第29話 夢

 ケンとレナは、通信電波捕獲網装置を整備し、パイオニア号への第一弾の発射作業をしていた。

 百個の通信電波捕獲網装置を一つ一つ、チェックし、船外へと放出する肉体労働だった。


 通信電波捕獲網装置は、パイオニア号の周りにぐるりと配置され、稼働時には、パイオニア号のあらゆる通信を物理的に遮断する装置である。人工知能アルフレッドが、通信による脱出しようとしても、阻止されるだろう。

 通信電波捕獲網装置は、どこにでもある岩のように、カモフラージュされていた。


「……これが最後ね」レナが額の汗を拭きながら、ケンの顔を見た。

「ああ、また、明日、百個だ……じゃぁ、また……」と、ケン。

「おやすみ……」レナが、手を振る。

 二人とも、肉体労働を軽減するサポートスーツを使用していたのに、完全に疲れていた。 

 ケンは、ふらつきながら自分の部屋に戻ると、転がるようにベッドに横になり、あっと言う間に眠りに落ちていった。


 部屋の奥は、あの重々しいカプセルがあった。

 その横には生命維持カプセルが二台置かれていた。少し視野がぼけている。

 私は、配線作業をしていた。

 頭を上げると、丁度、ルークが部屋に入ってくるところだった。

 私は、右手に握っていたモノをルークにほおった。USB?……。

 ルークはそれを受け取ると耳の横にあるコネクタに差し込んだ。

「……これをつくるのですか?」ルークが確認する。

「ああ、九○パーセント出来ている。あとは、組み立てと動作確認だけさ」

 ビービービー。

 アラームが鳴った。アラームは1台の生命維持カプセルからだった。

 生命維持カプセルの計器を確認し窓を覗いた。そこには、透き通るような肌の美しい女性の顔があった。

「アウラをこいつに移す……手伝ってくれ」私は、ルークに目で合図した。

 ルークは、生命維持カプセルからアウラをそっと抱き上げ、あの重々しいカプセルにそっと移した。

 私は、アウラに近づいて行き、顔を撫ぜた。

 額、眉毛、目、鼻、唇を指でなぞった。

 限りない愛しさで胸が一杯になった。涙が止まらない。

「……アウラ、聞こえる?」私は、アウラの耳元で囁くように言った。

「……きこえる」アウラの小さな力のない声だった。

「とても、疲れたわ。眠ってもいい。いつか、また会いましょう。ティト……」

(ティト?……)私は、ティトなのか?

「ああ、わかった……」私は、思わず手で顔を覆った。

 私は、装置のスイッチを押した。ブーンというモーター音をたて、カプセルの蓋が閉まった。

 そして、モニターに映る脳波計・心電図・バイタルを確認していた。

 アウラの意識はすでに無くなっていたようだ。

 私は、キーをポンと叩くと、ソファーに深々と腰かけた。

『実行します』アナンスが聞こえる。

『カプセルを解放します』カプセルのねじ式蓋がゆっくりと回転した。

『生体ナンバー○三七五○。生体記録を開始します。カプセルを密閉します』

 蓋がゆっくりと回転し、蓋が閉まった。

 モニターには心電図・脳波・バイタルが刻々と表示されていた。

ピーピーピー。

『心臓停止』

『脳波が止まりました。生体ナンバー0387、生体記録を終了します』

『受精卵を解凍します。生体ナンバー0388、生体記録を開始します』

「ルーク、アウラのライフログのコピーを取ってくれないか?それと、アウラの教育プログラムと検索参照履歴も追加してくれ」


 視界がぼやけていく、目の前が白くなる…。身体が沈んでいく、下へ、下へ、限りなく下へ。

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