーカウンターに歩み寄ると、グラスと瓶を取り出した。そして、レーアを見て、
「ああ、そうだ、レーア君。ディバート・アルター達のいるところを知りたいかね?」
レーアはビックリしてミタルアムを見た。彼の口からディバートの名前が出るとは思っていなかったからだ。ミタルアムはハイボールを作りながら、
「どうかな?」
レーアは苦笑いをして、
「ええ、まァ……。それで、ディバート達はどこにいるんですか?」
「シャトールだよ。アイデアルから西へ五百キロほど行ったところにある、小さな町だ。別名『共和主義者の町』と呼ばれている」
「シャトール、ですか……」
レーアは力なく言った。
(そんな遠くに行っているなんて……。パパの弾圧が激しかったからかしら?)
翌日、ザンバースは何の前触れもなく、帝国幹部会議を招集した。
「警備隊の特殊部隊を月面基地に派遣する。すぐに準備に取りかかれ」
彼は議長席でリタルエス・ダットスに命じた。ダットスは表向きは連邦警備隊本部の本部長の任にあるので、ハッとした。
「どういう事でありますか、大帝?」
「別にお前が驚く事はない。月面支部を破壊するという『赤い邪鬼』からの予告通信が入ったのだ。特殊部隊はそれを阻止するために月面支部へムーンシャトルで向かう。出発は本日正午。すぐに取りかかれ」
「は、はァ……」
ダットスは慌てふためいていた。ザンバースから事前に何も知らされていなかったので、自分が粛清されるのではないかと思ったほどだ。
「それから、デーラ」
ザンバースは次に帝国破壊工作部隊司令であるヤルタス・デーラを見た。
「はい」
デーラは
「旧帝国軍の連中が欲しがっていた毒ガスだが、提供するのは中止する。連中にはエサになってもらう」
「エサ、でありますか?」
デーラは探るような目でザンバースを見た。ザンバースはニヤリとし、
「そうだ。連中もいつかは邪魔者になる。芽は早いうちに摘み取っておいた方がいいからな」
「わかりました。それで、理由はどうすればよろしいですか?」
デーラは恐る恐る尋ねた。ザンバースはキッとして、
「何とでも言っておけ。そのせいで連中が怒ってくれれば、三文芝居をするより事が運びやすくなる」
ザンバースの言葉に、幹部達は背筋が寒くなる思いをした。
ディバートは相変わらず、苛ついていた。リームが、
「そんなに気になるのか、ディバート?」
と笑いながら言ったので、ディバートは余計イライラして、
「気になるって、何がだよ!?」
と怒鳴った。リームはますます笑って、
「レーアの事さ」
「レーア? どうして俺が、レーアの事を気にしなくちゃならないんだよ?」
ディバートは更にヒートアップする。リームは肩を竦めて、
「お前、彼女に惚れちまったんだろう? そう顔に書いてあるぞ」
レーアが聞けば、大喜びしただろう。しかしディバートは、
「バ、バカなことを言うな! 誰があんな跳ねっ返り女、惚れたりするか……」
と否定した。口ではそう言ったディバートであったが、顔は真っ赤になっていた。怒りではなく、恥ずかしさでだ。リームはニヤリとして、
「そうムキになるなよ、ディバート。レーアは美人だし、賢いし、いい子じゃないか。何よりの証拠に、女性不信のお前が惚れたんだから、本当に素晴らしい子なんだよ」
ディバートはムスッとしたまま、リームから顔を背けた。
レーアはクラリアの部屋で、一人でテレビを見ていた。ちょうどニュースでムーンシャトルの緊急発射を中継していた。
「ムーンシャトルには、十人の警備隊特殊部隊のメンバーが乗り込んでいます。果たして『赤い邪鬼』の月面支部破壊予告を阻止できるのでしょうか?」
テレビのキャスターが言った。レーアはビクッとした。
「何言ってるのよ、そいつらが赤い邪鬼なのよ! そいつらが!」
彼女は聞こえるはずもないのに、バカな事をほざいているキャスターに怒鳴った。
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