第68話 異世界侵攻阻止指令

 今更ながら、この物語における多世界思考について説明しようか。


 確か事の起源はシュレーディンガーの猫だったか。箱の中に猫と放射性物質、放射線計測装置ガイガーカウンター、青酸ガス発生装置を入れて放置した後、さて猫は『生きているか』『死んでいるか』のどちらへ傾くか。結論として言えば、どちらの状態も存在しているが、それを観測した際にはどちらか一方の状態にしか収束しないと言うものだったな。在る人物は、その観測する人間にこそ両方の状態が存在し、そこから逆算して考えた結果『生きている状態を観測している世界』と『死んでいる状態を観測している世界』の両方が確かに存在しているとまで唱えていたな。


 つまりだ、そう言った所謂平行世界、パラレルワールドは俺の生きる世界では観測出来るものとなっている。それどころか実際にその世界へ移動する事まで出来ている。と言う事は、平行世界の存在が証明されているのがこの世界の状態と言うわけだな。


 では、始めに出向いたあの剣と魔法の世界やマギア、バトリスと言った、明らかに平行世界ともまた違う”異世界”とは何なのかって事に繋がるな。


 推測でしか無いが、アレは数ある平行世界の中で想像観測されたが故に生じた空想の産物なのではないかと言うのが俺の見解だ。もしかしたら想像を目印アンカーに本当にあるその世界が引っ張られているだけかも知んねぇが、まぁこの際それは置いといてだ。この物語においての異世界とは、無限に存在する平行世界と、こちらは先の通り推測だが、人々の想像から生じた空想世界の二つに分類される事になるわけだ。こういった横の繋がりを持つ世界世界の他に、時系列のズレた縦の繋がりまで持つ世界もある。前の江戸時代みたいなとこがそうだな。



 んで、だ。



 めんどくせぇ事に、どうやら横の繋がりを持つ世界を……あー……ある種過去とも未来とも言える時空の俺自身が、金緑変石の指輪アレキサンドライト・リングの女を失ったようで。ソイツを取り戻す為に、平行世界であるコッチの環奈を奪って無理矢理その女と言う事にしてしまおうとしているらしい。もうその俺自身は消えちまって、残された向こうの濡羽一族クリミナルクラスタがお熱く涙流しながら準備しているんだと。


 おいおいヒロイン街道まっしぐらじゃねぇかよ天宮 環奈。

 しかも敵も味方も俺だぜ複雑過ぎるわぁ。


『油断しないで、相手はある種未来の貴方。ズル賢さも格段に上がってるはず』

「我ながら天晴れだ。母ちゃん、管理者Cradleとやらは何処まで手を貸せる?」

『他の世界も見なきゃだから、今回は三人目ドライの私がしもべを貸すよ。奈落ナラクの獸を五十万、ユーラシア大陸ならまるまる滅ぼせる戦力ね』

「ウワァオ」

『いよいよ呆れてくるよね、これでまだ全然弱いんだから』

「笑うしかねぇわ。おっけちょっと確認。管理者Cradleからすれば世界さえ無事なら良いワケね」

『そうね』

「あい了解。隠すか」

『えっ』

「隠す」

『えっ』

「隠す」

『えっ』

「良い事思い付いたんで」

『それマジ?』

「イェス」


 自分同士で智慧対決なんて面白そうっじゃぁ~ん。

 それに、向こうの俺が何をしようとしてるのかは大体分かるし。

 何せ、他でもないこの俺なんだからな。




 * * * *




「っと言うわけでだ」

「どういうわけです?」


 O市郊外、我が邸へ戻った俺達は作戦会議を始める事にした。

 メンバーは全員。俺、リトラ、優、(縛っといた)足立姉妹、信、ケイン、ミキ姉、環奈、クロウ。レミィはイザヤ抱いて目に着く場所で安静に。そんでもって母ちゃん。


 信じられるか? ここに悪魔と熾天使と、霊能力者と、超能力者と、色々凄い吸血鬼とアンデッド、賢者親子と来て最後に世界の管理者がいるんだぜ。


 改めて確認すると恐ろしいわ。何だこの魔窟。

 まぁ良い、こりゃ寧ろ心強いぜ。


「まずは紹介しよう。俺の母親、神条カミジョウ 亜紀アキだ。見た目はこうでも50手前だぞ」

「夢を壊してくれてありがとう神鵺。さてと……改めて、管理者Cradle三人目ドライ、神条 亜紀だよ。まだまだ為り立ての新人だけど、ある程度好きに動ける現場担当とでも思ってくれれば良い」

