第10話 メイド イン カインド

 家政婦さんからの応募が来るまでは、俺ら3人で何とか屋敷内の整理やらしながら過ごす事になる。


 と言っても俺は自室があるんで、ソッチで暮らしてる。なので悪魔のゲートを部屋と繋いで固定化し、学校やコンビニバイトが終わったら邸へ行って諸々済ますと言った感じだ。


 その間に悪魔から魂奪取ソウルダッシュの依頼が一つ入り、此方の近世に近い雰囲気の異世界で仙人の魂を奪っていた。魔王クロム・ロードよりも遥かに強かった。腕1本ブッタ斬られちまった。終わった後繋げてもらったが、アクティブの呪いを持つアルバロだけ持ってたんで戦闘中ついハイになっちまったわ。ちなみに勝因は斬られた腕、《情報操作》で無理矢理動かして無防備な背中にズドンだ。


 ランクB、基本料と合わせて10億20万円。インフレ具合がハンパねぇわ。聞くにこの金は集金部って所が人間から巻き上げているんだと。どれだけ見かけを取り繕うが、結局コイツらは悪魔らしい。事だ。


 そうこうして、丁度1週間経った頃。いよいよ応募のメールがやってきた。


「おーうお前ら、1人目応募来たぞー」

「おっ、待っていました」

「いよいよ次の被害者候補が、ぁ、ぃぇ、ぎっ!?」


 失礼な事を言いよる下僕に拳骨喰らわせ、応募内容を確認する。



―――― 応募 ――――

名前:ゆう 性別:女性

年齢:20歳


コメント:

 東京の江戸川区から応募させて頂きました。ゆうと言います。


 募集文を読んだ時、他の方とは違って不思議な雰囲気を感じました。どのような方々のお手伝いが出来るのか、興味が尽きません。是非面接させて下さい。


追伸

 お料理には自信あります!

――――――――――――



「大学生……ってわけじゃぁなさそうだな」

「家政婦養成学校って所があるみたいですし、そこで学んだ人じゃないですかね?」

「と、ともかく……そのゆうって人とマスターが面接するのですか……」

「いいや、面接は俺ら3人合わせてだ。お前ら2人の面倒見る係だからな、顧客は商品やサービスの内容を直接把握するべきだ。今の時代この過程を怠る馬鹿が多いようだが、お前らはそうなるなよ」

「経営者思想ですか。何て言うか、初めお金で困ってた印象とはまるで違いますねぇー」

「金は潤いを与える。そうして生まれる余裕が、より良いコンディションへ繋がり、優れた能力を発揮させる。余裕の無い時よりもスリムでクリーンな能力だ。つまり、コッチが俺の本分」


 と言うわけで。


 家政婦候補のゆうと連絡を取り合って、仕事が無い明後日の夕方面接する事に。雇用関係になり得る相手と会うので、それまでに無難な服装を用意しておいた。パリッとした黒ズボンにYシャツとお気に入りのボタン留めパーカー、某ゲームの番長を少し意識したコミュ力重視のハイカラファッションだ。伝達力が2ランクアップした気分だぜ。


 悪魔の角と羽は隠せるようなので隠してもらった。髪も茶髪に。

 おいお前普通に美人のOLじゃねぇか。


 レミィの綺麗な水色した髪は染めさせたくもないので上から黒に見える情報を被せ、さほど目立たないワンピースを着せておく。


 ちゃんとスマホを持って、財布も忘れずに。

 急ごしらえの鞄を持って、最後にお気に入りの眼鏡を綺麗に磨いて掛ければ、これで準備完了。


「喫茶店近くでしたね。丁度良い転移場所は既に調査済みです。空間掌握ワールドマスターって便利でしょう?」

「良いから早よ繋げ」

「むぅ、ちょっとは褒めて下さっても……はい、ゲート開きました」

「さて、往くか」

「は、はい……!」

「いざ面接です!」




=== 優しさを込めた優 ===


 皆さん、こんにちは。


 私、沖本なかもと ゆうと言います。


 小さい頃からファンタジー小説や少女漫画に出て来るメイドさんに憧れていて、高校を卒業してから家政婦養成学校でめいっぱい勉強してきた事が自慢の立派なメイドさんです。得意な事は何と言っても料理。栄養を考えたメニューは色んな人がいっぱい考えますが、私は”心の栄養”と言うものも大事にしてメニューを考えます! 心と体に命の薪をくべる、それが私の役目と自負しています! 勿論掃除や洗濯などの家事も出来ますよ? あと、身体が他の女性よりも……と言うか男性よりも大きいんだけど、そこには触れないで頂けると嬉しいです。コンプレックスなので……。


