五番目の力
PM3:05
僕たちはその後、玉響を追うようなかたちで、浴衣姿が圧倒的多数を占める人ごみの中をかき分けながら、翔子プロデュースのメイド喫茶へと向かった。
新校舎の玄関を無事通過して、昇降口で展開しているフリーマーケットの品々を横目に通り過ぎようとしたところ、たたみ6畳分くらいの夜空に目が留まった。
思わず足を止め、
「あのさ、僕ちょっと用事を思い出したから、先に行っててよ」
翔子が肩越しに振り返り、訝しげに片目を吊り上げ、
「アン、用事? なんの」
何をどう言い訳すればいいのか説明に困る。
「その……トイレだよ! 急にお腹が痛くなって、あれおっかしーなイテテ……さっきのチョコバナナが利いたのかも」
「俺のせいかよ!」
ポッキーの追撃を内面で詫びつつ軽くいなすが、目的を遮られた翔子にいたっては、どうにも納得がいかなかったらしく、頭をかきむしりながらめんどくさげに、
「チッ、じゃあ待ってっから、とっとと行ってこいよ」
「いいってば、どれだけ時間がかかるかわかんないし、ほんと先に行ってて」
後ろにいたタマゴッチが嫌味な笑みを浮かべ、
「チョコバナナの3倍は出そうな顔だねブラックヘッド」
「僕は量に関係なくじっくり腰を据えないと出ないタイプなの! それに紙のキレも悪いし……だよね翔子」
「ブッフウウウウッて余計なこと言ってンじゃねえ! コイツラが俺もそうだって勘違いすンだろーが」
「え、姉御もキレ悪いの?」
「乙女に向かってンなこと聞くンじゃねえ! ぶっ殺すぞ」
「……お取り込み中のところごめん。あ、やばい出そう。とにかく先に行っててよ」
渾身の演技が通じたのか、みんながバリアをしながら階段を駆け登っていった。それをある程度見守ってから、本当にトイレに行って便器に座った。それから念のため10分ほどトイレの中で過ごしたあと、外に出て手を洗い、少しお腹の調子が悪いフリをしつつ、彼らが舞い戻っていないことを祈りながら先ほど別れた場所へと戻り、
「うわあ、キレイだなあ」
黒い布の上には、星のように散りばめられた指輪たちが並んでいた。
いらっしゃいませのひと言もなければ客に喜ぶ素振りもない店の主らしき人物は、砂漠色のメキシカンポンチョに先の尖ったカウボーイブーツ、羽の付いたテンガロンハットを深めに被った年齢不詳の男性だった。この角度だと眠っているようにしか見えず、不気味な風貌と妙な威圧感があるせいなのか、このブースに誰一人として寄りつこうとしていなかった。
販売ブースの端に立てかけられていたダンボールで作った小さな看板には、黒いマジックでこう書かれている。
すべて手作り。一律500円也。
値段が安いのは腕に自信がない表れなのか、と思うものの、どれひとつとしていびつなところは見当たらず、むしろ意匠を凝らした指輪ばかりで、素人目にも、もっと値段を上げてもいいのでは、と僭越ながらに思ってしまう。
そこで、ひとつの指輪に目が留まる。
その一際目立った指輪をジッと眺めていると、テンガロンハットの店主が無言でその指輪を取り、僕の目の前にかざしてみせた。
――触ってみろ、と言っているのかな。
恐る恐る指輪をつまんで手のひらに落とし、今度はじっくりと眺めてみる。
銀色の華奢な輪の中心に小さな桃色の石粒が埋め込まれただけのシンプルな指輪。
片目の頭蓋骨や有刺鉄線が巻きつけられた鉤十字といった指輪の中で、それだけが取り分けて輝いているように見えた。翔子がこの指輪をはめた姿を想像した。
「これください!」
指輪のサイズも知らずに買おうとするのは愚かなのかもしれないけれど、この指輪を貰って喜ぶ翔子の顔が僕の背中を後押した。彼女からしてみれば、もっと派手目のものを好むかもしれないが、僕はこれが似合うと思った。
だから、これに決めた。
ライヴのあと、この指輪を渡して、翔子に告白する。
玉響に告白するように言われているけれど、変わってしまった気持ちをそう簡単に切り替えることなどできない。残された時間は一ヶ月と少し。だから翔子の思い出に残るようなことをしたい。たとえフラれることになったとしても、僕がずっと彼女のことを忘れないための、想い出を作りたい。
