第11話 メイド イン ヘヴン
食事関係は彼女に一任し、コンビニバイトが無い日の夜なんかは机を囲んで4人一緒に喰っている。何と言ってもこれが美味い。店以外で人にご飯を作ってもらうのなんて久し振りで、すっかり虜になってしまった。弁当まで作ってくれるとは、やるな優。
「ちゃんと認めてくれるんですね。もっと理不尽な人かと思ってたけど」
「んだそりゃ。能力に対しては素直な評価を付ける、それが俺の決まりだ。もっとも主観でしかないが」
「それでも嬉しいですよ。しっかり見てくれるって、家族や親友以外ではそんなに無い事だから」
「……そりゃ、どうも」
面接してから2日後、初めて俺達の邸へ来る日なんかは驚きと圧巻の連続だった。
悪魔の
何て言うか、コイツは『普通』の人間では無かったらしい。ファンタジーに興味を惹かれたと言うのは本当で、未知への遭遇に喜びを感じる探求者タイプのようだ。
気になって情報を見てみれば、何らかの呪いが掛かっていると分かった。面接の時にそれがカッチリ嵌ってしまったらしい。何かあったら、まぁその時に何とかしよう。
「んじゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、神鵺君」
「君……一応主人なんだがな俺……」
「ふふっ……何だか弟が出来たみたいで、つい」
「はいいってきますゆうおねえちゃん」
O市外れの邸からS市のマンション自室まで、壁に固定された
その点では、彼女の言う強さと言うものは認めざるを得ないな。
「嗚呼 素晴らしきかな
=== 天使と悪魔は紙一重 ===
どうも。
天使と言っても天界から追われてしまった、所謂堕天使って奴。
つまり悪魔の一種ね。
ああ、人類を救わなきゃいけないなんて使命に飽き飽きしてぐーたらしてたら、"お父さん"に雷喰らってこの様だよ。あれから五年、すっかり俗世に嵌まってしまった。
何が良いって、今まで人類の為と言われてやらされてきた事と比べて、自分のため、生きるために働く事がスッゲー楽しい。
ああ、こりゃ人類救う必要もねーわ。一緒にいて分かった事だが、奴等とっくに神の手から逃れてるし。役目が無いなら素直に堕ちて世を楽しんだ方が良い。
「お父さんも分かってねーよなー。もう上から目線で人間にあれこれ出来る時代じゃねーってのに」
午後三時過ぎ、日本各地を転々としながら適当なバイトで稼ぐ自分は北海道へ来ていた。S市、北の民達が生んだ魔境の都市。この私が暫く滞在する場所は決まった。そうS市はS区! 有名な電波塔にも地下鉄で直ぐに行けるし、同じように同人ショップまで少ない労力で行ける。そして何と言っても静か! 喧しい奴等が少ない! 好条件! 冬は雪がキツいらしいが、まぁそこは何とかなる!
まずは泊まり込みで出来るバイトを探さなくては、気候が暖かくて公園でも寝れる今の内に済ませてしまいたい。
一応は不老不死で食事も不要だが、天使だって相応の生活を送るにはお金が要り用なのだ。娯楽が無ければ生きていけない。このスマホだって、頑張って稼いだ末にようやく獲得出来た初めての戦利品だし。
たまに不良やオッサンが寝込みを襲ったりしてくるが、その時は逆に獲物が連れたと思って甚振り金をむしり取ってやるのが自分の流儀だ。良いカモだよ本当に。
あっ、これでも処女はちゃんと守ってるから。そこんとこよろしく。
「す、み、こ、み、ば、い、と……っと。うげっ、こっから遠いじゃん!? ちくしょうE区行かなきゃならんかこれ……近くにねーのかよ」
「住み込みバイトをお探しで?」
男が話し掛けて来た。
無駄にイケボ使いやがって誰だ。金巻き上げるぞ。
「メイドを募集してるんだが、どうかな。お手伝いさんの仕事」
「メイド……」
眼鏡を掛けた青少年。知的な雰囲気だが、何処か野蛮な気配を感じる。これは、血の気配か? 何だってこんなガキが殺し屋みたいなオーラを纏ってるんだ。良い指輪してるな。金持ちか。にしては庶民丸出し、何だコイツ?
