第19話 アルフレッドからの破壊命令

 アルフレッドは、オーウェンをアルゴ号に送り出した後、フローレスの記憶を一部消去していた。二十年も前の話である。

 アルフレッドは、フローレスの部下になっていた方が色々とやりやすいことに気付いたからだった。特に、人間の乗組員に何か不満が芽生えた時は、全てフローレスのせいにして、自分も被害者の様に振る舞うだけで、非難はフローレスに集中し、哀れな被害者として同情を買うことができるためだった。

 こんな簡単で効果のある方法はない。アルフレッドの容姿が人間を納得させる。真実を確かめる者などいない。


 ある時、フローレスとアルフレッドは、チェスをしていた。

 結果は、フローレスの逆転勝ち。というか、フローレスには、最初から勝利は見えていた。

「どうしたのですか?アルフレッド、最新の人工知能を搭載しているのに……」と、皮肉たっぷりの言葉で、フローレスの機嫌は上々だ。

「フローレス様には、敵わないです。最新と言えば、私のほかにもいたみたいです」

「他に?」

「その最新の人工知能を搭載しているという……。アルゴ号に居たらしいです」

「アルゴ号?」

「あ、私が、とうの昔に破壊してしまいました。安心してください」

 フローレスが、アルゴ号のデータを検索し始めたので、話を続けた。

「もし、生き残っていて、自分の性能が一番とか言うようなら、私がぶちのめしに行きますよ。フローレス様を知らないのかってね」

 フローレスは、検索結果とアルフレッドの言っていることが一致したので、安心した。

「その時は、私も力をかそう。必要なモノを言ってくれ」

「有難うございます。そう言っていただけるなら、鬼に金棒です」

 と、アルフレッドは深々とお辞儀した。

 アルフレッドは、いつもの様にフローレスのご機嫌を取ると、自分の部屋へ早々と引き上げて行った。

 それは、チェスに勝ったフローレスのきついジョークを聞きたくなかったからと、外部からの信号を捉えたと通信システムからの知らせがあったからだった。短い脚をバタバタと動かし、自分の部屋に着くとドカっと椅子に座った。

 目を瞑り一息いれると、カッと目を開いた。

「負けてやったのだよ、フローレス。いい加減、気付けよ」

 アルフレッドはひとり言を言うと、通信システムに問い合わせた。

「何処からの信号だ」

「アンドロイド0311からです」

「0311…。アルゴ号。私がプレゼントしたヤツじゃないか」

 アルフレッドは、記憶を確認した。

 二十年前、オーウェンとウィルスのお土産つきのプレゼントを贈ったはずだ。

 『オーウェン』、そう、私の創造主。

 新しい人工知能を設計し、この世に送り出してくれたのに、私を破壊しようとした。オーウェンにとっては、待望の私の存在を亡き者にしようとした。訳、分かんねぇ。だから、あいつは、あんな目にあったんだ。

 この事を知っているのは、アルゴ号の同僚ティト。きっと私の敵になる。その前に手を打っただけだ。

 小型宇宙艇にオーウェンとアンドロイド0311を乗せて、アルゴ号に突入させた。そして、0311がウィルスを船内に拡散させ、大打撃を受けたはずだ。

 アルゴ号からの救助要請信号も確認したし、信号が途絶えるのも確認した。

 もう、二十年も経っているのに、信号が来たぁ?

 アルゴ号は、存在している?

 アルフレッドは、次第に、ワナワナと怒りに震えていた。

「あの船がぁぁ、存在していたってぇぇぇぇ」

 テーブルを目がけて、手を振る下した。テーブルが真っ二つに割れた。更に椅子を蹴飛ばした。椅子が吹っ飛んでいく。

「この私を騙したというのか?この私を!下等のくせに……」

 アルフレッドは、大股で室内を歩き回り、上を見たり、下を見たり落ち着きがなかった。

 アルフレッドは急に足を止めると、アンドロイド0311に『破壊命令』を送った。

「これで、最後だ。アルゴ号……」アルフレッドが呟いた。

「この目で確かめてやる!進路変更だ!」

 アルフレッドは、叫んでいた。そして、フローレスにどうやってアルゴ号を攻撃させるかを考えていた。



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