そのために、僕はこの指輪を買う。
怪しげな店主はお金を受け取ると、専用のケースを取り出して指輪を収め、無言で僕に渡してきた。そしてこれから僕がする事を知っているかのように、テンガロンハットの下の目を光らせ、僕に向かって親指を突き立てる。
おじさん……
彼は「坊主、お前にならできる」と心の中でそう言ったのだ。その気持ちに応えるべく彼に向かって静かに親指を突き立てた。告白する勇気が無尽蔵に湧いてくる気がする。今度こそ、やれる気がする。
――ありがとうおじさん。僕の成功を祈ってて。
ブースを後にしたあと、僕は急いで階段を上った。三階の廊下に出ると、イベントを開催する教室の入り口に集る人や行き交う人たちでいっぱいで、非常に混雑を極めていた。なかでもメイド喫茶の人気は異常で、3クラス分の列を形成していた。
彼らを探しながら列の横を通りすぎていくと、すでに席についていた翔子たちが僕に気づいて手招きをした。僕は、今か今かと待ちわびている連中の恨めしげな視線に冷や汗を流しながら教室へと入る。
中の様子は机に白いクロスが張られ、キテーとかステッチとかの人気キャラのぬいぐるみが所々に飾られており、女の子部屋のような空間を見事に再現していた。
どこかで見かけた女子がメイドの格好で「おかえりなさいませご主人様」と出迎えてくれた。多分この常套句も翔子から徹底されたものだろう。
その子に案内されて席につくと、さっそくみんなと同じ「萌のスペシャル苺ジュース」を注文した。それを運んできた玉響が、羞恥まみれの顔で萌え萌えパワーを注入する。いくら翔子一筋の僕でも、その姿にはさすがにぐっとくるものがあった。
辺りを見回してみると、翔子が言ってたように、四つんばいになったところをメイドに跨れ、尻を叩かれながら、なんとも言えない恍惚とした表情で喜ぶ客の姿が散見された。
ツンデレメイドのお仕置きすぱげってぃ(かるぼなーら)。
タマゴッチはすでにそれを注文したあとで、そのときの感想を「くせになりそう」とこぼした。翔子にオメーも注文しろとせっつかれたけれど、不慣れな接客に汗を流す玉響と不意に目が合ってしまい、恥かしくなったのでやめた。ポッキーは、この期に及んでもまだ手鏡で自分の髪形のチョックをしている。
大盛況の店内をあとにしたのはそれから30分後のことだった。人気がありすぎて、急遽、延長なしのひとり30分厳守の指示を下したと翔子が言っていた。
それから僕らは色んな所を巡り、知り合いがやっている企画を見つけてはイベントに参加した。協賛企業や地元ボランティの企画も含めるとあまりに数が多すぎて、どの店でどんなことをしたのか、それを逐一説明するのは極めて難しい。
あえて挙げるとすれば、同じクラスのミキティが所属する漫研の同人誌即売会で、彼が描いた二次創作本を、翔子が100円に値切って購入し、その場で読みながら大笑いで酷評の限りを尽くした。ミキティが無残に大泣きした顔が頭から離れない。
次に挙げるのは、一年二組の教室で開かれたお笑いバトルで、田中先生に強引にコンビを組まされたクラス委員長鈴木くんが、なんと漫談の最中に突然覚醒して、ブチギレ芸を展開したのだ。
田中先生をどついてツッコミを入れるというシーンが功を奏し、それが大いに観客に受けて見事優勝。その際、田中先生が残したコメントは「次のオンエアバトル見といてヤ。優勝もぎ取ッてくるさかい。アッ、シャコタン。なんや見に来てくれとったんかいな。ワシ今日も輝いとったか?」
輝いているのは頭だけとは口が裂けても言うな、と翔子に止められた。鈴木くんが残したコメントは「僕、東大確実って言われているけれどやめにする。吉元興業のNSCに入って芸人を目指すことにするよ」
それを聞いた母親らしき女性が田中先生の首を絞めながら「アンタのせいよ」と泣き叫ぶ姿に少し同情して、僕らは教室を後にした。これらの事象について翔子が残したコメントは「やべえ、俺の預かり知らねえところで未来が変わりつつある。ドクになんて言おう。でも絶対俺のせいじゃねえ」だった。確実に彼女のせいだけど、今さらながらにうろたる姿に、少しだけ胸がきゅんとした。