「掃除洗濯などの家事さえしてくれれば、自分の部屋に住めてネットも使えて食事にもありつける厚待遇のバイトだ。興味は?」
「8割」
「なら明日面接しないか。既に一人メイドがいるんだが、二人目の応募が中々来なくて参ってたんだ」
「…………このサイトか」
「そうそう。実績ある人のが良かったんだが、この際未経験でも誘って研修して貰う方が早いと踏んでな」
「うぅむ…………」
住み込みな上にそんな厚待遇と聞くと嬉しい話だが、何か怪しくないか。単にナンパしてるだけなんじゃないのかこれ。
「メルアドだけ渡しておく。その気が出たら連絡くれ」
いや、これはナンパじゃないな。こんな淡白なナンパなんてする奴いねぇ。
「……分かった」
「俺は神条 神鵺、覚えといてくれ。んじゃ」
「あ、ああ……ん? カミジョウ……シンヤ……?」
どっかで聞いた名だな。
公園で色々と整理してみた。
まず、奴は普通の人間では無い。何人もの殺しを働いた奴の目だ。
少なくともそこらの学生なんてものじゃない。
堕天使仲間に聞いたが、一ヶ月とちょっと前に悪魔共が新システムを考案したんだったか。異世界へ出向いて魂を狩る、その狩猟者に一般人を起用する
漆黒の宝石が嵌められた指輪。そう、これについて二週間ぐらい前騒ぎがあったような……黒い宝石……黒い、ダイアモンド。
「……神条……神鵺……!?」
初の世界を滅ぼした
「…………ヤベェ!?」
自分は何て事をしてしまったんだ!
「メール! メールだ! 誰よりも早く!!」
悪魔が吹っ掛ける仕事なら、報酬はバカにならない! 裏に思惑はあるだろうが、釣るための餌には余念の無い連中だ。これは絶対高額だ! 奴は大金持ちだ!
目の前に金のなる木がいたと言うのにみすみす逃すところだった!
金持ち邸にお邪魔出来るとはなんたる幸運!
しかも奴がポカッてくれたら、自分は直ぐ様財産を横取りして逃げられる!
「そーしん!」
―――― 応募 ――――
名前:六天 信 性別:女性格
年齢:
コメント:
さっき声を掛けられた女だ。
メイドらしい態度は出来ないが、仕事はキッチリやる。
是非自分を雇ってくれ!
電気とか機械関係の問題は任せろ! 得意だ!
――――――――――――
「こんなんで良いだろ、下手に取り繕うよりかは。ひひっ、連絡楽しみにして」
「返事早っ!?」
―――― Re:応募 ――――
即働いてもらいたいのはこちらも同じだが、しっかり面接してもらう。
明日の午後四時、E条2丁目の地下鉄出入口に来れるか?
――――――――――――
「めぇーんどぉーくさぁーい!!!」
しかし面接を乗り越えさえすれば、長らく私の生活は安定するのだ。ここは、茨の道を進む覚悟で
「はいオッケー! やぁってやるぞ人間め!」
―――― Re:Re:応募 ――――
問題ねーっす。
履歴書はいるか?
―――――――――――――――
「だから早いってーの!?」
―――― Re:Re:Re:応募 ――――
必要なものは無い。
ホームレスなんだろ、飯ぐらい喰わせちゃる。
それじゃ。風邪引くなよ。
追伸
多少驚く事があるだろうが大した事じゃない。安心してくれ。
――――――――――――――――
……見た目だけで分かるものなのか?
Yシャツスカートにジャージって姿だが、だらしなさ過ぎたか。
「まぁ良い。これは私の一張羅だからな。天使の汗たくさん吸った高級品だ。寧ろ金で買える代物ではない!」
「じゃぁそれくれたら僕の秘蔵コスプレファッションを……」
「だぁれだこのウスラハゲ!!!!」
モブおっさんにはブッ飛びキックあるべし!
