終章 黄金の誇り
サヨナラ三点本塁打。
劇的なサヨナラ勝ちを収めた『陽目ファイターズ』の九頭竜坂雅は、ホーム付近で待ち構えていた味方の手洗い歓迎を受けていた。降りしきる雨のことなど忘れて、綴町を中心に四番
を揉みくちゃにしている。
陽目だけはその輪に加わらず――飛び込む機会を逸してしまった――にいると、その囲みから這い出てきた九頭竜坂と目が合った。彼は一歩前へと出て、彼女は中途半端な位置に上げられた監督の手に対して、バチコーン! と遠慮なしにハイタッチをした。
陽目はヒリヒリと痺れる右手を無視して、代わりに満足した風に頷いてみせた。
「ありがとう。……君にはこの試合頼りっぱなしだったね」
「それは、他のメンバーにも言ってやってくれ。俺だけの力で掴み取った勝利じゃねえんだから」
「解っているさ。この後改めて、祝勝会を催すとしよう」
いいね、と満面の笑みで喜ぶ九頭竜坂。この試合を完投、サヨナラホームランも打った彼女は疲れを露も見せず、不意にバックネットに目をやった。
「……届いているといいな。アンタの思い」
「…………気付いてたのか」
彼も試合前から気付いていたとはいえ、まさか彼女もそうだとは思いも寄らなかった。しかし、思えばマウンドからはバックネット裏がよく見える。だとすれば気付いていてもおかしくはない。
九頭竜坂はそりゃあな、と笑って、
「実を言うと俺も、この試合は錦守アキラとじゃなく、大名寺蓮華と戦いたかったんだ。――正確には、大名寺の操作する近衛一本と、だが」
「……そうだな」
錦守も確かに手練れではあった。しかし、監督としての技量なら大名寺の方が――単純に比較はできないが――上だったように思える。少なくとも、より長期間近衛一本と鍛錬を積んできた彼女の方が、彼を操作することに手慣れていたのは確かである。
だから九頭竜坂は「お前じゃない」と錦守の支配下にある近衛にそう言い放ったのだ。そして、すぐに大名寺の下へ帰らせてやるとも。
――瞬間。陽目の身体を光の粒子が包み込んだ。
それは転送の前触れ。表に出していた選手カードたちも揃って自分の手元へ【帰還】を始める。その間際、それを待つ九頭竜坂に彼は言った。
「祝勝会だけど……どうだろう? 『本日の主役』タスキをかけて参加してみない?」
それを受けた彼女は「はははっ!」と高らかに笑って、
「なるほど、それは心躍る提案だ。今日だけはその役目、謹んで拝命しよう」
平生の彼女からは想像もつかないほど丁寧なお辞儀をした姿を最後に、陽目の意識は一時ブラックアウトした。
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