「ク……クレイドル……母……えっ……えっ」

「自分がどんな世界に生きてるかいよいよ分からなくなってきた」 わはぁー

「うむ。此の親にして此の子あり、じゃな」

「もう何でもありだなこの世界」


 ひたすら困惑するリトラと脳処理が追い付いてない優、納得のケイン、諦観のミキ。

 うむ、予想通りの反応だ。


「先生しつもーん」

「はい日和」

管理者Cradleって何?」

「そうだ結局管理者Cradleって何なんだよ母ちゃん」

「文字通り、世界の管理を行う者達の事だよ」

「……」


 また大事な事は言わないのか。

 頭腐るまで撫でるぞコイツ。


「ごめんね。今言ってしまうと、全てが破綻してしまうの。でもいつか、必ず教える」

「言ったね?」

「約束は破らないよ、貴方と違ってね」

 グサッ

「ともかく、今の私は全面的に貴方達の味方だよ」

「頼リンシテマス」


 特に天使と悪魔が信じられないって顔してる。

 管理者Cradleって本当に凄い存在なのな。言っちまえば神みたいなもんか。


「とまぁさっきも言った通り、”俺”の作った世界がコッチに侵攻してくるから、これを喰い止める。防衛指令、|異世界侵攻阻止指令ブレイクオーダー:セルフレイドだ。皆で仲良く世界を護りましょうってな、栄誉ある行いだと思うぜ」


 その一言でざわつく一同。

 まぁ、そんな反応にもなるわな。


 だって、目の前にいる人物こそ、幾多の世界へ突然現れては殺戮の限りを尽くし魂を奪っていく巨悪なんだぜ。それが、今になって世界を護りましょうだなんて言ったら気味悪いよな。


「あっ、でも今回本番中は特に大変な処理とかいらんから」

「「「「「「えっ」」」」」」

「強いて言うなら戦闘ぐらい」

「「「「「「えっ」」」」」」

「準備だけ万端にしてちょ」


 そう、今回は事前準備が大事な工程になる。


「んだそれ」

「説明しろ狩猟者プレデター

「おう。まずは環奈に隔離世を用意してもらう」

「私に?」

「太陽系がまるまる一つ収まるヤツだ」

「……えっ」

「なるほど、隔離世内に世界を隠すってわけだ。だが狩猟者プレデター、そこまで大きい隔離世を作るのは不可能に近いぞ。アレは小さい領域だからこそ簡単に作れて、維持出来るんだからな」

「ああ、そうだな。だがこの中に一人、空間関係の能力者がいなかったか?」

「……ん?」


 ほら、そこでチョコンと座ってる、俺の契約者が。


「……私!?」

「お前言ってたよな、《空間掌握ワールドマスター》っちゅう上位のスキルを持ってるって。バトリス事変の時も、あれでゲートを変形させてたんじゃないのか?」

「そ、そうですけど……良く分かりますね」

「俺の頭ナメんじゃねぇぞ?」

「ぐゅ……まぁ、《空間掌握ワールドマスター》を使えば……頑張れば太陽系一つくらい収まる隔離世は作れそうですけども」

「うみゅ。しかしだ、すると向こうの連中は、地球も太陽も無くなった宇宙空間に放り出され兼ねん。ちとそれは可哀想な・の・で、何かしらのダミーを用意したい。俺らの持つ能力じゃぁ太陽系一つを複製デュープするのは難しそうだし、何か良い案無い?」


 結果、案無し。


「どないせぇっちゅうねん」

「おい知力S+3」

「おっと聴覚が不調みたいだな」

「テメェ……」


 信や、イライラしてっとお肌に悪いぜ。

 まぁ天使がストレスでどうなるかなんぞ俺は知らねぇが。


「……要は、向こうの人達が宇宙空間に放り出されなければ良いんですよね。なら、何時かの時みたいに全面包囲門グランドゲートでも展開してバトリス辺りに飛ぶよう工作しときますか? あそこの定義規模は宇宙ですし」

「それがあったか。んー出来る事なら騙してると気付かれないようにしたかったが……いや、向こうの開く門が全面包囲門グランドゲートの内側にあるなら、気付かれない様に誘導出来るか? そんでバトリスの表面上に地球の情報を上乗せしてだ――」


