第二章 来たる練習試合

 ――少し、昔のことを思い出す。

 およそ半年前、陽目葵が初めて『スタジアム』に足を踏み入れた際、もちろん憧れへ一歩近付けるという高揚感もあったのだが、彼にとっては無意識のうちに不安を抱いていたのだと思う。傍らで自分を観察していた綴町も思い出話の風に顔が僅かに強張っていたと言っているし、足に付いていた重圧も今は感じていない。

 大名寺と初めて出会ったのは、『合同チーム戦』の場で――敵同士だった。陽目は当時唯一の選手カードの山郷を使用して出場した。彼女はマシューを先発で起用していた。試合結果自体は三‐〇か、二‐〇か――ともかく完封されたことは間違いない。彼もまさか初打席からナックルなどというゲテモノとかち合ってしまったのには驚いた。当然ノーヒットで終わった。

 綴町に励まされながら帰宅しようとする最中、声をかけてきたのが大名寺蓮華だったのだ。彼女からしてみれば、『変化球:C-』のマシューを対等に受けられるだけの性能を持った捕手に声をかけただけなのだろうが、それでも陽目にとっては救われたことには違いない。

大名寺が投手を受け持つ試合はほとんど陽目が捕手として参戦した。守備だけでは勝利への貢献は薄いと、打撃のコツも教えてもらった。一度だけ決勝打を放って山郷でMVPを取った試合は今なお記憶に残っている。

バッテリーを組むごとに親睦を深めていった両者だが、対決に関しては最初の邂逅のみ。あれから月日を重ね、今では『スタジアム』でもそれなりに名が売れてきた――オッズに僅かながらも影響を与える程度――自分が、遠い存在だった大名寺蓮華にどこまで通用するか、試してみたくないと言えば大嘘になる。

確かに彼女にはあらゆるプレーのコツを教えてもらった。『スタジアム』での処世術なども。ゼロからのスタートだった陽目にはとてつもない道標となった。しかし、何も大名寺の劣化版に落ち着いた訳ではない。この世界で生きていく以上、彼女との対決も避けられないだろう。早ければGランクでぶつかるかもしれない。

彼女と同派閥に入るか傘下に入るかすれば対戦することもなくなるが、それはお互いが望むところではない。陽目にとっては大名寺は超えるべき壁であり、彼女にとっては阻むべき壁であるのだ。

――だから、大名寺が練習試合を申し込んできた時は好機だと思った。『チーム戦』の実戦経験を掴めるのもそうだし、何より現時点での自分の力を推し量るのに最適な相手だったからである。自分はいったいどれだけ成長したのか、それはどれほど実りあるものなのか――――

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