 卒業してからは有名な仲介サイトを使い、早速近場の家庭で働かせて頂いてたのですが……2週間前、ご主人様が突然お居なくなりになってしまい、親族の方から契約を切られてしまったのです。あの方が心配ではありますが、私も次のお勤め先を探さなければと思い、心を切り替えてまた雇い主を探していました。そうしていたら、ある募集が目に留まりました。クセの強い住居人とか、ファンタジーとか、日本の何処にいても面接しますとか、何だか不思議な印象でつい目を惹かれてしまいまして。それで、思い切って応募してみたんです。


 掲載者のしんや様と何度かメールのやり取りをして、遂に今日、面接する時が来たんです!


「しんや様ってどんな人なんだろう、知的で威厳のある男性なのかなぁ。スラッとしたスーツ姿の若社長を想像しちゃうと言うかぁ……」

「期待に沿えず申し訳無いけど、知的な印象ぐらいは覚えて欲しいですかね」


 眼鏡を掛けたオシャレな青少年と、茶髪でスーツを着た美女、控えめなワンピースの美少女がやってきました。もしかして、この方達が?


「あぁいえ! 勝手な妄想を抱いてしまいすみません!」

「良いんですよ、こちらも少し猫被った文で掲載しちまったんで」

「敬語が適当な所とか杜撰ずさんな猫被りですよね」

「黙れ、爪剥がすぞ」


 ひぇ。も、もしかしてこの人達、暴力団とかソッチ関係の人達ですか……!?


「えっと。確認しますが、貴方がゆうさんで間違い無いですよね?」

「あぁ、はい。沖本 優と申します。上が沖ノ鳥島オキノトリシマの沖と書いてなか、そして本で沖本。下は優しさを込めて付けて下さった優です」


 少女の方は大人しそうですね。いや、そうですよね。暴力団なんて安易に想像しちゃ悪いですよね。大事な面接なんですから……。


「神条 神鵺、学生です。コッチのスーツ女は仕事関係の付き合いで、コッチのチビ助は、あー……言いづらいけど、俺が引き取った身妊りの孤児」

「仕事関係の付き合いって、何かやらしい響きですね」

「マスター。間違ってはいない言い方ですが、それは誤解を招くのでは……いえ、子を身妊もっているのはそうですが」


 な、何と言うか凄く、不思議と言うか、その、凄くと言うか凄まじい自己紹介。


「まぁそりゃそんな反応にもなりますよね。立ち話も何ですし、入りましょう。余り気持ちの良くない話もしちゃう事になるんで、一杯奢りますよ」

「ぁ、ありがとう、ございます」


 私、この面接やって良かったんでしょうか……!?





=== 危険な人達 ===


 奢ってくれると言う事なので、カプチーノを注文して席に着きました。


 神鵺様はカフェラテ、スーツの女性はブレンドコーヒー、少女はココア……何と言うか、見た目通りのチョイスですね。


「改めて、専門学校に通ってる学生の神条 神鵺です。字面を見るとイタい名前だけど、親に付けてもらった名なんで勘弁してくんさい」

「カッコイイ名前ですね」

「私は、その、ハッキリ言うと名前が無くて。便宜上、悪魔と及び下さい。この方に仕事を与えてる仲介役の雇用主と思って頂ければ」

「な、ん、名前が、無い……悪魔……仲介……」

「レミィです。旧名はミレア・ヒリウス。個体名を正式に挙げるならレミィ=スレイヴ奴隷のレミィと言ったところでしょうか。マスター、シンヤ様の下僕にあたります」

「げ、げぼ……!?」

「引き取ったと言うのも半ば嘘で、権利を奪われた形の被害者です」

「な、ぇ!? あ……え!?」


 ま、待って下さい?


 専門学生で? 邸を持ってて?

 名前が無くて悪魔と呼ばれてる女性が仕事を与える雇用主で?

 お腹の中に赤ちゃんがいる女の子を下僕にしてる!?


 な、何なんですかこの人は!?

 嘘ですよね!? 嘘だと言ってよ___自主規制!!


「嘘だと言って欲しい気持ちは痛いほど分かりますが、事実です。俺がやってる仕事も、各地へ出向いて依頼された相手を狩る、所謂殺し屋稼業みたいなものですから」


 何か暴力団よりも恐ろしい事言い出したんですけどぉ!?


