第七章 その二 更なる虐殺

 自分達が悪戯しようとしていたパルチザン隊の女が、もしかするとザンバースの愛娘レーアかも知れないと気づき、暗殺団の隊員達は焦っていた。

「バカヤロウ、誰だよ、目の保養だとか言い出したのは?」

 今度は罪のなすり合いだ。

「うるさいよ。貧乳だとか言って、この子の事、バカにしてたろ?」

「そんな事言ってねえよ」

 自分が言い出しっぺではないという争いは醜い。彼等は罵り合いながら、侵入した場所へと進んだ。そこは地下道の横壁が地上に剥き出しになっている数少ない場所である。外は夕暮れ時で、辺りは夕日で赤く染められていた。そして侵入のために開けられた穴の前には、連邦警察の装甲車と警備隊の武装車が止まっていた。

「長官、首領」

 隊員の一人が呼びかけた。ミッテルム・ラードとドードス・カッテムが近づいて来た。ミッテルムが、

「どうした? ディバート・アルターとリーム・レンダースには逃げられたのか?」

「いえ、それは隊長達が……。自分らは、この女性を……」

 先程とは扱いが違う。レーアはパンツ丸見え状態から一変し、お姫様だっこをされていた。

「むっ?」

 ミッテルムとドードスはレーアに気づいた。隊員は苦笑いして、

「あのォ、まさかとは思うのですが、この女性はもしかして?」

「もしかしなくても、大帝のお嬢様だ」

 ミッテルムからの答えに隊員達の血の気が引いた。

(殺される……。俺達は大帝に殺される……)

 膝が震えて来る。ドードスは隊員達の慌てように気づき、

「早く装甲車にお連れしろ。くれぐれも失礼のないようにな」

「は、はい!」

 ドードスはミッテルムに、

「あのバカ共、お嬢様に何かしたのかも知れませんね」

と耳打ちした。ミッテルムはニヤリとして、

「まァ、ご本人から何か告げられない限り、不問に付せばいい」

「はい」

 ドードスはミッテルムから離れながら、

「スケベハゲ親父が」

と罵った。ミッテルムは整列した警備隊員を見て、

「ダットス長官からの指示は聞いているな? 暗殺団の救援に向かい、パルチザン共のアジトがあったら、ヤルタスから受け取った特殊爆弾で吹き飛ばせ。暗殺団の遺体があったら、処理しろ」

「はっ!」

 五人の警備隊員は、暗殺団の隊員達が出て来た穴から中に入って行った。


 ディバート達は、前方から明かりが迫って来るのに気づいた。

「誰か来るぞ」

 彼は全員を止まらせた。リームが、

「奴らが戻って来たんだろうか?」

「わからない」

 ディバート達は途中にあった別の通路へと逃げ込んだ。明かりは次第に近づいて来て、その主の姿が判明した。それは警備隊員だった。

「警備隊だ」

「何だって? まずいな」

 トレッドが呟く。ラミスが、

「警備隊の隊員服は、防弾だ。俺達の銃では、気絶もさせられない」

「とにかく、戦力が違い過ぎる。レーアの事は後で考えよう。今は奴らと鉢合わせしないようにするのが先決だ」

 ディバートの指示で、一同は元来た道を引き返した。


 しかし、警備隊員達は、対人レーダーを装備していた。

「付近に敵の気配だ。追うぞ」

 警備隊のチーフが指示する。

「了解です」

 五人はディバート達を追った。ライトが地下道のあちこちを照らし、影が亡霊のように動く。


「手持ちの武器では心許ないな。俺とラミスで、アジトに戻って、武器を調達して来る」

 トレッドが提案した。ディバートはあまり乗り気ではなかったが、

「わかった。俺達は俺達のアジトに戻る」

 彼等は二手に分かれて走り出した。トレッドとラミスは銃を構え、地下道を進む。

「この先に暗殺団の連中がいる。一気に片づけて、武器を探し、ディバート達のところに行くぞ」

「わかった」

 二人は角に来て立ち止まった。明かりが見えたのだ。

「奴ら、こんなところまで来ていたのか。意外に早かったな」

 ラミスが舌打ちする。トレッドは腰のベルトから手榴弾を取り出し、

「こいつでどこまでやれるかだな」

 彼はピンを引き抜いて、明かり目がけて投げた。その直後爆発が起こり、悲鳴が聞こえた。

「よし!」

 二人は角を曲がって暗殺団の遺体を確認した。

「おい、四人しかいないぞ。七人いた気がするんだが?」

 ラミスがトレッドを見た。トレッドは考え込み、

「ああ。逃げたか、二手に分かれたか、だな。とにかく、武器を取りに行こう」

「わかった」

 二人は残りの暗殺団に会う事もなく、アジトに戻った。中は真っ暗で、どこがどうなっているのかわからない。

「ライトを点けてくれ。これじゃ何も探せない」

「ああ」

 ラミスがライトを点けると、そこは地獄絵図のような状態だった。砕け散った壁の下敷きになった者。銃弾で蜂の巣にされた者。とレッドは遺体から目を逸らし、奥の武器庫に行った。一方ラミスは生存者がいないか確認して回った。


 その頃、五人の警備隊員達は、ディバート達とトレッド達が別れた角に辿り着き、トレッド達が行った方へと進んでいた。そして次の角を曲がり、四人の暗殺団の遺体を発見した。

「リビック、お前はこいつらの遺体の処理をしろ。後の三人は俺について来い。奴らがここを通ったのは間違いない」

 警備隊のチーフは言った。


 ディバート達は、警備隊員が追って来ないのに気づいた。

「連中、トレッド達の方に向かったのだろうか?」

 リームが言うと、ディバートは、

「嫌な予感がする。行ってみよう」

「わかった」

 四人は来た道を戻った。


 ディバート達は遅かった。すでに警備隊員達は、アジトから漏れる明かりで、トレッド達の存在に気づいていたのだ。

「デーラ司令から頂いた特殊爆弾をよこせ。あの入口の穴に向けて撃ち込む」

 チーフが指示する。彼は爆弾を受け取ると、バズーカ砲のような砲身にそれを取り付け、構えた。

「発射!」

 特殊爆弾が壁の穴に飛び込んだ。

「退け」

 彼等はそれを確認すると。その場から離れた。


「そうか、生存者なし、か」

 トレッドとラミスは、爆弾が撃ち込まれた事に気づかなかった。

「出よう。これだけあれば何とかなるだろう」

 二人はリュックサックいっぱいの武器弾薬を背負い、出口に歩き出した。その時、特殊爆弾が爆発した。トレッドとラミスは何が起こったのかわからなかった。二人は爆風で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて絶命した。その時の衝撃で、二人の背中の武器弾薬が誘爆し、凄まじい爆発が起こった。


「な、何だ?」

 これには警備隊員達も仰天した。

「何だ、一体? あの爆弾は、破壊力は小さいが、毒ガスを発生させるものだと聞いていたのに……」

 チーフは焦っていた。すると隊員の一人が、

「どうやら、地上にまで爆発が及んだようです。引き上げた方が良いようです」

「そのようだな」

 チーフは隊員達を見て、

「赤い邪鬼の旗を置いて行くのを忘れるなよ」

「はっ」

 四人はその場から走り去った。


「何だ、今の爆発音は?」 

 リームが言った。カミリアが、

「まさか、トレッド達が?」

「とにかく急ごう」

 ディバートは走り出した。リーム達もそれに続いた。

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