 俺は暫し考える事にした。

 出来る限りスマートに事を運びたかったのでな。


「また何かとんでも作戦考えてるのか……」

「もうちょっと待ちましょう、神鵺さんのアイデアは馬鹿に出来ません」

「しかし、良く使われるな、バトリス」

「ご主人の好きなゲームと、良く似た世界らしいです」

「もしかすれば、空想の世界も有り得ると言うわけか。私は空想から生まれた、と。ふむ、"面白い"な」


 まぁミキは面白いと思うだろうなぁ。

 そりゃ言っちまえば、その想像した個体がある種の創造主って事にもなるんだし。

 面白いよな、異世界って。


「可能性と言う言葉の先に、全てが有り得るって言う恐怖がある。異世界って言うのはそんな化物かも知れんな。さて、纏まったぞ?」

「ゴクリ……またご主人の頭悪い作戦が」

「頭跳ばしてやろうか日和?」

「ごめんなさい」

「よろしい。んで、まずさっきも言ったように、環奈とリトラで協力して太陽系を隠す。次にリトラが同じ規模の全面包囲門グランドゲートを展開、作戦領域の生体喪失荒廃世界バトリスへ誘導する。ここは俺がこの世界の太陽系に偽装しておこう。がんばりゅ。んでその後は母ちゃんの下僕と協力して応戦してくれ、死なない程度に防衛するぐらいでOK」

「それよ、その言葉が気にかかる」


 今度はケイン爺さんが意見か。


「何故こちらから攻めないのか。だろ?」

「うむ。何故我々程の戦力を期待していながら、防衛程度で留めておく」

「だって、言っちゃうと向こうはここと同じ世界よ?」

「平行世界なぞ幾つでも出向いたじゃろうて」

「そうじゃなくてだ。向こうは爺さんにミキ姉、信、リトラ、レミィ、優、それぞれが今よりも経験を積んでいる状態でスタンバってるかも知れないんだぜ? しかもそれだけでなく、下手したら向こうの天界やら管理者Cradleの連中まで襲って来かねない。 いや最悪の場合、メロディアスやら言った他世界にまで支援要請が届いてるかも知れないな?」

「…………」 サー…………

「さて貴様ら――――これを御せると豪語するなら席を立て。俺は止めん」


 さぁ無謀な馬鹿は、ここにいるかな?

 かぁんなちゃぁん、特に君とか。


「…………」


 あら、珍しく大人しげ?

 まぁ良い。身の程を弁えるのは獣の常識だ。


 それだったならば。


「大変結構っ! 所詮はダミーだ、負けても良いからな。せいぜい死んでくれるなよ」

「……やっぱそう言うことか。OK、乗った」


 約一名、信が理解したようだな。


「うぅむ……負け戦に興じてしまうしかあるまいか」

「久々に暴れられると思ったんだがな。まぁ、奮戦しよう」


 ケインとミキ姉は、やはり脳筋思考だな。

 まぁ、そっちの方がやり易いが。


「……なぁ神鵺」

「ん?」

「お前、また何か隠してるだろ」

「勿論」

「おまっ……~~……血は争えないって事か」

「文句は母ちゃんへd」 ゴチンッ!

「勝手に人のせいにしない」

「~~ッ……ハィ……」


 母ちゃんの拳骨ね、痛いの。

 ただの物理攻撃じゃなくて、あの金切音みたいな高周波が頭ん中でキンキンするの。めっちゃキツい。


「事態を収めるのは神鵺の役割なの。今までの作戦は時間稼ぎ」

「何だよ時間稼ぎかよ」

「言っとくが環奈、お前は避難させたこの世界にいさせるからな」

「んだよそれ聞いてねぇ!?」

「言ってないからな」

「……テメェ……何から何まで盤外から動かそうとしてんのか、おい!」

「か、環奈さん落ち付いて……」


 実は、向こうが環奈を狙ってるってのはここじゃぁ伝えていないんだ。

 二度も自分が狙われるなんて思ったら、コイツは、酷く落ち込むかも知れん。

 それが嫌なので黙っといた。


 が、これは……。


「そんなに私が頼りねぇのかよ……」

「…………」


 しまった。環奈はこういうタイプだった。そりゃ何も言わないで後ろにいろとかコイツにとって屈辱以外の何でもねぇや。どちらにしろ落ち込ませてるじゃねぇかおい。失敗した。どう持ち直してやったものかえぇっと落ち着けまずは人として謝らねばそれからry。


