第七章 その一 乱闘
ディバートとリームは、顔を見合わせたままだ。
「どうする?」
リームの問いかけにディバートは、
「奴らの出方を見守るしかない。レーアがザンバースのところに連れて行かれれば、きっとあらゆる手段で彼女の記憶を探り出そうとするだろう。我々のアジトは、断じて知られるわけにはいかない」
「そうだな」
二人は暗殺団の隊員達を睨んだ。
「レーアを助けるには、どうすればいいかな?」
トレッドがカミリアに尋ねた。しかしカミリアは、
「あんな女、助ける必要なんてあるの?」
とつれない。しかしラミスは、
「でも、レーアがザンバースのところに戻ったら、まずい事になるんじゃないか?」
トレッドはその言葉に頷き、
「そうだ。だから俺はそれを心配しているんだ。彼女はパルチザンの各隊のメンバーの顔を随分見ている。レーアが連れ帰られると、何らかの方法で彼女の記憶から我々の情報を引き出す事が考えられる」
カミリアは吐き捨てるように、
「だったら、ここであの女を殺せばいいのよ!」
と言い放った。トレッドがカミリアを睨んだ。カミリアはプイと顔を背ける。
「じゃあ、お前が敵に捕まったら、同じようにしていいんだな?」
トレッドは冷静な口調で尋ねた。カミリアはさすがにギョッとした。
「ディバート・アルター、リーム・レンダース。出て来い。出て来ないと、この女を使って、貴様らの組織を暴き出すぞ」
第一隊の隊長が挑発する。
「やはりそう来たか」
ディバートは歯ぎしりした。
「うって出よう」
彼は決断し、リームを見る。リームは目を見開き、
「レーアは大丈夫か?」
「大丈夫だろう。奴らの本当の狙いは俺達のはずだ」
二人は頷き合い、飛び出した。第一隊の隊長がそれに気づき、
「二人を捕えろ。首領のところに連行する」
と命令した。二人の隊員がディバートとリームに近づき、手錠をかけた。ディバートはリームに目配せした。リームは頷き、隊員を見てニヤッとした。その隊員は、リームがバカにしたと思い、
「貴様、何がおかしい!?」
と怒鳴った。第一隊の隊長が、
「何を騒いでいる?」
その時である。ディバートの考えが通じたかのように、トレッドが飛び出して来て、隊長を撃った。
「ぐわっ!」
隊長はその衝撃で倒れた。第二隊の隊長がトレッドに銃を向けた。しかしラミスの方が早く、第二隊の隊長も肩を撃ち抜かれて倒れた。
「その女を奪われるな! 行けっ!」
第一隊の隊長が叫ぶ。レーアを担いでいた隊員は、
「はっ!」
と二人の隊員と共に走り出した。残ったのは負傷した二人の隊長と、五人の隊員である。ディバートとリームも、その混乱の隙に二人の隊員を倒し、隊長のところに走る。これだけすむのに十秒とかからなかった。
「止まれっ!」
もう二人の隊員がディバート達に銃を向ける。ラミスがその連中に銃を向けると、トレッドが、
「よせ! 二人いっぺんには倒せない!」
と制止した。彼は駆け去って行く隊員達を見て、
「もう当たらんな、あの距離では……」
結局事態は新しい局面を迎える事はなかった。三人の隊員は、闇の向こうに消えてしまった。
「さァ、お前達も銃を捨てろ」
第一隊の隊長が止血をしながら立ち上がる。トレッドとラミスは目配せして、銃を捨てた。第二隊の隊長も立ち上がり、
「二人共、こっちに来て壁に向かって両手を着け」
と怒鳴る。彼は銃で撃たれた肩を擦りながら、
「さっきの礼はきっちりさせてもらうぞ」
と呟いた。ディバートとリームは言われた通りに壁に向かい、両手を着いた。
「ぐうっ!」
第一隊の隊長が、ディバートとリームの腹に膝蹴りをした。二人は悶絶して、膝を着いた。
「格好の獲物だ。連れて行くぞ」
第一隊の隊長は隊員達にディバート達を拘束させた。
(カミリア、どこだ?)
トレッドは辺りを窺った。暗殺団は、カミリアの存在に気づいていないのだ。
「さァ、歩け」
ディバート達は、地下道を歩き始めた。
(カミリア、お前って奴は……)
トレッドは、カミリアが動く気配がないので、がっかりしていた。するとその時、ラミスが目配せした。どうやらカミリアは、もう一人のパルチザンと共に動き出したらしいのだ。
(まだチャンスがあるのか?)
トレッドは歩きながら考えた。
「待ちな!」
カミリアがもう一人のパルチザンと銃を構えて飛び出して来た。第一隊の隊長がせせら笑い、
「まだいたのか、バカが?」
暗殺団は、一斉にカミリア達を見た。その時、ディバート、リーム、トレッド、ラミスの四人は、カミリアが構えている銃が何なのかすぐに気づいた。第一隊の隊長が命令を出そうとした瞬間、カミリア達は銃を撃った。その銃弾は地下道の天井に当たり、強烈な光を放った。
「くそう!」
何の備えもしていなかった暗殺団は完全に視力を失い、ディバート達にあっさりと倒されてしまった。ディバート達は銃で手錠を壊してもらい。走り出す。
「追うんだ! ディバート・アルターだけでも捕えろ!」
第一隊の隊長が叫んだが、誰も動ける者はいなかった。
「レーアがザンバースのところに連れて行かれると、俺達にとってダメージは計り知れない。何としても助けるんだ!」
ディバートは地下道を全力で走りながら叫んだ。
「どっちへ行ったかは、こいつが教えてくれる」
リームは腕時計を見ながら言った。
その頃、レーアを担いで逃げた隊員達は、彼女の制服のスカートが捲れているのに気づき、
「おおお」
と感動して立ち止まっていた。バカ者達である。
「連中は追って来ないよ。しばらく、目の保養でもしようや」
中の一人がとんでもない事を言い出す。
「いいねえ。よく見るとこの女、若いし、可愛いぜ」
ライトで照らす隊員が言った。
「あのさ」
もう一人が言い出す。
「何だよ? 今忙しいんだ」
別の隊員は、必死でレーアの制服を舐め回すように見ている。
「胸は小さいけど、顔は上物だぜ」
「お前、巨乳好きだもんな」
本当にこいつらは暗殺団なのかどいうくらい、調子に乗っていた。
「あのさ、この女、見た事ないか?」
「はァ? 何言ってるんだよ?」
他の隊員は呆れてそいつを見る。
「勘違いかも知れないんだけど、その子、大帝のお嬢さんじゃないかと思ってさ」
レーアのスカートを捲っていた隊員の手が止まった。顔色が悪くなる。
「バ、バカ、脅かすなよ。そんな訳ないだろ?」
しかし、他の隊員達も蒼ざめていた。
「た、確かに、言われてみれば……」
もし、こんな破廉恥な行為をした事をザンバースに知られれば、間違いなく大変な事になる。
「どうしよう?」
暗殺団のバカ隊員達は、真っ青になって顔を見合わせた。
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