第七章 その三 レーアの帰還

 トレッド達の命を奪った爆発は収まりつつあったが、地上にまで及んだそれは、大混乱を巻き起こしていた。幾台もの消防車が出動し、幾台もの救急車が走り回った。地上にもまた、地獄が展開していたのだ。しかし、レーアはそれを知らない。 


 レーアは装甲車が動き出した振動でようやく目を覚ました。そして何故か自分がフカフカのベッドで寝ているのに気づき、ビックリして飛び起きた。

「えっ? ここはどこ?」

 周囲を見回す。すると隣のパートからミッテルムが入って来た。途端にレーアの戦闘力がアップする。ミッテルムはレーアの戦闘力など意に介していない様子で、

「ここは連邦警察の装甲車の中ですよ、お嬢様」

 レーアはミッテルムを睨みつけて、

「どういう事?」

理由わけは話すと長くなりますので、敢えて申し上げません。とにかく、お嬢様には、大帝と会っていただきます」

「大帝?」

 レーアはキッとしたままで尋ねる。ミッテルムはフッと笑い、

「お父上ですよ」

 レーアはその言葉に衝撃を受けた。

(パパってば、何なのよ……。大帝だなんて、それじゃあまるで……)

 歴史の教科書でしか見た事がない曾祖父アーマン・ダスガーバンと祖父アーベル・ダスガーバンと同じだ。そう思った。

「父と?」

「そうです。それは大帝のご希望でもあります」

 レーアはディバート達の事を思い出した。

「ディバート達はどうなったの?」

 恐る恐る、探るように尋ねた。ミッテルムは小窓から外の夕焼けを眺め、

「逃げたようです。まだ最終的な報告は入って来ていませんが」

「何故貴方達はディバート達を捕まえようとするの? あの人達が何をしたって言うのよ?」

 レーアの問いに、ミッテルムは彼女を見て、

「前にも申し上げました通り、奴らは大帝のお命を狙っているのです。国家の転覆を謀る輩を放置しておく訳には参りません」

 レーアはその答えにムッとして、

「国家を転覆させたのは、どっちよ!?」

と言い返した。しかしミッテルムはニヤリとしただけで、何も言わない。

「貴方は、この前私に会った時、言ってたわね。正しいのは自分達で、ディバート達が危険な存在だって。それが本当なのかどうか、今半分だけわかったわ」

 レーアは厳しい表情で言った。

「半分? それはどういう意味ですか?」

 ミッテルムはさも興味があるという顔で尋ねる。レーアはその狡賢そうなミッテルムの顔に唾を吐きかけてやりたくなったが、何とか堪え、

「貴方達は正しくないって事がわかったのよ。ディバート達が危険な存在かどうかはまだわからないけど……」

「ははァ、なるほど」

 ミッテルムは感心したフリをして言った。レーアはそれにも苛ついた。

(このハゲ親父、いつかぶっ飛ばす!)

 レーアはそう決意した。

「しかし、その危険な存在であるというのは、撤回致しますよ」

「えっ?」

 ミッテルムの意外な言葉に、レーアはキョトンとした。

(何言ってるのよ、このハゲは?)

 ミッテルムは自分がレーアに「ハゲ」呼ばわりされている事など全く知らないので、ニヤリとした。

「ディバート・アルターなぞ、恐るるに足りません。何しろ、連中の後ろ盾となっていると思われるケスミー財団は、二十日後に施行される財閥解体法と、財産所有関係法で崩壊しますからね」

 ミッテルムはまた狡猾な顔になった。レーアはその言葉の意味を理解し、仰天した。

「そんな……」

 親友であるクラリアの顔が浮かぶ。

(クラリア、貴女、この事を知っているの?)

 レーアはもう一度ミッテルムを睨んだ。

(このハゲ狸!)

 狸に「昇格」してしまったミッテルムである。

「あんた達のやっている事、最低よ」

 レーアは悔し紛れに言った。ミッテルムはパートを出て行きながら、

「それはどうも。光栄です、レーアお嬢様」

と皮肉を言った。

(ぶっ飛ばすだけじゃ気がすまない! 残った髪の毛を全部むしってやる!)

 レーアは新たな誓いを立てた。

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