第12話 バトラーエンター


 まさかの堕天使、それも元熾天使セラフのサリー事六天ろくてん まことがうちのメイドに加わり、生活に賑わいが出始めて来た。


 聞くに。奴は五年ほど前に堕天した際、浮浪者だった悪魔と出会って一年ぐらい一緒にバイト生活していたらしい。なるほど、奴が悪魔らしくない事には並ならん理由があるようだな。もう解決したみたいだが。


 そして信が来てから4日後、新たに二人の家政婦応募が来て即面接、面白いので採用した。足立あだち 日和ひより足立あだち 彩月さつき、双子の姉妹だ。両者セミロングヘアに顔立ちから容姿までめちゃくちゃ似ているが、行動派な姉に頭脳派の妹と言う区別でとても分かりやすい。霊能力者の子供で、つまりコイツら、視えるらしい。悪魔の正体を見抜いたり、レミィの魔力に反応したりと類稀なる才能を持っている。俺の事を「そこらの悪霊が憑依しようとして逆に食べられてる」と評価するだけじゃ飽き足らず「悪霊よりも悪質な存在」だの「呪いの権化」だの言ってくれやがった。そんな奴らと比べられても嬉しくねぇし俺は生きてるぞちくしょうめ。


 そんなこんなで大分と言うか過剰なぐらい生活は安定し、俺は能力を適度に活用して学業や趣味の創作、遊びに充実した毎日を送っていた。勿論前に環奈と約束していた食事も済ませ、ついでにデートとか言ってからかってやった。顔を真っ赤にしてて可愛かったぜ。


 ちなみに家政婦の募集はもう良いだろうと踏んで、掲載を取り止めた。

 四人で十分過ぎたぐらいだ。


「ここもすっかり賑やかになってきましたね。これ皆、神鵺君の働きなんですよね」

狩猟者プレデターのスペック高すぎません? そのくせ何で今でもコンビニバイトなんか続けてるんでしょうかね。それさえ辞めれば、もっと魂奪取ソウルダッシュの仕事が出来るのに」

「多分、彼には彼なりの普通の生活があるんですよ。一学生としての、何気無い独り暮らしとしての側面を大事にしてるんじゃないでしょうか」

「そう言うものなんでしょうかねぇ」

「まぁ、私は神鵺君じゃないので、実際の所は分かりませんが」


 俺が後ろにいる事も知らず何を言ってるんだこの朝ドラ頭は。

 今は丁度アナザーグラウンドの放送されてる夜11時だぞ。


「コンビニバイトなら今日が最後だったぞ。ただいま」

「しんにゃ君!?」

「にゃあ」

「猫共が。アルバイトかてすぐに辞めるなんて事は出来んのだぞ」

「そ、それで昨日まで続けていたんだ……」


 具体的に言うと、家政婦を雇おうとし始めた日の次の日に辞表を届けたのだ。お相手との話し合いの末、一ヶ月後に辞める事で丸が押された。


「ねーご主人! このロボ軽量アッセンブルが良いよね! そうだよね!」

「いいえご主人、やはりロボは頑丈でガッシリした造型が強く美しい。重量級でやるべきなのは確実。ご決断を」

「ゲームで議論は良いが喧嘩はするなそして他人に決断を迫るな馬鹿姉妹。キリが無いなら対戦で決めろ。俺は中量級でトーナメントに入る」

「「ご主人は強すぎるからダメ!」」

「んだよぉ」


 足立姉妹も中々良い個性してるわ。


 しかしまぁ油断していたのやら何やら、トラブルは忘れた頃にやって来る。


 今回のエネミーがご登場だ。




=== Caution!! ===


 四人のメイドを雇い、二週間ほど経った頃の夜遅く。


「神鵺君! レミィさんが! レミィさんがぁ!!」


 趣味の動画作りをしていると、血相変えた様子の優が俺の部屋に飛び込んで来た。

 止めろ抱き着くなデカ女。胸当たってんじゃねぇかおっほやらけーなちくしょう。


「むぐっ……どうした、レミィの陣痛はまだ先のはずだぞ」

「違うの! 怪しいお爺さんが邸に侵入して!」

「怪しいお爺さん? 変なおじさんじゃねぇのか」

「そ、そっちじゃなくて……それで、レミィさんが……」

「……レミィがどうした。殺されたか」

「こっ……あぁ、もう少しは心配して下さい。殺されてはいないけど、その、人質にされてるんです」

「はぁ? 馬鹿かソイツ、女一人人質にして何する気だ」

「……あんまり、慌てないんですね」

「そりゃお前、悪魔ならともかくレミィは人質にされた程度で慌てるような相手じゃない」


 悔しくはあるが、別に奴が死んだからとて俺が怒る必要も無い。単に丁度良いから拐ってきたわけだからね。


 至極普通な思考のはずだが?