それから、焼き鳥、とうもろこし、フランクフルト、ベビーカステラなど、大多数の協賛から成り立つ安価設定なので、贅の限りを尽くして飲んで食べ歩く。
射的やスーパーボールすくい、千本引きもしたし協賛企業の豪華商品が当たる福引きもした。お化け屋敷で翔子に抱きついたと思ったらタマゴッチだったし、翔子がポッキーに「オメーの出目金には妹が必要だ」と言って金魚すくいもした。たこ焼き屋のおじさんの所にカキ氷の差し入れを持っていったら、フードケースに収まりきらないくらいのたこ焼きをただで提供してくれた。
みんなで大笑いして、大いにはじけた。
それ以外にもたくさんの出来事があったけれど、なにより翔子の笑顔がたくさん見れたのがよかった。おかげで財布の中身は空っぽになってしまったけれど、とても楽しい時間を過ごせたので、少しも惜しいとは思わない。なぜなら心の財布の中には、入りきらないほどの夏の思い出が詰まっているのだから。
PM6:00
赤方偏移に染められた夏の空に、炭坑節と和太鼓の音が鳴り渡りはじめる頃、校内から人が減り、グランド中央に設置された櫓の周りで踊りの輪が形成されはじめる。より一層の活気を増しながら、祭りはゆっくりと終息へと向かっていた。
旧校舎に向った僕たちは、先生にたくさんのお土産を渡したあと、本番前の練習のため、1階東奥にある電源装置庫へ足を運んだ。僕たちが楽器の準備をしている最中、翔子が音響係の人と打ち合わせをしながらこうぼやいた。
「チッ、栗ボーのやつ何やってンだよ。ヨシ、先に練習始めっぞ」
翔子の音頭でボーカルなしの練習がはじまった。音出しの途中で、ひまわりをあしらった浴衣姿の玉響が加わる。翔子が、集まってくれた軽音部の一年生たちを使って、楽器を運び出す作業や演出サポートの指示を飛ばしている。
部屋の中が藍色に染まりはじめ、空にはゆっくりと夜の帳が下りようとしている。
PM7:30
練習がひと通り終わったあと、僕らはライブ用の衣装に着替え、最後の準備に取り掛かっていた。
ちなみに僕とタマゴッチは浴衣で、ポッキーだけは、攻撃的な鋲が無数に埋め込まれたノースリーブのライダースジャケットに皮パンといったパンクロック風の出で立ちだ。
タマゴッチは翔子にいつも言われているドラムのチューニングに専念し、ポッキーは玉響に髪のセットを手伝ってもらいながら体のありとあらゆる所にデオドラントスプレーを振りまくのに余念がなかった。翔子は音響係の人と最終的な打ち合わせをしていた。
翔子の後姿を見つめながら、浴衣のポケットに入れた指輪のケースを握り締める。そこで引き戸がゆっくりと引かれ、渦中の人となった山田京介が姿を現した。
「栗ボー!」
揃って安堵を叫ぶなか、翔子が真っ先に彼の元に走っていって胸倉を掴み、
「俺の気が短かったら今頃オメーは血ダルマだ……言い訳くれに来たンだろ? いーぜ言ってみろよ、今の今までどこほっついてやがったッ、アン!」
栗ボーは釣り上げられた状態のまま抵抗はしなかった。
真夏なのに分厚い黒色のジャンパーとマフラー、そしてマスク。
表情は元気の色が欠落し、目が虚ろで視点が定まらない様子だった。
彼が言わずとも、僕らは全てを理解した。
――昨日まで元気だったのに……
脳裏をかすめた最悪な結末に、背筋を氷でなぞられるような悪寒が伝わる。
栗ボーは震えるような声でこう言った。
「俺様が、風魔ごときに後れを取るとは……一生の不覚」
ポッキーの手からデオドラントスプレーの缶が滑り落ちた。
それを聞いた翔子はさらに激昂し、
「メデテーにもほどがあンぞてめえッ! あれほど身に気を使えって言っただろうがッ!」
「ちょっと、翔子、落ち着こ」
今にも殴りかかりそうだった翔子を三人がかりで止め、栗ボーを引き離した。気が治まらない翔子は調子悪そうに咳を繰り返す彼に向かって悪態の限りを尽くした。グランドから太鼓の音が届き、裏山からはセミの声が響いている。