 妄想ですよね!? このやけに実感籠った物言いも演技ですよね!?

 そういう設定なんですよね!?


「残念ながら設定とかでも無いんですねー。我々のより良い生態形成の為に、この方を利用させて頂くのが仕事なのです。私が雇用主です」

「上に立とうとするな下等種族」

「あぁぁああああああ角引っ張らないで下さいこれ骨繋がってるんです痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

「つ……角……」


 傍から見たらただの頭痛いアッチの世界の人間だけど、この、妙な気持ちは何だろう……あまりにも自然な態度で、寧ろ本当だったら凄いと言うか。


 あれ? もしかして私、何か期待している?


 そんな、だって彼らの言ってることが本当だったら、私、危険な人達と会話してるって事に……。


「ええ、我々は危険な人達です」

「えっ……?」


 ……もしかしてこの人、さっきから私の考えを読んで!?


「ぁ、あの、私まだ何も言って……ッ!?」


 真っ直ぐ目を見られた……!?

 何、あの深い闇に引き込むような淀んだ瞳は……!?


 嫌だ。眼を逸らしたいのに、指の一本も動かせない……これって何、金縛り!?

 私呪われた!? 本物の危険人物!?


 こ、声が……出ない……息が……誰か! 誰か助けて!!


「…………その様子じゃ、この二人を世話してもらうのは無理だな」

「ッハァ……!?」


 う、動ける……やっぱり、この人が……神鵺様が、頭の中を覗いて金縛りを……。


「ハッ、ハッ、ハッ……い、今のは……」

「声が震えてる。瞳孔もさっきより開いてる。何より体温が著しく下がって脂汗を流してる。これしきで恐怖するようじゃ、この先起こり得る理不尽に死よりも先に精神が壊れてしまうって事。手荒な方法を取って悪いけど、この面接は不採用と言う形で終わらせて頂きます。ご応募、ありがとうございました」


 え、ちょっと、どう言う事ですか。面接って、そう言うモノなんですか……!?


「少ない金額ではありますが……ほれ、悪魔」

「こちらに、100万の慰謝料を用意させて頂きます。怖い思いさせてしまって、申し訳ありません。これが手っ取り早くて」


 何なんですか、それ。初めからそんな事で人を篩い落とそうとしたんですか。


 それに今、何したんですか!

 手がテーブルをすり抜けて、封筒が出て来て……!

 一体何をしたんですか!


「それでは、これで」

「まっ、待って……!」


 まだ私の話をしていない!

 フードを被らないで! 私は!


「どんな興味に駆られようが、限度と言うモノがある。これ以上恐ろしい目に遇えば、貴方が壊れ」

「そんな事ありませんッ!!!」

「……ほう……?」


 ……あれ……?


 私……何で叫んで……?


 ……あっ、そうか……。



 私、



 だったら良いや。押し切っちゃえ。


「……そんな事、ありません。人間をナメないで下さい」

「俺達の言葉を信じ、恐怖を覚え、尚も着いて行きたいと。そう言うおつもりで?」

「はい」

「しかし今伝えた通り、貴方は」

「人間は変われる生き物です!」

「……あ?」


 途端、背筋に寒気が奔った。

 あぁ、今、私、彼の地雷踏み切ったんだ。


 でも止めない。


「ゆ、優さん止めま」

「そこまで言うのでしたら、証明してみせますよ」

「ダメですそれ以上は!」

「いいえ言います! 貴方が強大な力を持った霊能力者であっても暗殺者であっても何でも、貴方にとってはちんけな私が、それに負けない強さを持つって事!」

「……しーらない」

「マスター、お、落ち付いて……」


 言ってやりました。ええ、遠慮無く言ってやりましたとも。


 彼、凄く怒ってる。静かだけど、子供の怒り方だ。


「……言い切ったな……この俺にそんな言葉を躊躇無く突き付けやがったな」


 馬鹿だな、私。こんな事で自分から危険に首突っ込むなんて。

 でも何でだろう、不思議と後戻りしたくないって思う。


「良いだろう、採用だ。荷物を纏めろ。二日後の同じ時間、此処に一番近いコンビニエイトゥエルブの裏へ来い」

「分かりました。ご決断ありがとうございます。私、精一杯働かせて頂きますね」

「……ああ。宜しく頼む」

「……そ、それじゃぁ、失礼しまぁーす……」

「あぁぁぁ……頭が痛い……」


 それっきり、彼らはこちらを振り向かずにお店を出ていってしまった。


 神鵺様……いや、神鵺君の目は、酷く濁っていた。

 何かに絶望して、私にそれを分からせようとしていたようだった。


 私があの子の言葉を否定してしまったのには色々と言い訳が立つけど、一番の理由は、多分神鵺君に寄り添ってあげたいんだ。今となっては、あの姿に身も凍るような寂しさを覚えたから。


