第30話 私たちは、誰?

 ケンは、昨日の夢の話を二人に話した。

 余りにも鮮明な夢だったので黙っていられなかった。

 口を最初に開いたのはルークだ。

「ケン、この情報をどうやって入手したのですか?まるで、ティトと話しているようだ」ルークは、説明してくれとケンを見た。

「どうやって……と言ったって。夢だよ、ユメ!」

 ケンは、そう答えるしかなかった。

「私の記憶と一致していたので、確認したまでです」と、ルーク。

「ティトの部屋を見たことが刺激になって、夢を見たんじゃない?」

 レナが、冷静な一言。


 その時、ルークが部屋の隅からトランクを持ってきた。その中から、タブレットパソコンを取り出し、レナに渡した。

「これは、ティトのタブレットです」

 レナは、ソファーにあぐらをかいて座り、タブレットに電源を入れた。ケンはレナの横に座りタブレットを覗きこんだ。それに気付いたレナは「あっ、ごめん」と小さな声で言って、タブレットを壁一面のスクリーンに映し出した。「ありがと」ケンは、呟くように答えスクリーンを見た。

「ティトは、それでアイデアを整理していました。殆ど手書きです」

 スクリーンには、講義後の黒板みたいな図が映し出されていた。

「これは……、難問ですね」レナがつぶやく。

「画像か……。時系列で見ることができたら理解できるが、最後だけ見ても……。途中で消された図があるかもしれないし……」

 しばらく、ケンとレナは、図を眺めるだけだった。その時、レナがあるファイル名に気付いた。

「これ?ファイル名が他とは違うから……」

 レナは、『青い鳥』名前が付けられたファイルをクリックした。

 アイコンをクリックすると、長めのくせ毛で神経が細かそうな青年がスクリーンに現れた。

「オーウェン、元気か?風呂で考えたことを送るよ」

 三人は、オーウェンへのビデオレターを最後まで聴いた。

 ビデオレターに映し出された説明用の図は、最初に見た図と同じだった。


 ケンとレナは、ティトの考えを理解しようとしていた。

 レナは、椅子に座りスクリーンを見ながらキーを叩いた。

 レナはスクリーンに表示された一覧をスクロールさせていた。あるところまでくるとスクロールをやめ、一覧をポインターでなぞりながら言った。

「ねぇ、ここ……。DNAの組み合わせの変更がされていない。それに私たちの教育カリキュラムも……」ケンは、スクリーンを覗き込んだ。

「ええっと、ここからだから……。男はティト、女はアウラと同じカリキュラムがセットされているわ。えっ、こんなことできるの……」

 レナは、このプログラムの実行履歴を見た。

「この設定をマザーは認識していないわ!……」

「なんだって!……どうやったんだ……彼は本当の天才だ……」

 スクリーンを見ながらケンが呟いた。レナは椅子に座り直し、背もたれに身を任せた。右ひざを抱えるようにして、椅子を軽く左右にゆすっていた。

「ティトは自分とアウラのDNAの人間を繰り返し生まれるようにマザーのプログラムを変更した……ということ?」

「ああ……そういうことらしい」

 レナは、ティトの論文をスクロールしていた。レナは、スクロールを止め、ケンに目で合図した。

「ドンピシャだ」二人は、スクリーンに映し出されたティトの論文に目を通した。


『…このカプセルは全てを遮断する。記憶もだ。記憶の封じ込めが成功したら完全に生まれ変われる。同じ肉体、同じ記憶、これを固定すると永遠に生きられる。……このカプセルに死亡する直前の人間と受精卵を入れ密閉する。死亡を確認した時点で受精卵の細胞分裂を開始させる。カプセル内の記憶と唯一の生体である受精卵はリンクすることになる……』


「そうか……自分とは別の記憶との結びつきを避けるためにカプセルを使ったんだ」

 と、ケンが言いい、レナに確認した。

 レナが、急に何か思いついたのかキーボードを叩いた。スクリーンに結果が表示された。

『ライフログ照会結果、八七%一致』


「割合が高すぎる……そんな……信じられない……。私たちは、誰?」

 レナは、頭を横に振った。

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