翔子が落ち着きを取り戻したのを見計らい、
「こうなったものは仕方ないよ、これからどうするか考えよう」
黒板の上に備え付けられていた古めかしい壁掛け時計を見ると、40分を指していた。開演準備まで、残り20分。もう現場にいないと演奏に間に合わない時間帯だった。
ボーカル抜きではバンドが成り立たない。どうすればいいのか。
そこでポッキーが口火を切り、
「一年の成立に頼むっていうのは……」
翔子は彼に怒りの矛先を向け、
「ボーカルはじめて間もねえ茶坊主にうちのボーカルが務まるとでも思ってンのかッ! もしそう思ってンなら今すぐこのバンドから、」
「姉御ッ! ……あんたの気持ちは痛いほど分かるよ。けど、そんなにカッカするなよ。俺が言ったのはあくまで中身のねえ提案のひとつだ。思った事を出し合ってりゃ、そのうち妙案が出てくるかもしれねぇ、だろ?」
ポッキーに諌められた翔子が「すまねえ」と言って俯き、
「万が一、あの出涸らし小僧がうちの曲を歌えたとしてもボーカルを務めさせることはできねえ。こいつだけなンだよ……うちのボーカルは、こいつしかできねえンだよ……」
事の重大さに打ちひしがれた栗ボーの頬に後悔の涙がつたっている。音響係の人が気を利かせ「トラブルで少し遅れるって言っときます」と言って教室をあとにするまで、彼がいたことにも気づかなかった。
翔子が苦渋に満ちた顔で床を睨みつけながら拳を固く握り締めている。これ以上彼を責め立てようが何も変わらないし、矛先を変えたところで何も始まらない。彼女は、それを理解しつつも収まりつかない怒りを抑え込むことに必死だった。代えの利かないこの状況を打破するために、みんな必死になって考えている。この場で僕にできることは一体なんなのか。
――代え。そうかッ!
ひらめきを感じた瞬間、僕は密かに思い抱いていたあるひとつの可能性を口にした。
「翔子に、歌わせてみるってのは、どうかな」
みんなが目を見開いて僕を見る。
こんな時にでも炭坑節の音頭が頭から抜けないのは、まじめに考えていない証拠なのだろうか。
いや、そんなことはない。
「みんなも気づいてたんじゃないのかな……彼女の声は、ロック向きだ。それに、演目のすべてを頭に入れている」
これは僕だからわかることだった。
彼女も、ギター以外のパートの譜面や歌詞をすべて頭に叩きこんでいるはずだ。
確信する。
彼の代りを務めることができるのは、翔子以外に他ならない。
「そうなると音程は5つぐらい上げる必要があるね。オリジナルは女性が歌うことも考慮して絞ったほうがいいのかもしれない。あとそれに、」
翔子が凍えるような声で、
「オメー、それ本気で言ってンのか……ンなもん無理に決まって、」
「本気に決まってンだろッ!」
本気を理解してもらうためにあえて怒鳴りつけた。
少しやり過ぎたかも、と自嘲しながら声質を和らげ、
「無理なもんか。これは君にしかできないことなんだよ。それともこのままライヴを中止させるっていうの? 誰かが言ってたよ、10万人は突破したって、昨年を上回る来場者数だって、町全体が会場になったって。こんなちっぽけな町にこれだけの人が集まってくれたんだ。父さんと母さん、みんなの両親だって来てる。それにクラスや先生たちだって注目している。ちょっと前まで出ないって言ってた僕が言えた義理じゃないけれど、ひとりのわがままでこの舞台を棒に振るなんて、僕にはもう考えられない。みんなで汗まみれになって撒いたポスティングチラシを見てきたって人もいるかもしれないのに……みんなの期待を裏切るつもりなの?」
彼女は、16年前の過去でライヴに出場しなかった。
そして彼女は僕にこうも言った。
オメーの未来はゼッテーそうなる、と。
だとすれば、過去で起こった細かい事象は変えられたとしても、運命を揺るがす大きな事象は変えることができない、ということなのだろうか。
今さらになって、消極的な思考が心の中を蝕んでいく。
運命が、
時空の流れが、繋がりが、
確定された過去を変えないように彼女をしむけているのだろうか……
いや、違う……、違うッ、絶対に違う……ッ!