 優しいだなんて言うつもりは無い。私は人間の強さを証明する、あの子にそれを見てもらうんだ。その為に、あの子の下で働く。


 不意に、テーブルに置き去りにされたカップが目についた。神鵺君のカフェオレだけが、空っぽだった。


「……マスター、私にもカフェラテ一つ下さい」

「畏まりました。貴方のその暖かさ、きっと伝わる事でしょう」

「ぃ、いえそんなつもりでは……煩くしてしまって、すみません」

「良いんですよ。人の可能性、人間の力は何時だって味方してくれた。同じ野を目指す君達へ……乾杯」

「え、あぁ、えっと……乾杯」


 私の名前は仲本 優。


 一人の男の子に希望を与えるため、命を懸ける人間の名です!






=== ムカつく ===


「あぁあぁあああああ漫画みてぇな事抜かしおって気持ち悪い! 釣られた俺も気持ち悪い!」


 何なんだあの女。俺の嫌いなワードをぶちこんでくれた挙げ句演劇やらの台詞みたいな事くっちゃべりやがって。


 当初の予定で押して引いての作戦で行ったら、とんだ頭イカれた人間が引っ掛かっちまった。


 人間は変われる?

 強いだ弱いだ?


 またか。また人間が他の生命とは違う何か特別な存在だとでも思い込んでる奴か。何なんだ。


 人も何も関係無い、変われる変われないじゃないんだ。否応無しに変わるんだ例外無く全てがな。


 寧ろ人間は特に変わる生き物だ。適応力に優れ、その場に順応し生き永らえる事に特化した生存力の高い生物、ただそれだけの事なんだ。それを特別な事と思い違いする奴は、生き物である事を忘れた愚者と捉えてる。


 人間は"特別"なんかじゃない。

 他の生物と比べて"異常"なだけだ。

 化物バケモノなんだよ人間は。


 何故皆その事実から目を逸らすんだ。


「マスター…………マスターは、その、人間が嫌いなのですか」

「人間と言う貪欲な生き物は好きだ。ただ生き物である事を忘れたゴミが嫌いなだけ。良いか、俺達は動物で、生き物で、ケモノの一つなんだよ」

「エゴイスト、いえ、思想家ですね。貴方の黒い部分はそこですか。人類と言う異常進化した生物バケモノへの畏怖と尊敬、その裏返しに、今の時代を生きる愚者ニンゲンに絶望している……特に自分がその愚者と同じ位置にいる事が嫌で仕方がない、と言ったところでしょうか」

「止めろ。イタい」


 少しばかり落ち着いてきたと思ったら、今度はレミィからお言葉だ。


「……マスター。私は、貴方にとって愚者でしょうか」

「んだそりゃ。汚くも生きようとする姿勢は正しく生き物だと俺は思うぞ」

「ではお言葉ですが、マスター。貴方は、何故こんなにも危険な仕事をしているのでしょうか」

「何が言いたい」

「貴方はお金のために危険な未知の世界へ出向き、強者と戦い、魂を奪う。人間が進化の末に得た安全を、何故自ら捨てるのですか」

「……それが俺の性分に合ってるんだ。前々から殺しに興味はあった。生き物として当然の権利を行使出来る事が嬉しいんだよ。まぁ、安全に金が稼げるんだったらその方法にしてたがな、誰のせいでこんな事になったんだか」

狩猟者プレデター

「チッゲェ元はと言えば母ちゃんが破産するからこんなことになってんだチクショウ!」

「母親いるんですかマスター」

「俺を何だと思ってるんだテメェ!?」

「「化物バケモノ」」

化物バケモノにだって親ぐらいいるわ!」


 あー、ムカつく。


 そうやって何でもかんでも俺のせいにするんだよな。

 皆そうだ。その方が都合が良いってんで俺を生贄にするんだ。


 そんなに俺を悪者にしたいなら、良かろう。

 本当に俺のせいで痛い目見る事になってもらおうじゃねぇか。


 ナメ腐ってくれる調子乗った奴等に、破滅をもたらしてやるんだ。


 待っていろ、異世界存在する全てのモノ共

 略奪してやるぜ。

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