「環奈ちゃん。それは違う、違うよ」

「……ぇ?」


 ちょ、母ちゃん何を。


「環奈ちゃんがいないと、隔離世は保てない。それにもし隠してる世界に侵入されたら、危ないでしょ?」

「……なる……ほど……?」

「だから、最強クラスである環奈ちゃんに、隠してる世界を守って欲しいわけ」


 …………最悪。

 超恥ずかしい。

 母ちゃんありがと、でもめっちゃキツい。


「……そう……なのか?」

「……まぁそれもあるんだがぁ何だ、なんつったもんかぁ……」

「……?」

「…………」 チラッ


 何気無しに目をやったら、(一部を除いて)一同ニヤついておった。


「あー……だな、だからぁアレだ」


 ダメだ、何かが死んだ。

 待って顔が、顔が、熱くなってきた。

 ジェイク助けて冷却早く!


『…………』


 おいジェイク!? 応答しろジェイク!?

 待って助けて耐えられない!! お願い冷却してジェイク!! ジェイクゥ!!


『…………フッ』


 貴様裏切ったなこの茶目っ気オヤジがぁああぁああぁぁあああ!!!!!


「神鵺? 何だよ、他にも理由あるのか?」


 ……いっそ死にたいと思ったが、それくらいなら言っちまった方が楽になるか。

 よし、一度だ、言ってしまえば楽になるんだ。


「……き……たくなんだろ」

「んぁ?」

「言った! 一回言ったからもう言わない!」

「何だよそれもっかい言えよ!?」

「むーりー言わなーい!! 言わないっつったら言わ……な……」


 おいリトラ、お前指輪から出してるウィンドウは何なんだ。

 そのウィンドウに表示されてる音声ファイルは一体何だ何を流す気だ。


………わはぁー♪」 ポチッ

「ッ!?」


 コイツ……!?


『……好きんなったら』


 やっぱ録音してた!?


「ダァアアァアアアアァアアアアアァアア!!!?!?」


 叫び声で相殺! 録音データ検索! あった、削除!!


「あっ。むぅ」


 聞いてないよな!? 環奈聞いてないよな!?


「……えっ……ぃ、今……」


 ダメだコイツ察しやがった!


「ジェイク! 改竄!! 改竄!!!」

「お母さんが管理者Cradle権限の元許可しません」

「んぬ"あ"ぁ"あ"あぁぁああああぁぁぁぁぁ…………」 へたり


 死んだ。俺死んだ。

 最悪だこんな形で皆に知られるとか最高ランクで恥ずかしい。


「……ぁ……ぁの神鵺……お前……」 プルプル……

「……悪いかテメー……」

「……マジで……? お前、お前私の事……」 ワナワナ……


 …………オーケー分かった吹っ切れた。

 死亡フラグ? 無視すりゃ問題ねぇな?

 これがテメーらのお望みなんだろチクショァ!!!!


「好きになって……悪いかゴラァ!!!」

「ぅえっ!? ぁ、ゃ、その……ゎるくは……」

「お前さぁ、その小動物みたいな反応に対して可愛いなぁって態度出さないようにするのめちゃくちゃ辛いんだぞ!? 可愛いなぁって! 頭撫でてやりてぇなぁあって思うの必死に抑えて飯喰ってんだぞ出掛ける時!」

「……~~……ッ!!?」 ぼふんっ

「もぅ……もぅお前これ超恥ずかしいもぅゃだ花火になりたぃ(?)……可愛い……好き……」


 そうだよ好きだよ。

 ずっと女として環奈の事好きでしたよ悪いかテメェら!!!?


「……ぁ……ぁ、ぁあー!! そろそろ! 準備しないとな! な!?」

「そうな!! 頼んだぞリトラ!」

…………ぽけぇー……あっ、はい。用意して来ます」

「汚れても良い服に着替えてこよっと。んじゃな狩猟者プレデター


 ぐぬぅ、悪魔共がとっとと行きやがれコンチクショウ。


「あっ、そうそう。おめでとうございます♪」 にぱぁー♪

「「ッ!!?」」 カァー……!!


