第二章③
Sレアにも、当然ながら恪というものがある。
ステータスだけを比較すれば、レア並みのSレアも存在すれば、SSレア並みのSレアも存在する。そのランクを明確に分けているのが『スキル』だ。レアは通常一つしかスキルを保有していないが、Sレアともなれば二つ保有していて当然、最高クラスとなると四つも持っていることだってある。素のステータスが低くても、優秀なスキル持ちという可能性があるのだ。
スキルには二種類あって、スキルカードで発動させる『アクティブスキル』と、常時発動系の『パッシブスキル』がある。スキルカードを使う分、前者の方が強力だと思われがちだが、量産型のスキルが多い中でパッシブでは固有(ユニーク)スキルが大半だ。SSレアが超人扱いされるのもひとえにその存在が大きい。
――Sレアの中に、『エレメント』シリーズというカードが存在する。
火、水、風、土、空――――ポジションに違いはあれど、各々がSレアでもトップクラスに食い込み、SSレア並みの性能を持つと謳われているカードだ。実現した者は記録上いないが、五枚揃えると超強力な全体効果系スキルなんてものを発動する噂もある。
お互いに知らざることだが、陽目とその男は同時刻に同じグレードのガチャに挑戦していた。異なるとすれば立場で、陽目は一監督者、男はGランクながら『チーム戦』で生き残っているマスターだった。
そしてもう一つ。陽目は今頃カスカードを連続して引いているが、この男はそれとはまさに真逆であったということ。
――思い返せば、自分の失策は焦りだったように感じる。
Gランクでは野手のSレアを引き連れて無双を誇り、その地域の領土のほとんどを奪い取ってやった。Gランクで領土を全て失うということは、それ即ちただの一監督者に戻るということ。自分の領土から得ていた税金も得られないということなのだ。彼はそんな人間を何人か生み出すことで上へと登って行ったのだ。そのことには何の罪悪感もない。そも、『チーム戦』とは弱肉強食。毎日が競争で一定の地位を築くまで安息はない。かつてCランクのマスターが連敗に連敗を重ねて、僅か一月足らずで領土もカードも全て失った例もあるくらいだ。
男もまた、そんな負の連鎖に片足を踏み入れかけていた。――いや、実際踏み入れていたのかもしれない。けれど、沼から強引に引き上げてくれる存在に、男は今日出会ったのだ。
排出口から出てきたのは、黄金に光り輝くカード。これはSレアを当てた際の演出である。脈打つ手で、何故か慎重に表返す男。
――これが、陽目葵がガチャに挑む裏側で、『神』に出会った瞬間であった。
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