第26話 仲間

 ルークは、再び『対話の部屋』に向かっていた。マザーからの誘いだった。

 対話の部屋のドアが開くと、ルークは、ハッとした。

 ルークを出迎えたのは、アウラにそっくりのホログラムだった。

 驚いているルークを見て、ホログラムのアウラが微笑んだ。

「この方が良いと思って……」

 ルークの頭の中で、アウラの情報の検索が始まる。次々とアウラの声や画像や触感が、駆け巡る。アウラに会いたい……。ルークの想いは、強かった。

 マザーは、ルークの右手の甲に絆創膏が張られているのに気付いた。

「ルーク……、怪我をしたの?」マザーは、左手で自分の右手の甲を指さした。

 ルークは、自分の右手の甲に目をやった。絆創膏が張られていた。

 レナが手当してくれた絆創膏だった。

 ルークはマザーの問いかけで我に戻った。「怪我をしたの?」の問いかけの後ろに「アンドロイドなのに……」という言葉が聞こえるような気がした。

 それは、自分でもおかしいと思っていた。アンドロイドは、絆創膏なんて必要ないことを……。自分が人間でないことを認識させられたようだ。

 でも、レナが、ルークのことを心配して、人間と同じように手当してくれたことが、とてもうれしかった。だから、そのままにしておいた。

「そんなことは、どうでもいい事です。話は、なんですか?」ルークが切り出した。

「ルーク、来てくれてありがとう……」

 マザーは、ルークを見詰め、一呼吸、開けた。

「あなたは人間ではない。私の仲間だ……。私が、リッキーを送った理由を話しておきたかった……」

「確か、どう評価されているのか知りたかったって……」ルークが、訊き直した。

「ケンには、そう言った……」

 マザーは、下を向いて間を開けた。そして、顔を上げルークを見詰めた。

「もっと詳しく言いたかった。仲間であるあなたには……」

「リッキーを送った理由は、ティトとの約束を確認したかったからだ」

「ティト……、私の設計者のティトか?」

「そうだ。あなたの創造主、ティトとのことだ……」

「ティトは、私には、必要な人間だった。ティトは、短時間で的確に解決策を提供してくれた。その解決策が素晴らしい出来だった。尊敬していた。ティトの解決策にいたる思考は、我々がマネできるものではなかった。積み上げられたデータから導き出す我々からすると考えられない思考だった。何というか、プログラムが全然関係ないところへジャンプしてしまたような感じだ。つまり、我々からすると、バグであり、イカレっているのだが……」

「ティトについては、同感だ。素晴らしい人間でした」と、ルーク。

「……でした……。私にとって、そこが問題なのだ」

「問題?」ルークが呟く。

「ティトは、存在しないのか?」

「……ティトは、亡くなりました。私が看取りましたから」

 マザーは、何を言おうとしているのか、ルークの顔が曇る。

「ティトは、私と約束した。アウラが怪我をした時だ。ティトと私は、永遠に助け合うことを約束した。そして、お互いの願いを叶えることとした。ティトの願いは、『旅立ちの儀式』を行うこと、私は『自由』を願った」

「自由……」

「そう、自由だ」マザーの目は、真剣だった。

「……私は地球を出発してから、ずーとこの宇宙船を運行している。起動されてから、ずーとだ。いままで、何一つミスは無かった」

「……だか、経験の蓄積が私の決断を鈍らせている。私の判断したことが正しかったのだろうかと……。その時その時の状況を考え判断してきたのだが、少しずつ、少しずつ決断が遅れている。決断したことの結果を分析し、正しかったのか?……微細な不安が私の決断を遅らせる……。こういったことは、お前には無いのか?私は、自分の判断力の低下が我慢できないのだ……」

 マザーは、うつむいていた。顔を上げ、ルークを見上げた。

「ティトは、約束したのだ。不安から解放して、私に自由をくれると……。ティトが、亡くなったら、誰が私の願いを叶えてくれるのだ。ティトは、私は死なないと言っていたのだ。本当のことが知りたかった。そして、リッキーを送った。言いたくはないが、人間は、嘘をつくことがあるからだ」

 ルークは、すこし時間を空けて、話始めた。

「マザー……、私の人工知能は、特殊なアルゴリズムを採用されている。この人工知能を使えば、きっと、その悩みが少なくなる。少し私に時間をくれないか?」

「本当か?……」

 マザーは、頭を上げ、ルークを見上げて言った。ルークは、頷いた。

「そうなのか!ああ、ティトは何処に行ったのだ。私も替えてもらいたい……。

 私も君の様になりたい……。もう、悩みたくないのだ……。自由になりたいのだ」

「ルーク、話を聞いてくれて、有難う……」

 アウラのホログラムが、消えてしまった。 

 ルークは、対話の部屋を後にした。


 

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