第八章 その二 再会 父と娘

 ディバート達はアジトの入口の前に来ていた。ディバートがベルトのバックルを操作すると、まず壁がずれ、徹の扉が開き、更に入口のドアが現れた。

「さ、早く中へ」

 リームが周囲を警戒しながら、カミリアを促す。カミリアは俯いていたが、

「ええ……」

と力なく答え、ドアに近づいた。ディバートが先に立ってドアを開き、カミリアを通す。リームはもう一人のパルチザンを先に入らせようと後ろを見たが、何故か姿がない。

「あいつ、どこに行ったんだ? 確かさっきまでそこにいたはずなのに……」

 そこへディバートが戻って来た。

「どうしたんだ?」

「もう一人がいないんだ。さっきまでここにいたんだが……」

「何だって?」

 ディバートは仰天した。そして中に入ったカミリアを見て、

「カミリア、あの男は、君が一緒に来るように言ったのか?」

 カミリアはどうしてそんな事を、という顔で、

「違うよ。自分から志願したんだ」

と言いかけ、ハッとした。

「まさか!?」

 ディバート達は顔を見合わせた。

「あいつがスパイだったんだ。ここの場所がわかってしまうぞ」

 ディバートが言った。カミリアは震え出して、

「スパイ? それじゃあ、あいつが私達のアジトの場所を?」

「そうに違いない。早く捕まえないと、大変な事になるぞ」

 ディバートは焦っていた。リームも顔色が変わっている。

「私が行く」

 カミリアが地下道に戻ろうとした。

「カミリア?」

 ディバートはカミリアの意外な行動に一瞬反応できなかったが、

「いや、今君を行かせるのはあまりに危険だ。俺が行く」

と押し戻した。

「行かせてよ! あいつ、私がこの手で……」

 カミリアは泣いていた。

「トレッド達の仇なんだよ! だから、行かせて!」

 彼女はディバートを押しのけようとした。

「ダメだ! 私怨で動くのは一番危ないんだ。君はここにいろ」

 ディバートはリームを見て、

「カミリアを頼む。何をするかわからないから、目を離さないでくれ」

「わかった」

 リームは抵抗するカミリアの両腕を掴み、

「さァ、中に戻るんだ、カミリア」

「行かせてよ、お願いよ!」

 カミリアは泣きながら叫び続けたが、リームは彼女を強引に奥へと押しやり、隠し扉を閉じた。

「さてと」 

 ディバートはそれを確認すると、走り出した。


 ザンバースは、総裁執務室の私室のテレビで、レーア救出のニュースを見ていた。

「レーア嬢は警備隊員達により、急進派の組織から救出されました。ザンバース・ダスガーバン総裁代理は、彼等の功績を讃え、明朝表彰式を行う事を発表しました。レーア嬢救出を足がかりに、連邦警察と警備隊は、合同で急進派のレーア嬢誘拐犯逮捕に全力を上げる事を宣言しました」

 テレビの女性アナウンサーが冷静な口調で伝える。ザンバースはフッと笑った。

「次のニュースです。レーア嬢救出の朗報に対して、またしても『赤い邪鬼』による急進派の虐殺事件が起こりました。警察の捜査によりますと、殺された急進派のメンバーは、『赤い邪鬼』との銃撃戦で死亡した者、『赤い邪鬼』の仕掛けた爆弾で爆死した者がいるとの事で、『赤い邪鬼』という組織が、爆弾製造にも精通しているテロリスト集団と目されています」

 ザンバースはリモコンでテレビを消した。彼はシガーケースから葉巻を取り出し、ライターで火を点けた。インターフォンからマリリアの声がした。

「お嬢様がお着きになりました」

 ザンバースは葉巻を灰皿でもみ消し、

「わかった。こちらに通せ。二人で話がしたい」

「はい」

 まもなく、マリリアとライカスがレーアを押えつけるようにして連れて来た。レーアはザンバースを見ると悲しそうな顔になり、涙をこぼした。ザンバースは目配せして、ライカスとマリリアを退室させた。ザンバースは優しく微笑み、

「しばらくだったな、レーア。元気そうで何よりだ」

 レーアは涙を拭いながら、ザンバースを見た。

「まァ、座れ」

 ザンバースはソファに腰を下ろした。レーアは黙ったままでその向かいに座った。

「気に入らんな。シャワーを浴びて来い。それにその制服も取り替えろ」

 ザンバースはレーアをしげしげと眺めてからそう言った。

「シャワーは浴びるわ。さっぱりしたいから。でも、この服は取り替えない」

とレーアは言い返した。ザンバースは、レーアが初めて自分に反抗したので、ニヤリとした。

「どうしてだ?」

 彼はレーアの顔を覗き込むようにして尋ねる。レーアはプイと顔を背けて、

「気に入ってるのよ。暑苦しくないし、軽いし。飛び回っても、形崩れしないし」

「ほォ」

 ザンバースは感心したように頷き、

「わかった。好きにしろ」

 レーアはザンバースに目を向けて、

「私、前からパパに訊きたい事があったの」

「何だね?」

 ザンバースは余裕の笑みを浮かべて尋ね返す。

「パパが、伯父様を殺したの? 直接、間接を言ってるんじゃないわ」

 レーアはキッとしてザンバースを睨んでいる。ザンバースは目を細めて、

「とにかく、シャワーを浴びて来い。着替えなくてもいいが、その服も一度洗え。その間はバスローブでも着ていろ」

 レーアは黙ったまま立ち上がる。

「シャワールームはそのドアの向こうだ」

 ザンバースがそう言って指差すと、レーアはそのドアに駆け寄り、勢い良く開き、中に入ると、勢いよく閉じた。ザンバースはその様子を見て、フッと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る