「……例のお爺さん、神鵺君と戦いたいって言ってるんです。明日の午前0時までに決着を付けなければ、腹の子が怪物になって皆殺す呪いを掛けた、と」

「うわぁ発想がエグゥい」

「神鵺君も負けず劣らずだと思うけど……」

「フンッ。まぁオーケー、行きゃぁ良いんだな」

「は、はい。レミィさんに悪魔さん、足立さん姉妹も地下に幽閉されています。私は、その、唯一一般人だったのでメッセンジャーに……不甲斐無いです……」

「良い。丁度5分か……悪魔、座標確認。ドジを後悔するのは後にしろ。奴の後ろ200mにゲート開通だ、早く」

「えっ」


 この俺の領地に踏み入り、下僕まで人質に取るとは。


 変なおじさん、許しがたし。


 ならば遠慮は無用。容赦無く。


「――ブッ潰す!!!!!!!!」


 《加速ブースト》!!!!


「めっちゃ怒ってるぅうわぁぁああ!?」




* * *



 邸の壁をブチ破り、同時に瞬間装備クイックイクイップで装備したウルネラとアルバロのフルオート掃射。燕尾服バトラーの爺がいたんで容赦無くエネルギーの弾丸を叩き込む。


「フハハ、威勢の良い小僧め」


 チッ、全弾弾かれた上に頭突きも受け流された。武術家マーシャルアーティストか、俺に挑んでくるだけあって実力のある爺みてぇだ。


「上から目線で垂れんじゃねぇ!」


 周囲を高速旋回しながら360度全方位からの囲み連射。いくらスピードに自慢があっても、持久力が無ければコイツでお陀仏だぜ。


「ふむ、発想は悪く無い……だが、フンッ!」

「ぐおっ!?」


 コイツ、一回転したと思ったら衝撃波ショックウェイブ放ちやがった!?

 魂奪取ソウルダッシュを続けてなけりゃ体が粉微塵になってたぞ!?


「好機!」

「クソッ!!」


 マズい、攻撃を許しちまった。

 ってめちゃくちゃ速い!?

 受け流すので精一杯だぞ!?


「お相手出来て嬉しいぞ、黒金剛石ブラックダイアモンドの猛き若人。儂の名はケイン・バラムス・フォン・ドレイグ。俗に言う、吸血鬼ヴァンパイアと呼ばれる者だ」


 高貴な魔族の印象持たれてる吸血鬼様が、何処ぞの通り魔みたいな事してんじゃねぇぞ。


神条カミジョウ 神鵺シンヤ! ヨロシコ!」


 よっし喋ってるおかげで攻防拮抗クロスファイトに持ってこれた!

 打撃ラッシュの速さ比べと洒落込むか!


「可愛い子ちゃんの血が欲しくて来たんなら、俺を呼ばなきゃ良かったものを。負けたな爺!」

「抜かせ! 儂は互いに血を流す程の激しい戦いに飢えておるだけよ! 聞いたぞ、お前さん世界を滅ぼしたそうだな」


 俺の噂色んな場所で流れてるんだな。その響きがゾクッとするぜ。良いな、世界を滅ぼした男。


「ああそうだ。初の狩猟ハンティングで色々トラブル起きたんでな、腹いせにやってやったぜ」

「やはり黒き意思の体現者は一味違うな。良かろう、この老いぼれが負けたら執事になってやろうではないか! 小僧! お前は負けたら何を捧げる!」

「この邸から下僕のレミィ! メイド4人! 全財産! 俺の魂から何まで全部やってやろう! 何故言い切れるか教えてやる、既にお前の負けは決定チェックメイトしてるからだ!!!!」

「笑止! その傲慢さ、相手するに不足無い!」

「俺が勝ぁつ!!!」


 互いに重い一撃をぶつけ合い、距離を取る。


 俺は窓から外へ出て、邸外の森へ向け《加速飛行ライドブースト》。ケイン爺は俺の後を追って走って来た。これまためちゃくそ速い。オリンピックにでも出とけよ。


 だが、俺は黒金剛石ブラックダイアモンド狩猟者プレデター


 いつだって、勝つ為には手段を択ばない!


