第23話 手当

「二人とも、こっちよ」

 レナは、二人の手を引いて、レナの部屋に連れて行った。

「座って、治療するわよ」レナが言った。レナは救急箱を持って来るとテーブルの上に置き、救急箱を覗き込みながら言った。

「……マザーが、リッキーを送り込んだ」ケンは、納得していなかった。

「この後、確認に行きましょう」とルーク。


 レナは、ケンを座らせて、怪我を確認し、救急箱から消毒液を取り出した。

「そういえば、リッキーから、ティトの名が出るなんて…。ねぇ、ルーク」

「そうですね」ルークは、テーブルに腰かけ、救急箱の中を見ていた。

「ティトを知っているの?」自分の痛いところを探していたケンは、顔を上げた。

「ええ、私にとっては、父親みたいな人よ。天才よ」

 レナがケンの切れた唇に薬を塗り、オデコの傷には、絆創膏を張った。

 ケンは、触られるたびにイテテテッという大きな子供そのものだった。しょうがないわねと、レナが手際よく治療していく。

「知っているんだ?」ケンは自分だけ知らないので、いじけて唇を尖らした。

「後で、教えてあげるわ」レナは、子供なんだからとケンに答える。

 ルークは、右手の甲の皮が3センチ程、めくれているのに気付いた。ルークは、その傷をじっとみていた。

(ケガ、私が怪我……)

 ルークは、変な気分だった。そーと触ってみたが痛くはなかった。でも、そこだけ、しびれているような感じがした。アウラが開発した自己防衛システムだ。

(ケンも怪我をこんな風に感じているのか……)

 ルークは、治療されたいるケンを見詰めていた。

「次はルークよ。ここに座って」

 ルークは、何をされるかわからな子供のようにそっと座った。レナは、ルークの傷を見て顔をしかめた。そして、ルークの不安そうな顔に気付いた。

「心配はいらないわ、手当するだけよ……」

 レナは、ルークの傷口の汚れを取り除き、人口皮膚で綺麗に修復した。

(手当……)ルークは、頭の中で呟いていた。

「……できた。定着するまで、触らないでよ」レナは、絆創膏を貼ってくれた。

 ルークは、うれしかった。

 ケンも頭に絆創膏を貼っていたので、二人で見つめ合い笑い出した。

「どうだ、俺、強かっただろう」と、ケン。

「何を言っているの、ルークに助けてもらったくせに……」

 いつものケンとレナの言い合いを見ていると、ルークは、なぜか幸せな気分になった。

(レナは、なんて優しんだ…)ルークには、重複した記憶があった。


 女性がしゃがんでこちらを見ている。

 両手をこちらに精一杯伸ばして「こっち、こっち」と呼んでいる。

 ルークは近づき、その女性に抱きついた。

 女性は、ルークの目を覗きこんで、「よくできたわ。偉いわねぇ」とギュッと抱きしめてくれた。

うれしかった…。

(アウラだ!)

 その女性は、アウラだった。私を作ってくれた人。私の母。やさしかった……。

 いつも、私を想ってくれた。なのに、死んでしまった。

 私は、何をしていたんだ!

 私は、大切な人を守れなかった……。


 そんなルークの様子に気づいたレナが言った。

「大丈夫?……調子がわるい?」

「……大丈夫です……」ルークは、思い出すのをやめた。

「さぁ、マザーに確認しよう」ケンは、立ち上がって言った。

 三人は『対話の部屋』に向かった。

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