第五章 その三 大同団結

 連邦議会は、地球連邦の最高機関である。連邦の法律は全てここで成立する。

 その議会の中心である議長室で、議長と副議長が深刻な顔で話をしていた。

 連邦議会の議長と副議長は、連邦政府総裁と同様に国民の直接選挙によって選出され、上下両院の議長と副議長を兼任する。任期は四年で、議会の解散権等を有する。しかし、彼等は直接審議には参加できず、法案への賛否の投票もできない。

「しかし、厄介な法案を提出させるな、ザンバースは」

 議長のスパイラー・ガイスが言った。

「この法案は、審議にかけられれば、間違いなく成立してしまうだろう」

 副議長のランドル・タックスが答えた。

「我々には審議に参加する権利がない。どうする事もできんな」

 ガイスは苦々しそうな顔で吐き捨てるように言った。

「あの男に頼るしかないだろうな」 

 二人は顔を見合わせ、頷き合った。ガイスは机の上のインターフォンのボタンを押し、

「ドルカンに繋いでくれ」

 ドルカンとは、シークレットサービスの長官である。

「お呼びでしょうか?」

 ドルカンの声が尋ねた。ガイスはホッとした顔になって、

「例の法案の件だが、君に何か良い方法がないかと思ってね」

「ありませんね。我々の方も、危なそうな連中を各地に飛ばしているところです。ケスミー財団の壊滅が、ザンバースの目的です。ケスミーCEOにも連絡を取った方が良いでしょう」

「そうだな。そうしてくれ」

 タックスが言った。

「わかりました」

 ドルカンがそう答えると、ガイスはインターフォンを切った。

「ザンバースは、次の総裁選までにやれるだけの事をやるつもりだな」

「形式上は後三ヶ月だ」

 タックスが言う。ガイスは眉をひそめて、

「形式上? どういう意味だ?」

「実質上は、次の総裁選は、ザンバース派が崩壊するまでないだろう。奴が総裁選に出る者に圧力をかけるよ。もっとも、皆それを承知しているから、期限になっても誰も立候補しないだろうがな」

 タックスの言葉に、ガイスは歯ぎしりした。

「しかし、そんな事になれば、その先はどうなるんだ? 総裁の選出のための法律には、そこまでは記されていないぞ」

「そうだ。だからこそ、大変なのだよ」

 二人は沈黙した。


 ディバート達のアジトには、各地から集まったパルチザンのリーダー達がいた。レーアはその数に驚いていた。

「で、どうするつもりだ、ディバート?」

 トレッド・リステアが尋ねる。彼はレーアが入隊したパルチザン隊のリーダーである。

「君達パルチザンは、俺達の首領の指示に従って動いてくれ。首領は連邦内部にも通じている。だから、機会がある時には、すぐにても戦いを始める事ができる」

 ディバートが言うと、

「レーアは使えないのか? 彼女をうまく使えば、ザンバースも俺達を簡単には弾圧できないはずだ」

 別のパルチザンのリーダーが発言した。その言葉にレーアはビクッとした。

「そうだよ。レーアはいい捕虜だぜ」

 もう一人のリーダーが同調する。パルチザン達は口々に勝手な発言を始めた。

「いいか、よく聞け!」

 ディバートが大声でそれらを遮った。一同は仰天して、ディバートを見た。

「レーアは捕虜じゃない。同志だ」

 すると最初に発言したリーダーが、

「同志だって? ディバートの言葉を信じない訳じゃないが、レーアが使える事に変わりはねえよ」

「そうだそうだ」

 他の何人かが同意する。そして、皆の視線がレーアに集中する。レーアは目を伏せて、

「私が先頭に立って戦えばいいのね。いいわ、そうするわよ。それで文句ないんでしょ?」

と叫び、目を上げた。誰も何も言わなかったが、トレッド隊のパルチザンであるカミリア・ストナーが、

「とか何とか言って、逃げるんじゃないでしょうね、レーアお嬢さん?」

と挑発する。レーアはカミリアを睨んで、

「うるさいわよ、オバさん。私は逃げたりしないわ!」

「何ですって!? 私のどこがオバさんなんだよ、この乳臭い小娘が!」

 カミリアが激高して立ち上がる。

「よさないか、カミリア。今のはお前が悪い」

 トレッドがカミリアを座らせた。カミリアはキッとしてトレッドを睨み、

「だってあいつ、私の事を……」

「黙れ! 先につまらんことを言ったのはお前だ。それ以上何か言いたいなら、ここからつまみ出すぞ」

 カミリアはトレッドの剣幕に押し黙った。それはレーアも同じだ。

(トレッド、怖い。気をつけないと)

 彼女はトレッドには悪口を言わないようにしようと思った。

「レーア、下手をすると命を落とすぞ。それでもいいのか?」

 リームが尋ねる。レーアはリームを見て、

「命を落とすつもりはないわ。でも、疑われているよりマシだって事よ」

「そうか」

 リームは黙ってディバートを見た。ディバートは、

「レーアがそうしたいと言うなら、そうすればいい。俺達がとやかく言う筋合いのものではない」

と言い、レーアを見る。レーアはほんの一瞬、ドキッとした。

(やだ、私、ディバートにときめいちゃった?)

 彼女はすぐにその感情を打ち消し、

「私を信じてくれるの?」

「俺はまだ君を信じてはいない」

 やっぱりこいつ、嫌な奴! レーアはそう感じて、

「だったらどうして……」

「これから信じようとしているんだよ。だから俺達を裏切らないでくれ」

 ディバートの目は、何故かいつもと違って優しく見えた。

(ああん、そんな目で私を見ないでよ、ディバート)

 またときめきそうになる自分を戒め、レーアは言った。

「当たり前よ。裏切るくらいなら、疑われたままでいるわ」

 ディバートはレーアの決意を知り、微笑んだ。

「やっぱり、私が可愛いから優しいんでしょ、ディバート?」

 小声で言うレーア。途端にディバートの信頼度が下がってしまった。

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