「ほれ弾丸掃射バレットシャワー!!」

「フンッ! それは効かぬと先ほど分かったはずよ!」

「ああその通りだ! 悪魔!!」

「ムッ!?」


 奴の周囲に、撃ちこんだ弾丸と同数のゲート、そう、こいつを通じてのフェイント攻撃ってわけだ。どの体勢で躱しても、そしてどれを弾いても最低1発は当たる射線で配置されている。勿論それだけでは済まない仕掛けが施されている。


 さぁ、諦めて全て喰らうが良い!


「ウォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

「はぁ!?」


 この爺、高速回転して全部弾きやがった!?

 跳弾に加えて隠しゲートまで使った三重の罠が、纏めて無効化されただと!?


「ナメてもらっては困るぞ。儂の得た極意……それは”ゴリ押し”と言うもの! 力と意志でねじ伏せれば、何でも押し通る事が出来るッ!!」


 んっだっそりゃ!!?


「出鱈目にも程があんだろぉ!?」

「ふははっ! 逃げても無駄ぞ!」

「あぁっそう! だったらコイツはどうだ!」


 既に情報操作を駆使し、全ての作戦を実行可能状態に移している。

 そう、既に奴の敗北は決定しているのだ。


 まずは悪魔との連携で門から門へ移りながらの頭突き!

 其の名も連門撃烈ゲートパニッシャー!!


 まぁこんなネタ技受け流されるよな!

 知ってる!


「無駄だ無駄無駄ぁ! いくらお前達の連携が良かろうと、気合と根性で押し負かせば良いだけの話よ!」

「あっそ! あばよ爺!」


 お次! ゲートに逃げる!!


「ムッ! 血迷ったか小僧!? 逃げてもお前の負けだぞ!?」

『だったら気合と根性で探してみろよ! 俺らの作戦を無駄って言うんだろ! ヒントは、「0時だよ! ”全員集合”!」』

「そんなものヒントでも何でも無かろう!」

『テッテッテレッテッテッテッテー! ぬははっ!♪』


 その通り、俺が逃げた先は人質のレミィや悪魔、足立姉妹の幽閉されてる地下だ。


 何かおかしいと思ってたんだ。肝心の”ヤツ”がいなかった。

 優の奴め、良いヒントをくれて助かったぜ。



 * * *


「一体何を考えておる?」


 薄暗い蝋燭の光だけが頼りの薄暗い地下室。予想外に広い空間の端に、苦しそうなレミィと介抱してる悪魔、足立姉妹がいる。


 俺は中央でケイン爺と対峙していた。


「いや何、今まで通り卑怯な手を使うだけだぜ?」

「この場で出来る卑怯な手などあるものか。岩の中に閉じ込めても無駄だぞ、力技でいくらでも壊せる。銀弾の雨も。陽の光でも。十字架の聖なる力でさえ、意志の力で打ち負かしてきた。最早儂はそんじょそこらの吸血鬼では無い。では何を以て敗北を与える。残り時間は2分だぞ?」

「10秒で十分」

「……何?」

「お手伝いだ! 課金用の100万円ボーナスでやるぜ、熾天使セラフ!!」

「……熾天使セラフだと? そんな高位の存在がここにいるわけ……ハッ!? ま……まさか……!?」


 眼を見開いた。やはり歳を経た吸血鬼でも、天使は天敵か。


 天井を貫いて、禍々しい靄が掛かった聖なる光の翼を三対広げた熾天使セラフが墜ちて来た。

 偉大なる堕天使、隠された最終兵器第9番目の降臨だ。


「ソイツか」

「ああ、潰せ」

「オッケー」

「まっ! 待て! いくらなんでもそれは!」


 今更遅いぜ。


「「あばよ、爺」」


 絶大なエネルギーが、光となって視界を埋め尽くす。

 初めて行った世界で起こった神の掃除も、こんな感じだったのか。


「お……おぉ……お前達は……この世、全ての……悪……か……」


 光が収まると、人型の黒焦げが倒れていた。


 流石に死んでるだろ、こりゃ。と言いたいが、ここには悪魔がいる。と言うことは生きてる。何故かは分からないがコイツがいるって事は嫌な方の予感が当たる気がするんだ。


「ひっどい。悪魔を疫病神みたいに」


 と言うわけで、それも加味して最後の仕上げだ。


「足立姉妹、準備は良いな」

「既に」

「でも大丈夫? コッチは結界張ってるから良いけど」

「俺を誰だと思っていやがる」

「「史上最低最悪のご主人」」


 この二週間で良く分かってんじゃねぇか。

 だったらテメェらも同じだ!


