第六章 その三 囚われのレーア

 レーアは顔を真っ赤にしてシャワールームに駆け込み、

「今の、すぐに記憶から消去してよ、二人共!」

と絶叫した。ディバートとリームは、頭の中が真っ白で、それどころではない。

「時間がない、出よう」

 ようやく我に返ったディバートがリームに言う。リームは、

「レーア一人を残して行くのも心配だな」

「ここは絶対にわからないさ。心配いらないよ」

 ディバートは立ち上がり、出入り口のドアに近づく。リームも頷き、

「そうだな」

 二人はレーアに行く先を告げずに出かけてしまった。これも事件への布石となった。

「消去した?」

 制服を着たレーアが顔を出すと、そこにはもう誰もいなかった。

「何よ、最近このパターン多いんだから」

 つまらなそうに口を尖らせる。

「まさかあの二人、私の裸を妄想して……」

 つい、いけない事を考えてしまう。

「冗談じゃないわ、信じられない、バカ男共め!」

 レーアは一人で盛り上がってしまい、ディバート達の私室に行った。

「あれ?」

 そこで良からぬ事をしていると思っていたディバートとリームはいなかった。

「どこに行ったのよ、あいつら?」

 怒りが込み上げて来る。

「あっ!」

 そして、トレッド達が救援を求めて来たのを思い出した。

「私を置いてきぼりにしたって事? ムカつく!」

 レーアは机の上に無造作に置かれた小銃をベルトに差し、アジトを出た。

「どっちかな?」

 レーアは外に出た途端、自分が何も知らない事に気づいた。

「確か、こっちだったような……」

 彼女はトレッド達が移った場所を知らない。以前連れて行かれた方へと歩き出す。

「うーん、違ったかな」

 ブツブツ言いながら歩き出す。

「暗いなあ」

 レーアは小銃に取り付けられた小型ライトを点けた。

「これでよしと」

 そして歩き出す。


 トレッド隊は、全滅寸前まで追い込まれていた。

「無駄な抵抗はするな。大人しく出てくれば、命まではとらんぞ」

 暗殺団の隊長が呼びかける。全くの出任せだ。出て来たところを撃ち殺すつもりなのだ。

「デタラメ言いやがって……」

 ラミスが呟く。トレッドは崩れた壁にピタリと張りつき、息をひそめる。

「出て来ないと、手榴弾を放り込むぞ。それでもいいのか?」

 隊長がライトをかざして言った。


「さっきの振動、やはり暗殺団の仕業だったんだな」

 リームが言った。ディバートは頷いて、

「相当の弾薬を持っているらしい。この先か?」

 二人は地下道の角に来た。火薬の臭いが漂って来る。

「静かだな。どうしたんだろう?」

 リームが顔を半分出して辺りを伺う。

「遅かったか?」

「いや、トレッドがそんな簡単にやられる訳がない」

 ディバートは暗殺団の隊員が、こちらに気づいていない事を見て取ると、

「こっちに注意を引きつけよう。やるぞ」

「ああ」

 二人は暗殺団に向かって威嚇射撃をし、サッと身を退いた。隊長がライトを向け、

「何だ?」

と怒鳴る。ディバートは顔を出さずに、

「帝国の犬共め、俺はディバート・アルターだ。悔しかったら、俺を殺してみろ」

 ディバートの挑発に隊長は隊員と顔を見合わせる。そして高笑いをして、

「ディバート・アルターだって? こいつはいい」

 トレッドは壁に身を寄せながらハッとした。

(こいつら、もしかするとディバートとリームを引っ張り出すために……?)

 するとそこへ別の暗殺団の部隊がやって来た。

「おう、第二隊、どうだ?」

 隊長が尋ねる。隊員の一人が、

「はァ、妙なガキを捕まえました。ギャアギャアうるさいので、睡眠薬で眠らせてあります」

と女を肩に担いでいる隊員を見た。第二隊の隊長が進み出て、

「こいつ、ディバートとリームを探していたらしい。二人と何か関わりがあるようだ」

「ほォ」

 第一隊の隊長は女にライトを向けた。こちらに尻を向けて担がれているため、その女のスカートが捲れ上がっており、パンティが見えている。隊長はハッとしてライトを向けるのをやめた。

「チッ」

 誰かが残念そうに舌打ちするのを彼は聞いた。

「こいつは面白くなって来たな」

 隊長は女のスカートの事が気になったが、

「おい、ディバート・アルター。こちらにはお前の仲間の女が人質でいるぞ」

 ディバートはリームと顔を見合わせた。

「何て事だ……。レーアが捕まったのか……」

 ディバートは蒼ざめた。トレッドは、

「こいつら、レーアを知らないのか?」

 そう、彼等はレーアの事を知っていたが、顔を知らない。そして地下道は暗いため、彼女の顔がよく見えていないのだ。

 今もし、レーアが意識を回復したら、叫んだだろう。

「あんた達、私のスカート捲って楽しんでたわね!」

と。

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