 顔が熱い。

 恥ずかしい。

 でも嬉しい。やっぱ恥ずい。


「さて、儂は戦闘用の手袋を取ってこようかの」

「私も兵装の確認をしなければいけないな。失礼するぞ 」

「……えっと……えっと……未来は、二人の手で掴んでね! それじゃ!」

「マスター。環奈様。二人の恋、応援しています。では」

「いやぁ~もうお母さん嬉しい。"あの"神鵺が堂々女の子に告白するなんて♪ お邪魔したね。それじゃぁ~♪」


 皆揃って部屋出ていきやがって。

 環奈ちょっと涙目なってるぞ。俺も死にそうだけど。


 ……クロウ、お前は変わらず反対なのか。


「…………神条 神鵺……私は認めないぞ……環奈様は、まだ……まだ……!!」 わなわな……

「…………」


 そうかそうかそうなのか。この親バカめ。

 おかげで覚悟が決まったわ。


 環奈を抱き寄せてやろう。


「うぇっ……!?」

「!?」

「コイツは俺が奪う。認めないならバトルも辞さないぞ、クロウ」

「~~……ッ!?///」 ぼふんっ!

「……貴様……」


 ハッ、無理だろうよ。

 お前ら悪魔に戦闘能力が無い事は。


「丁度良い、前々から貴様を絞めたいと思っていた」

「うぇっ」


 クロウの奴、手袋外して投げ渡して来やがった。

 決闘の申し出じゃねぇかこれ。

 ヤベェもしやコイツ強い?


「着いて来い。そう時間は取らないから安心しろ」


 マジデ?

 レベル見てみようとスキャンしたら当たり前の様に抵抗レジストされたんだけど? 同格以上? ナニソレ?

 狂信者襲撃の時ふっつうぅ~に劣勢だった事サラッと知ってるんだけど?

 環奈が相手だから手が出せなかっただけ?

 嘘やろ?


 逃げて良いっすか?


「いっ、良い。止めろクロウ」

「環奈様!?」

「そこの馬鹿姉妹の仕業かも知れないが……認めるよ。いつの間にかコイツの事が好きになってた」

「……マジかよ」

「……コイツは、私の彼氏だ」

「ん?」

「傷付けたらクロウでも容赦しないぞ」

「……んっ!?」


 待って?

 何か話が飛躍し過ぎてません?

 付き合うのは大歓迎だけどもっこう順序踏む必要無い?

 無い。あぁ、そう。

 彼氏です。よろしくお願いします。


「……~~~~……ッ!!!!! ……神条 神鵺」

「アッ、ハイ」

「私は未だ認めていない。だが。環奈様が認めた男と言うのならばッ。今しばらく見守ってやる。良いか、環奈様を悲しませてみろ。その時は、私自ら貴様を裁く」


 本当に親バカだなコイツ。

 ただまぁ、それだけ環奈が大事って事なんだよな。


「それだけだ。……環奈様。どうか、御無事で」

「……おう」


 よぉーしクロウも出ていった。

 まぁこの場は何とかまるく収まった。と、思いたい。


「……あぁーのぉー……ご主人」

「何だ」

「そろそろ、縄を外して頂きたいのです」

「…………」


 うん。足立姉妹どうしようかなぁーってずっと思ってたよね。

 そろそろ理性も戻って来てたし縄解こうと思ってたけども、途中から何かラヴコメ始まっちゃって? コイツらにアレコレする余裕無かったっつぅか? ちょっとあの空気の中気に掛けるのは気まずいと言うか気が気でなかったと言いますか?


「うん。タイミング、無かったよね。ごめんね」

「ぃ、いえ……」

「良いノロケだったよご主人。環奈様もやっとご自分の気持ちに気付いたし」

「お姉ちゃん」

「ん?」

「墓穴、掘ってるよ」

「…………」

「……」 ビ キ ビ キ ♡

「……神よ……」

「処女喪失。正気度喪失。島流し。拘束監禁。他にもたぁ~っくさんメニューはあるがどうするね」

「ご主人、どうか慈悲を」

「私はやっていないのでセーフなのです」

「ご主人! 彩月が嘘を吐いた!!」


 この馬鹿姉妹、本当にどうしてくれようか。

 悪戯も大概にして欲しいとも思うが、しかしコイツらの動きが無ければ告白もする事叶わなかったろう。まったくもって、複雑奇怪で面倒臭い。今回ばかりは許してやろう。


 だがコイツ環奈が許すかな?


「お前ら、後で私刑な」

「ひっ……!?」

「御慈悲を、私達に憐れみを」

「ねぇよ、んなもん」

「「神よ……」」

「おっつん」


 とまぁ少し茶番が過ぎた。

 そろそろ準備を始めないとな。


 ちなみに足立姉妹はこの後異世界逃走を図ったのでまた凍らせといた。

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