「ぃやれぇ!!!!!!」

「ここにある……!」「全ての呪いを!」

「「ご主人へ!」」


 改めて意識すると、俺の内には様々な悪意が眠っていたようだ。


 恨み、辛み、妬みに怒り。


 おぉおぉ、しょーもねぇ事思ってやがんな。


 まぁ良い、この作業の目的はだからな。


「おら来い!」


 そう、俺の目的はレミィの腹ん中にいる赤ん坊に掛けられたっつう変化ヘンゲの呪いだ。どうやら意思があるようで、悪霊の類らしい。霊能力者の足立姉妹がいて助かったぜ。


 こんなもんを使いやがって、なぁあああああああにがゴリ押しで全て解決するだ。


 テメェも搦め手使っといて良く言えたもんだなクソ爺!!!!!!!!


「ソイツはテメェの依代じゃねぇ。もっと良い器を知ってるぜ!」


 レミィの腹から悪意が流れ出て来た。

 そうだそれで良い。まずは俺の中に入れ。


「ッ……! あっ、ぐっ、んぬぅぅぅ……! 俺を乗っ取ろうなんざ良い度胸だな……!!」

「マ……マスター……」

「何、泣きそうな顔してんだレミィ。俺が、お前の為に、命張ってるとでも思ったら、ソイツは大違いだぜ」

「素直じゃない」「と思わせて本気だったり?」

「うるっせぇ早よ次に移れ……!」

「了解」「りょーかーい!」


 さぁさ皆様ご刮目! これからお見せしまするは世紀のフリークショー!


「俺の中の全ての悪意! 呪いの全てをぉお~!?」


 化物がオバケへ変わる様子を、とくとご覧あれぇ!!


「解き放ぁつッ!!!!」

「「解放!!」」










 体の底から熱が沸くように、全ての存在に対する負の感情が溢れ出てくる。



 殺したい。貶したい。蹴落としたい。何でいるんだ。


「ぁぁ……!」


 醜くなれ。苦しめ。泣き叫べ。堕ちろ。潰れろ。いなくなれ。


「ぁぁぁああああ……!!!」


 赦しを請え。断られちまえ。否定されろ。愛されるな。消えて無くなれ。


「ああぁぁぁあああああぁアアアアァァアァアアアァアァァアアアアア!!!!」




















 誰もお前の事など見ていない。




















「ッ知るかぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 っぶねぇえ~!? もう少しで理性無くすところだった!?


 最後の力を振り絞ってとまではいかないものの、気合と根性で悪意を前方に押し出してやった。爺の言う通り、ゴリ押しも”たまには”使えるもんだな。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ、さて。どうなるかね」


 さぁお待ちかね。絶望タイムだ。

 奴の目の前に時計を表示させる。情報操作で見せてる時計だ。


 明日の午前0時までー……残り10秒。


「……ぁ……ぁぁ……」

「5、4」

「ぁぁ……」

「3、2」

「ぁぁ、ぁぁあ……!!!!!!!!!!」

「1」

「ぁぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!」


ゼロ……」








「いぃやぁじゃぁぁああああああああああああああアァァァアアアアアアアアァァァアアアアアアアAAAAAAAAaaaaaaaAAAAaaAAAAaAaaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAああああああああああああああああ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××!!!!!!!!!」













