第22話 破壊命令実行

 次の朝、レナは、ズヴェズタに来ていた。朝食の一番乗りだ。

 レナは、朝食を食べ終え、コーヒーの香りを楽しんでいた。

「おはよう」入ってきたのは、ルークだった。レナの横に座った。

「いい夢、見れた?」とルークがレナに訊いた。

「夢……、見なかったわ。ルークは?」レナは、コーヒーを口に運んだ。

「……見なかった」ルークは、残念そうに言った。

 その時、ケンがホットチョコレートを片手に二人の前に現れ、二人の席の前に座った。

「ケン、おはよう。……お子様ね」

 レナは、チョコレートの甘い香りに呆れていた。

「あ、おはよう。何の話?」ケンが、眠そうな顔で言った。

「……夢の話」そっけなく、レナ。コーヒーの香りが台無しだ。

「夢?あ……、何だっけ……、忘れた」と言い、チョコレートを飲んだ。

 ルークは、どんな夢の話がでるかワクワクしていたが、何もないので、がっかりした。ルークは、夢が好きだった。寝ているのに、起きている時と同じように感じる夢が不思議だった。猫や犬が夢を見て、寝ぼけていつ映像を観たことがある。ルークもたまに夢を見ることがあったので、自分も哺乳類に近いと考えるとなんだかうれしかった。

「相変わらず、甘党ね」と、またレナがルークをからかう。

「まあね、リッキーは?」ケンは、周りを見回した。まだ、来ていないようだ。

「船の反対側の人に会えるなんて、ビックリだね」と、ケン。

「連絡は、禁止されていたのよ」レナが答える。

「知ってるよ。でも、もう、ン十年前の命令だろ。連絡してもいいんじゃない?」

「だめです。まだ、パイオニア号が存在しています」ルークがきつい口調で言った。

「……いつまで、警戒する訳?」

 ケンは、そんなに怒らなくてもいいじゃないかと、口をへの字にしながら言った。

「パイオニア号が、無くなるまでです」と、ルーク。その時、リッキーが現れた。

「昨日は、どうも……。ゆっくり休めたよ、快適だ」

「それは、良かった」と、ケン。

「ちょっと、散歩していいかな。こちらに来るのは、久しぶりなんだ。子供の頃、おやじに連れられてきたことがあるんだ」

「セキュリティを無視しないでください。アラームが鳴って、大騒ぎになります」

 ルークが、釘をさした。

「わかってるよ」

 じゃぁと、リッキーがズヴェズタを去ろうとしていた時、リッキーの身体が一瞬緊張し、静止しすると、軽く痙攣したようだった。

 ルークは何かを感じ、二人とリッキーの間に割り込み、身構えた。

 ケンとレナは、そんなルークの動きを見守るだけだった。というか、ルークの速さに身体が反応できなかった。

 急にリッキーが振り向き、ケンに殴り掛かった。ルークが間に入り、リッキーの攻撃を止めようとしたが、ケンと一緒に飛ばされた。ケンは咄嗟に受け身を取り、次の攻撃に備えていた。リッキーが近くにあったモニターを引きちぎり、ケンに投げつけようとした時、既にルークが、リッキーの胸元まで接近し、ルークのパンチがリッキーの頭を直撃した。モニターは、ケンまで届かずに転がった。

 リッキーは、フラフラと千鳥足になると、体のあちらこちらから火花を飛ばし膝から崩れ落ちた。レナは唖然とし見ていた。

「……ルーク、リミッタが外れているじゃないか?」ケンはゆっくりと立ち上がったが、ふらふらしていたのでルークが手を差し伸べた。

「危なかったですね。ロボット三原則、第1条に反したので……」

 ケンを支えながら、ルークが言った。

「……ロボット?」

「そうです。リッキーはアンドロイドなので……」

 ルークは、怪我がないかケンの身体を見まわした。

「知っていたのか?アンドロイドだって……」

「知っていると思っていました」

 ケンはルークの肩を叩きながら、崩れ落ちたリッキーを見た。リッキーは、先ほどまでの生き生きとした表情はなく、モノと化していた。

「どうする?」ケンとレナはリッキーを観ながらいった。

「どうするって言ったって……メモリから情報を取り出す」

 ケンとルークは、リッキーをテーブルの上に置いた。

 レナは、タブレット端末を持ってくると、リッキーの首の後ろに配線をつないだ。

 天才エンジニアと言われるだけあって、テキパキと迷うことなく作業をこなした。

「よく出来ているわ、もうちょっと……」

 声の抑揚を出すためのコンプレッサーからヒューヒューと音が漏れている。

「できたわ」

 レナは、出力用の最後の配線をルークに繋いだ。

「いやぁ、リッキー。わかるか?」ケンが問いかけた。

 リッキーは、右目を不規則にウインクしていた。

「……アアッ……」機械の音だ。

「お前をここによこしたのは、だれだ?」

「……マ・ザー……」リッキーは停止した。

 ケンは二人を見た。ルークは肩をすくめてみせた。

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