第三章 その三 パルチザン
レーアは、ディバートとリームに連れられて、地下道を移動中だ。そこはかつて、「下水道」だったところである。すでに使用されなくなって数世紀が経過していたため、臭いはしていないが、下水道というものを知らないレーアには、そこが何なのかわからなかった。
「一つ、確認したい事があるんだけど?」
彼女は歩きながら、前にいるディバートに話しかけた。
「何だ?」
ディバートは懐中電灯で前方を照らして進んでいるので、振り返らずに言う。
「貴方達は資金をどうしているの? ホバータクシーを造ったり、地下に秘密の部屋があったりして……。普通に働いてできる事じゃないわ」
「はァ、なるほど、面白いところに目をつけたな」
レーアの後ろを歩くリームが答えた。懐中電灯の中途半端な明かりの下で見るには、リームの顔は怖過ぎる、とレーアは思った。
「しかし、君に我々の資金源の話をしても仕方ないだろう? 訊いてどうするんだ?」
「もし、不法な事をして資金を稼いでいるのなら、例えパパが悪魔でも、私は貴方達の味方にはならないわ」
レーアはキッパリと言った。ディバートはフッと笑い、
「はっきり言おう。我々の資金は、決して汚れた金じゃない。汗を流して稼いでいるものだよ」
「ええ?」
レーアはビックリして立ち止まった。ディバートは振り返って、
「君が驚くのは無理もないが、とにかくそれは本当の事だ」
と言い、また前を向くと、
「さァ、もうすぐパルチザンの中の一隊のいるところだ」
三人は地下道の角を曲がり、ある壁の前まで来た。
「ディバートだ。開けてくれ」
「了解」
ディバートの目の前の壁がずれて、大きな扉が現れ、その扉も開いた。中から眩しい光が漏れ出て来る。ディバートはその光の中に消えた。
「さっ、レーア」
リームが促す。レーアはハッとして、
「ええ……」
と恐る恐る中に入った。リームが後から入ると、扉が閉じられた。レーアはようやく慣れて来た目で辺りを見た。そこには大勢の男女がいた。広さは中央広場並みで、人数はおよそ百人ほどだった。
「これが、パルチザン?」
レーアが呟くと、パルチザン隊のリーダーが、
「ディバート、その女は誰だ?」
と尋ねた。ディバートはレーアを前に引っ張り出して、
「紹介しよう。レーア・ダスガーバンだ」
部屋の中に殺気が立ち込めた。
「レーアだと?」
「ザンバースの娘か?」
レーアは怖くなった。
(みんな、私を敵視してる。私がザンバースの娘だと知ったから……)
「勘違いするな。この子は捕虜じゃないぞ。同志だ。共にザンバースと戦う仲間だ」
ディバートの言葉で、殺気は鎮まった。しかし、疑惑の目は絶えていない。ディバートはレーアを促す。レーアは恐る恐る、
「よろしく……」
しかし、誰もレーアを見ていない。彼等は皆、レーアの後ろに見えるザンバースの幻影を見ていた。
ザンバースは、総裁代理の就任式に出向いていた。各界の代表者が、連邦ビルの大ホールに集まっている。
「ザンバースが何かを企んでいるのは間違いないが、今のところは何もわからん」
シークレットサービスの長官が、連邦議会の議長に囁く。
「私の方も同じだよ。今もし下手な行動をとれば、こっちが危ない」
「そうだな」
総裁の代理とはいっても、事実上の最高権力者である。エスタルトがやり残した事しか表立ってはできないが、ザンバースの方針に逆らえるのは、死を恐れない者しかいない。
就任式は簡単なものだった。三時間のうち、一時間がザンバースの饒舌極まる演説で、後の二時間は祝賀会のようなものだった。
「ライカス、レーアの行方はわかったか?」
ザンバースは隣席のタイト・ライカスに囁いた。ライカスは声を落として、
「まだわかりません。ミッテルムに探させていますが、どうも……」
「そうか。ならば、レーア誘拐を公表しろ」
「しかし大帝、それでは……」
ザンバースはライカスを鋭い眼で睨み、
「ここでは大帝と呼ぶな」
と言ってから、ニヤリとし、
「急進派を悪役に仕立て上げる絶好のチャンスだ。レーア誘拐犯を数多く捏ち上げて、獄死させろ。連邦刑法でも、無期刑に値する罪だ。国民も騒ぎはしない」
「わかりました」
しかし、さすがのザンバースも、そのレーアが自分の敵に回ろうとしているとは、夢にも思っていなかった。
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