=== 恐怖 ===


「……ご……午前0時……ど、どうなっちゃったんだろう……」


 S市にて、神条 神鵺の自室に避難していた沖本 優は、ゲートの前で生唾を飲んだ。


「だ、大丈夫! 神鵺君ならやり過ぎちゃう事はあっても、負ける事は無い! 信じなきゃ! 彼は強いんだから! ぃよし!」


 自分自身を励ましながら、思い切ってゲートを潜る。


「えっ」


 その先で、落ちた。

 肉質の何かの上に。


「うわわっ!? っぷ!?」


 柔らかく、所々に硬い感触も感じる不思議な物体。

 蠢いているかと思えば、ズブズブと飲み込まれていく感覚に襲われた。


「えっ!? 何!? 何なのこれ!?」

「美しい……恐怖をそのまま描いたアートに生者が飲み込まれる図か。生でしか見られないなこりゃ、ッハハハハ!」


 横を見やると、神鵺、悪魔、レミィ、信、足立姉妹がいた。

 神鵺と信以外、皆、こちらに背を向けて縮こまっている。


「優! あと1分我慢してくれ! もうちょい見たい!」

「な、何!? 何なんですかこの物体!?」

「生きたアートだよ! 名前はズバリ、”恐怖”!!! これこそが恐怖の姿だよ沖本 優!!! お前もその一部になれているんだ!!! 俺もだ!!!! ッハハハハハ!!! ッファァァアアアアアア!!!!!!」


 偉く上機嫌などころか、一種の狂気に陥っている主人の様子とその言葉に合点がいった。自分は今、理不尽な絶望の闇に呑まれようとしている。そう実感した。


 同時に、老人の声が聞こえる。


「ぉぉぉ……ぉ、ぉぉ……ワシゃ……ワシゃ、どうなったんじゃ……どうなってしまった……だれか、いるのか……」


 生気を失った、真っ白い肌の老人の首が見えた。白目を剥き、何処も見えないままボソボソ呟く。


「イッ……!?」


 自分も直にこうなってしまう。あと少しで。


「ぃ、嫌ぁぁぁああああ!!?!? ぁあああっ!! 助けて!! 助けてぇ!! やだぁあああ!!! 誰かぁぁああああああああ!!! ああぁぁあああっ!!」

「ハハッ! フハァーハハハハハハハ!! 助けてか! そうだ抗え生き物優! その惨めさこそ生きてる証だぁ! そしてその輝きも、狂気の前には意味を成さないんだ! ッハハハハハハ!!!」

「……はぁ……人間って、弱っちいんだな」


 信の放った灰色の光が当たった瞬間、呪いで膨れ上がった肉は焼け落ち、老人ケインと優がドロドロの血肉の上に倒れ落ちた。


「んがぁ!?」 ピシッ

「ああっ! あぁ、ぁ、あぁ……!」


 その瞬間、転がる勢いで優は信にしがみ付く。


「ひっ、ぁぁ、ゃぁぁぁ、ぁぁぁ……ぁぁ……肉、肉が……肉が溶けて……もう少しで……私……」

「あー……悪い。お前が落ちたのは、自分のミスだ。後で狩猟者プレデターに記憶処理でもしてもらえ、それくらい奴なら出来るだろ」

「……………………ッハ!」 パリーン!


 崇める対象が無くなったからか、神鵺も目を覚ました。


「あぁいかんいかん、あまりの素晴らしさに狂喜乱舞してしまった」


 ナレーション代行ありがとうモブおっさん。ゥロケットキィック!!!


 こっからは俺が喋る。


 とまぁ、散々っぱらブチギレた後に良いもんが見れたので満足した。直ぐに優の記憶を探り、バッサリカット。こんな素敵な記憶をこの世から抹消するなんてとんでもない、何かの媒体に保存しておくぜ。信に頼んで身体を洗わせ、寝室で寝かせるように言っといた。ただまぁ優には後で詫びると約束だけするか。


「いやぁ~お前らも良くやった。おかげで良いもんが見れたよ。ボーナスやるぜ足立姉妹」

「ご主人本当人間じゃないよ!!! サダカヤより怖かったよ!!! 何なのアレ聞いてないよ!!! 熾天使セラフがいなかったら世界滅んでたよ!!!!!」

「そりゃアンラマユに近い概念だからね。怖いなんてものじゃないよね。呪い殺されるかと思ったもんね。心臓バックバック鳴ってるのに身体中寒いもんね。震えが止まらないよね。はは、は、はは……ムリ」

「彩月が死んだー!!!」

「この人でなしぃ!」

「気を失ってるだけじゃないですか」

「子供が変化ヘンゲしなくて良かった……本当に良かった……」


 ホラー映画の生還者って皆揃って喜んだり安堵して泣き出したりするけど、マジでホラーな場面から生還するとこうなるんだな。はははっ、ちょっと追い打ち掛けようかなと思ったけど本気で逃げられそうだからやーめた。


「うしっ、何か一段落着いたし。風呂って寝るか!」


 ボロボロの邸はまた次の明日に直す!!!!

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