第77話 逃げろや逃げろ
《
そのまま再生中の世界を縦横無尽に飛び回る俺達親子。
「ぬぅはははははは! コッチだぁー!!」
「ヌゥゥウウウウオォォォオオオォォォオォォオ!!!!!」
後ろからはケインが超全力ダッシュで追って来てる。
おぉおぉおぉめっちゃ必死だな。
「坊ちゃぁああああん!!! イカンぞぉおおおお赤子を連れてそのようなぁぁあああああ!!!!」
「目ん玉剥いて腕振り走るその姿、紛う事無き
「黙れ小童ッ!!!!!!!!」
ありゃ怒ってるわ。当然だね。
「イザヤ君、楽しい遊び邪魔されてるけど怒ってなぁい?」
「んむぅぅゅ……んぶぇっ」
「ッガハァッ!!?!」
ケイン・バラムス・フォン・ドレイグ。
近世では執事も勤めていた吸血鬼の武人である翁は、赤子の世話に詳しくはなくとも、濡羽一族としてイザヤの遊び相手になる事も多かった。
赤子としては珍しく、嫌々とぐずる事が少ない子イザヤであったが。
そのイザヤが、己へ向けて舌を。
舌を、向け、た。
舌を。
む、け。
した。
あっかんべー。
「
うわぁあー泣き崩れた上に勢い余って岩に激突しちゃったよ爺さん。憐れやなぁ。
まぁあれくらいじゃ死なんし、良いか別に。
「ねぇー。楽しく遊んでるのにねぇー」
「あぶぅ……んむぁっ」
しかしコイツ、まだ生後一ヶ月だろ?
本来なら五ヶ月頃に見られる声での反応が既に出来ているとは。もしや
「さて、次は誰が来るか……な……って、お前それバカジャネェノ!?」
遠方から黒い液体が迫ってきた。
腐敗を促すモンを子供連れてる奴に向けますか普通? まぁアイツは普通じゃないから文句言ってもしゃーなしだが。
とりあえず避けろぃ!
何とかサーカスも真っ青だぜヒィーフゥッ!!!
「おいミキ姉ぇ! 今意識あるかー!」
「ヤーウ! あっぷぁい! ぉおう!」
一応意識はあるのか、龍の姿になって追ってきた。首が三つ。
「うわぉ」
黒い液状で三つ首の龍か。こりゃまたキッカリ形になったなぁ。昔の怪獣映画で三つ首の龍がいたなぁって思ったけど、こんだけ禍々しくはなかったろ。
「シンヤ、子供を連れて異世界へ高飛びするのは頂けないと思うぞ」
「だったらその液で捕まえようとしないで下さい怖いですアジ・ダハーカさんよ」
三つ首の邪龍、アジ・ダハーカ。うん、ピッタリな名だな。
別にアジ・ダハーカについて詳しい所は知らん。三つ首で
「また何か、面白い事でも企んでいるのか」
「まぁな」
「しかし、イザヤを連れる意味はあったのか?」
「皆を怒らせたくてな。俺に挑まにゃならんシチュを作る為だ。俺を倒せる奴は、二人しかいねぇだろ?」
「……あぁ、そう言う事か」
「っと言うわけでバイビー!!」
「うおッ!?」
《
今回の作戦目標はアイツなんだ、お前らに止められるわけにゃいかねぇんだよ。
賢者レミィ、お前なら何をどうすりゃ良いか分かってるよな。
しっかり動いてくれよ。
「うぅ~ん良い気持ちだ」
「きゃっ、あぁう♪」
本当に良い気持ちだ。
のびのび飛べるって超良いよ、これ。
素直に楽しい。
「ばぁあああぁぁぁああああかやろぉぉおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」
嫌な予感かビンビンしてきた。
俺を倒せる奴の思考が響いてきたよ。
めっちゃ轟くんで軽く目が眩んだぞ。
「あぁーのぉー環奈さん? 何でアンタがいるんです? 何で普通に空中走ってるんですか?」
濡羽一族じゃないよね、お前。レミィにお願いでもされたの?
子供をぞんざいに扱った事に怒ったのかな。
一応、イザヤの安全は完全保証出来るんだけど。
「テメェの神経おかしいだろもいっぺん死んで来いこのドクズがぁ!!!」
あ、ダメ。はい。知ってます。
すいませんこれっきりですから勘弁してください槍で俺だけ殺そうとしないで止めて環奈。マジで死ぬから止めてお願い。いやまぁ復活するシステムもう完成したから死んでも大丈夫だけども。
「うぉおぉおおぉおぉお危ない危ない」
「イザヤ連れて異世界飛んだだぁ!? 私でも常識外れって分かるわそんなこと! ふざけんのも大概にしろよバ彼氏!!!」
あ、こんなんでも彼氏って言ってくれるのねありがとう。
「好き♪」
「今言う事かぁあッ!!!!!」
真っ赤になって上からの百槍突き。流石にこれは必死になって避けるわ。粒子装甲あるだろって? 無理無理そんなの簡単に貫いてくる。的確にイザヤだけ狙いから外してる辺りしっかり理性は働いているようだから、あとは俺が貫かれないよう避けながら事情をじっくり話せば分かってくれるやろ。
もう
「まぁ、簡単に言えばセラピーだ」
「セラピーってこれの何処がセラピーだ、何処が!」
「精神的に参ってる奴がいてな。素直じゃないんで怒らせて原因を聞き出そうと」
「はぁ?」
「つぅわけで悪いんだが、ここで環奈に壊されるわけにゃぁいかねぇんだ」
――《
「ん!?」
時の流れが無い世界に環奈も連れ込んで、クールダウンを図ろう。
「イザヤなら絶対無事だし、何も心配はいらんって」
「いやだからお前最初っから赤ん坊を」
「皆怒らせないとダメなわけ。アイツがやらなきゃいけない状況を作る為にな」
「アイツ、って……」
「配下の面倒見るのは主人の務めだろ?」
「……お前、何するつもりだ?」
「言ったぞ、セラピーだ」
拳を握って見せてやる。
そして、やはり戦闘大好きの天宮 環奈。
それを見て何かを察したようだ。
「……OK分かった。お前そういった所不器用だしな、それが精一杯だろ」
「上手くいくかは分からんがな。まぁ何だ」
親愛の印にほっぺたキス。
「――ッ!? ……!!?」
「また今度喧嘩しようや。勝ったら一日俺の事好きにして良いぞ?」
――《
「そんじゃあ!」
「…………」
上空へ向けて急上昇し、イザヤもガレージ隔離世へ避難避難。
世話はウルネラとアルバロに任せよう。
「――ゼッテェエ勝ってやるぁあああ!!」
下から魂の叫びが聞こえた。変なスイッチ入ってるよアレ。
アイツに勝たせたら何かヤバい事になる。
危機感を覚えながら、俺は大気圏を突破して宇宙空間へと進出していった。
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