「エロティッ黒ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「変態マジ滅べ!!」
さっさと明日の昼になってくれぇー!!!
=== カーン ポッポ ===
待ち合わせ場所で神鵺と再会して、奴の自室へ行ったら見覚えのある印を壁に見付けた。
「やっぱ俺と同じぐらいだとあんま驚かねーのな」
「あー、まー」
シックな廊下、いや、玄関に出た。
邸だ。
さり気無く高価な逆十字の飾りがあった!?
悪魔崇拝なのか、そしてやはり金持ち!
「応接室で2人を待たせてる。そこで面接だ」
「お、おう……」
「ここだ、入ってくれ」
「……えっ」
ちょっと待ってくれ。
「ん?」
何でアイツがいるんだ。
「……ぁ……あぁ、ああああ!!?!?」
何であの悪魔がここにいるんだ!?
「サリィー!!!!!」
「ぶべっ!?」
抱き着くな悪魔!!!
って言うか何でよりによってこの悪魔が
「また会えるとは思いませんでしたよ! それもまさか北海道へ来ていたなんて! 嬉しいんですよサリー♡」
「五月蠅いその名で呼ぶなハートを飛ばすなくっ付くな頬ずりするな股に手を伸ばすな角折るぞ!
「……知り合いなのかお前ら。”情報”に違和感があると思ったら、やっぱ人間じゃなかったか」
「……はぁ……そう、元は
「六天……別名は
「笑うな。コレは”例外”だ。何処の馬の骨とも知れない赤子の霊みたいなモンとでも思え」
「なるほど? だから名前が無いのか」
「その話はもう割り切ったって言ったじゃないですかサリー。それよりも私は貴方を歓迎しますよ。メイドじゃなくて居候でも良いじゃないですか。ね、
「どうせ飽きて捨てちゃうでしょ? ダメよ飼うなんて」
「自分を犬か猫にして遊ぶのは止めてもらえるか」
「サリ……コホンッ、信さん。今ならまだ間に合います、逃げてくださぁああ違うんです今のは痛いッ!?」
可愛い女の子相手に
「おっめーも何マスターの意に反する事サラッとしてんだ。流させるぞゴラ」
「ご、ごめんなさい。流したくないです……産みたいです……」
子持ち!? その歳で既に子持ちぃ!?
しかもお相手そんなちっちぇーガキ!?
この21世紀に!? パネェェエエエエエエエエエエエ!!!!
「サリーサリー、この人童貞。異界から拉致って来ただけですよ」
「あーなるほどそう言う」
あ、ちょっと怒った。
「悪魔、そんなに言うんだったら俺の童貞卒業させてくれるんだろうな」
「いやぁっだジョーク! ジョークですよ
「良い機会じゃねぇか、お前あん時処女捨てたいなーとか言ってムグムグ」
口を塞ぐのはズルくない?
「フンッ、まぁ良い。で、どうだ優。素のスペックはオールB超えだからすぐ覚えるだろうな」
え、他に人いたの。
「あっ、はい、問題ありません。やると言うからには、家政婦の極意をしっかり叩き込んでやりますよ!」
人間じゃねえか。しかも
デッカい女だな、背も胸も。う、羨ましくなんて無いぞ。自分はこの体型に設計されたんだからな。
「つーわけでこちらは迎え入れる方向だが、最終確認だ。どうする?」
面接ってもっとこう、椅子に座ってアレコレ話すようなもんじゃ無かったっけ。
まぁ良いか、これで受かるってんなら安いもんだ。
「決まってんじゃん。働かせてよ、ここで。”生きるために”」
「ッ……」
あれ、何か驚いてる。
これは、喜んでるのか?
「……素晴らしい。生きるために働くと堂々言えるのは最高の労働者である証だ。良いだろう、採用だ。六天 信、俺はお前を歓迎しよう」
……あー、なるほど。
コイツ、自分と同じか。
「宜しくなんてしてやんないよ、
「ああ、んなもんいらねぇ。きっちり仕事してくれよクソッタレ」
跳ねっ返りは嫌いじゃない。
今まで以上に楽しい毎日が送れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます