第76話 いせかいであそぼ

 馬鹿と煙は高いところが好きって言うけど本当だね。


 こんにちは。高いところが好きな神条 神鵺で御座います。

 現在崖の上に立ってます。

 何故かって?

 そこに崖があるからさ。


 肌寒くなってきた俺の世界を抜け、やって来たのは懐かしき始まりの地、剣と魔法の世界。

 どうやら以前リトラがこっそりやってた事は、ここを私有地にして自分達の世界にするための準備だったようで。チラホラ現代科学の匂いを感じる。人と呼べる奴らも発展してきてるみたいで、生まれ変わりの真っ最中らしい。


 はー? ふーん? あぁ、そう。


 俺に黙ってこんな面白そうな事してるんだぁ。サプライズかな? サプライズのつもりかな? だったら楽しみにしといての一言ぐらい欲しいけどねぇ。

 リトラ一人で独占を考えてた場合はオシオキ。拒否権は無い。


「やだよねぇ~自分がはぶられるって」

「あぶぅ……」

「イザヤもそう思う? だよねムカつくよねぇ~何だってこんな面白い事黙ってたんだろうねぇ」


 レミィの目を盗んで拐ってきた、我が子イザヤ。どうにもコイツ、最近遊び方がパターン化してきて退屈してるらしい。まったく贅沢な奴め、俺なんてペコゲーム与えられてからと言うものほぼ一人で遊んでたんだぞ。何だか涙が出てきた。ぐすん。


 良いもん今日はイザヤと異世界で遊ぶんだもん。

 ついで程度にある計画の最終段階へ突入するんだもん。


「さて。それじゃ適当に飛んで、遊ぶとこ探すか」


 《翼式飛行ウィングライド》で飛び回って見てみたが、自然と呼べる緑の領域はそんなに無い。そりゃ、半年近く前とは言え、この世界の創造神が全部焼いちまったしな。岩。岩。岩。岩。たまに枯れ木。岩。岩。


 暫く飛んでると村を見付けた。植林場もあるって事は、リトラの手が加わってるな。人間。エルフ。その他諸々。生き残った生命が種族や文化の壁を越えて、協力して生きてるらしい。追い込まれると誰しも拘りとか棄てるよな。コイツらは良い未来を築けるだろうよ。


 とりま降下しよう。リトラの支配下にあるなら、綺麗な水もあるだろうしな。


「天人……」

「天人様だ……」


 天人あまんと? おいおい、俺をそんな括りにいれないでくれよ。

 別に俺は五衰しもしないし天人なんて呼ばれる筋合いは無いぞ。

 いや待て。まさかリトラの奴が自分を天人だとか言ってやがるのか。

 こりゃ、後で問い詰めてやらねぇとな。


 おっと、村長らしきヤツが出て来た。

 壮年の人間、ふむ名前は……検索フェルズか。


「天人様、赤子を連れて如何な御用でしょうか……?」

「遊びに来たんだ。コイツのな」


 嘘は言っていない。天人って言葉には否定も肯定もしていないぜ?

 目の前にいる存在が世界を滅ぼした黒幕だって事は、勿論秘密。

 口止めも忘れずに。


「えぅ、ぷきゃっ、ぁあうっ♪」

「コイツ、イザヤってんだ。この世界で種を得たんだが、やむ無く俺の住む世界で産まれてな。折角だからこの世界を見せてやろう思って。魔族って奴? の血も持ってるらしい」


 これまた嘘では無い。

 どのみち成長したら一度この世界を見せようと思ってたし、ちっちゃい内でも問題無いべ。


 何て言うのか。この子は自分が異世界の血を引いた地球生まれって言う特殊な境遇ですら、楽しめそうな気がする。魔族の性って奴かね。


「イザヤ様、愛くるしいぃ……」

「あ、おい、あまりジロジロ見るな。天人様の子だぞ……!」

「いや良いって。イザヤも気に入ってるみたいだし」

「さ、左様で御座いますか……」


 なぁんなんだろうな、この感じ。

 恭しくされるのは悪い気しないんだが、むず痒い。この世界で生き残ってる奴らからしたら空飛んでくる存在はスゲェもんだって分かるけども。もうちょい認識を下げよう。口先で。


 っとまぁそんなこんなでやんわりと立場を下げていって、普通に話出来るようにした辺りで村長のフェルズがこんなことを話してきた。


「とても人懐っこく、楽しい事に目がない。イザヤ様は、素敵な男性に育つでしょう」

「あぁ、そうなって欲しいな」

「元来、角付きは丈夫な身体と明晰な頭脳を備えております。彼の勇者、傍若無人の天才レオンも、かつては二本角が生えていた方でしてな」

「……何?」

「有名な噂話があります。『角なんざ無くても俺ぁ勇者になれる!』と、力の象徴である角を自ら折ったそうですよ」


 プライド高そうなアイツらしい。

 大方、酒場で「角付きでもなけりゃぁ今頃落ちてた」って馬鹿にされたか。もしくは励まされたか。

 にしても親子揃って角付きとは、末恐ろしい。


「そりゃまた、珍妙な」

「あの出来事から、角付きと言うのはただの象徴でしかないという事が分かりましてな。要は心の持ちようだとか、魂の質だとか、そういったものが他と違うのだと」

「へぇー……」


 角にそんな意味があったとは。

 イザヤさぁん。あなたこの先凄い奴になりますよ、こりゃ。

 まぁ、変な期待は持たないでおくがね。自由にのびのび育ってくれりゃ問題無いべ。


「さて、と……そろそろかな?」


 まだ生後1か月程度、首も座っていないのでコッソリ買っといた外出用の小さいベビーベッドに入れて持ち運んでる。玩具は飽きてるっぽいので持って来ず、この世界の住人らに付き合ってもらって楽しませてた。


 えぇらい上機嫌。やっぱ故郷が良いのかな。

 にしてもこのちっちゃい笑顔がもう堪らん。


「うぇへへへ……」


 いや顔だって綻んじゃいますよ。

 超可愛い……無理、溶ける。(親バカ)


 と、親子水入らず――他人はいるが――の所で空間に亀裂が入った。


「おっ」


 遂に見付かっちゃったか。

 しかし門ではなく次元の穴だと?

 あの紫女シーファと俺以外に開ける事の出来る奴いたっけ?


「こんなところにおったか」

「あっ、ケイン」

「「「あ、天人様がもう一人……!!?」」」


 そろそろ配下達が鬼の形相で来るかなぁーと思ってたら、最初に来たのがケインとは。

 コイツも自力で異世界に行く方法掴んだのか。多分ごり押しで。


「レミィ殿が心底お怒りじゃったぞ」

「そりゃぁわざわざ拐ってったからな」

「んむゃっ」

「また何を企んどるんじゃ坊っちゃん。録でもない事はせんでくれよ?」


 目が戦闘体勢だな。

 コイツも良く分かってんじゃねぇか。


「……」

「……さぁ坊っちゃん。帰るぞぃ」



「神条フラァアッシュ!!!!!」



 目から眩い光を《放射》。

 これが本当の目眩まし。なんつって。


「んぬぅっ!?」


 イザヤを周囲の空間ごと位相のズレた次元の同一座標へ移し、安全を確保の上ローカル位置を固定。親オブジェクトは俺。要は見えないロープでくくりつけたようなもんだ。勿論 《情報操作》を使ってる。



 そんじゃぁ、準備も整ったし遊ぶか!



「あぁばよ!」

「あぁよっ! っぷいっ♪」


 世界を駆け巡ろうぜ!


「《加速ブースト》!!」

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