彼女は何度も何度も僕らの未来を改変した。
彼女にとってこの世界は過去かもしれないけれど、僕にとってこの世界は現在であり未来。ここはあくまでも、彼女のいた世界に酷似しているだけにすぎない、僕らにとってけして過去ではない世界。
ならばこの世界の未来は変えられるという理屈は通るはず。
消極的な思考を追い払い、無理やり考えついた仮説の正しさを心に刻みつけるように拳を握りしめる。
もしこれが、改変することのできない未来だとしても、僕は真っ向から抗ってやる。彼女が辿ってきた未来をなぞる運命だとしても、たとえこれが時空の不文律によって起きた運命だとしても、僕はそれに最後の最後まで抗いぬき、新たな未来を選択する!
心が燃え上がる音が聞こえる。
彼女はいつだって僕らの未来を改変してきた。
――その事実こそが、すべて!
「僕は、この舞台に出るって決心した……あれほど嫌って言ったのに、未来の道標に諭されてようやく決めることができた。僕は変わることができたんだ。ぜんぶ君のおかげなんだよ、翔子」
僕は溢れ出した涙を拭い、
「だから今度は……僕が君の未来を変えてみせるッ!」
彼女の過去が改変不能なのは百も承知だ。ならばこの世界で、16年前の過去で立てなかった桧舞台に僕が立たせてやる。
それが僕らの確定された未来であり、彼女の過去を変えるという、ひとつの答え。
翔子がふたたび下を向いたとき、一粒のちいさな星が流れ落ちた。
「ヘッ、どいつもこいつもメンドーばっか俺に押しつけてきやがって。ったく、どンだけ俺におんぶにだっこすりゃ気が済むってンだ、アン? あーもうバカばっかりだな、サノヨイヨイ……てか」
と彼女は、はぐらかすようにそう言って、頬につたうものを振り払うように一閃して、面を上げた。切れ長の目と艶のある表情には、いつもの輝きと不敵な笑みが戻っている。
翔子は少しくだけながら、
「ンなもんオメーが歌ってギター弾きゃあ問題ねえだろーが。いい加減、人に頼るとこ直せっつーの、なあ栗ボー」
「そうだな、黒き
「は? そこは天使じゃねーのか?」
「天使に黒髪は合わないのさ……ゴホッゴホッ」
ポッキーが続き、
「決まったな。姉御、いっちょかましたろうぜ!」
そしてタマゴッチも続いた。
「背中は僕に任せてね、リーダー」
翔子は拳を握りしめ、目に力強い覇気を漲らせながら僕らにこう言った。
「オメーラの無駄にメデてえ心意気を無碍にするほど野暮じゃねえ……。ヘッ、上等だ。やってやンよ」
「翔子!」
「おっと喜ぶのはまだ早え。たった今ひらめいちまったンだが、俺が歌うにあたってひとつ条件を付け足す……萌!」
「は、はい!」
いきなりの名指しに玉響が怯んだ声を上げる。彼女は上目遣いに翔子を見つめながら次の言葉を待った。
「オメーに新たな使命を与える……俺の隣で、キーボードを弾け」
――ッ!?
理解しがたい発言にそれぞれが驚異的な声を上げるなか、玉響が驚きを代弁させて発射したヘアスプレーをまともに顔面に食らったポッキーが「目があああ!」ともんどりうって床に転げまわる。
ポッキーが涙目になった目をこすりながら、
「姉御がなに考えてんのか知らねえが、それこそ無茶な話ってもんじゃ、」
「
翔子はまじめな顔でそんなことを言ったあと、苦笑いを浮かべ、
「……ククク、一度でいいから言ってみたかったンだよなーこのセリフ」
そんな彼女を見て栗ボーが、
「その言葉、この俺様が頂くとしよう」
と言って目だけでニタリと笑う。
「お、冗談言えるまで復活してンじゃねかコノヤロウ。まぁこんな土壇場になってオメーラの足りねえモンにようやく気づいた俺が言うのもなんだが、ククク、これで俺の思い描いていたサウンドが完成する……超大統一理論の完成だ! ぐわっはっは」
彼女の美少女らしからぬ大笑いに、みんなが訝しげな表情で後ずさりをはじめる。
「萌、よく聞け。オメーはたった今からこのバンドの……」
翔子は含み笑いを殺して腕を組み、勿体付けるように、
こう言った。
「五番目の力だ」
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