おっさん闘う

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名も無きゴブリンの王は歓喜した。長年恋い焦がれていた強者に相見えたのだ。相手は、自分の今までの経験を全て掛け合わせても、逆立ちしたって勝てない程に凄まじい気迫オーラを持っている。闘うだけで心が震えるのに、自分を配下に迎えてくださると言う。勿論、闘うのであれば勝ちを狙うのは当たり前の話だ。しかし、相手は強者。それもそこそこ武勇を誇った自分すら霞む程の。なればこそ、その者の配下に加わる事は、十分な誉れである。


これは、ゴブリンという最下等種である自分の、アピールタイムだ。


少々勘違いを抱いたゴブリンは、全力を持って強者ことおっさんに挑んだ。



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おっさんはおっさんで喜んでいた。かなり強そうで、耐久も高そうなので、手加減の調整には持ってこいだろう、と。更にはゴブリンの装備のインスピレーションが湧いて湧いて止まらない。手下にしてもモデルにしても、どちらにしても自分に損は無いのだ。あまりの嬉しさについつい子供のような笑顔を浮かべてしまっても、咎められはしないだろう。


「行くぞ、ゴブリン。」


すっ、と懐から金貨を一枚取り出すと、ピンっと上に弾き飛ばした。かなり高い位置まで飛んだそれが、地面に落ちたその瞬間、


ガキィン!!!!


零距離で両者の得物がぶつかり合った。


「おめぇさん、そのいかつい棍棒は何処から出したんだい?」


「ギギ、ギギャア!(秘密、ですよ!)」


「あぁ、そうかい、と!!」


何故か会話が成立している事に気付かないまま、戦闘は少しずつその鋭さを、そして激しさを増していく。


「おっさん流剣術斬の型、流水!」


「ギャアギャアギ、ギギガァ!(ゴブリン流棍剛術こんごうじゅつ、力押し!)」


おっさんの持つ長剣ブロードソードから繰り出される、流れるように繰り出される斬撃。その全てに真正面から棍棒を当て、力で弾くゴブリン。華麗なおっさんと剛力ゴブリン。端から見れば、かなりシュールな光景である。


ガキャァン!!!


全てを防がれたおっさんは、一度距離を離し棒立ちになる。

若干怪しいものを感じつつ、しかしここがチャンスだと思ったのか、ゴブリンが勢い良く飛び込んだ。


「ギギャア、グギャア!!(ゴブリン流棍剛術奥義、"力ありきの正義"!!)」


棍棒に魔力を纏わせ、更に威力を上げて降り下ろされるその一撃は、最早オーガと遜色は無い。

そんな一撃を棒立ちで待つおっさんの顔は…………


「おっさん流剣術斬の型、青天の霹靂」


キィン ドサッ


ゴブリンの直感が最大警報アラートを鳴らす間もなく、一瞬にして切られたゴブリン。


「安心しな。峰打ちだ。」


あまり安心できる要素を含まない声を薄れ行く意識の中で聞いたゴブリンは、ふっと笑って意識を手放した。

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