第18話 二十年後
すでに、パイオニア号からの宇宙艇衝突から、二十年もの歳月が流れていた。
アルゴ号は、パイオニア号と距離を置き、並行して航行していた。
アルゴ号は、スペース・ジャンクの塊と化して、パイオニア号を監視していた。反撃の時を待って……。
一方、パイオニア号は、近づいてくる宇宙船をことごとく吸収し、より派手なアミューズメント施設のような外観になっていた。また、その派手な外観が宇宙船を誘うという相乗作用により、どんどん巨大化していった。
アルゴ号では、パイオニア号の行動を細かに分析し、その対策を検討していた。
マザーとルークは、対パイオニア号用の強襲揚陸艇『アルゴⅡ』を設計・開発し、テスト段階に入っていた。
ティトは、既に他界し、代わりに二人の天才がスタッフに加わっていた。
レナは、アウラが亡くなってすぐに生まれた女の子で、アウラと同じ天才エンジニアだった。
ティトは、レナをとても可愛がっていたが、アウラを思い出してしまい、時には、何日も部屋に閉じこもってしまうこともあった。
ティトは、アウラへの想いが強すぎて、五年後に他界してしまった。その時、生まれたのがケンだった。
ケンは、繊細な男の子で、ティトと同じ天才科学者としてスタッフに加わった。
レナは、十九歳を迎え、ケンは、一七歳になったばかりだった。
マザーは、対パイオニア号戦では、艦内戦も考えていた。最小限の戦いで済ませるには、敵の大将を叩くしかない。艦内に侵入した場合、罠があるかもしれない。そこで、自分の分身である『アバターロボ』が必須であると考えていた。
敵のあらゆる罠に対抗するため、アバーターロボを侵入させ、敵の出方を見るためである。
マザーは、ある時『アバターロボ』の部品を探しに、探索用ロボットを船体回りのスペース・ジャンクに送っていた。
丁度、あの宇宙艇が衝突した場所付近で、棺桶の様な箱を見つけた。箱自体に、ロボットアーム装備され、船体に固定されていた。
探索用ロボットが、無理やり蓋を開けることに成功した。
箱の中には、身長一八○センチの痩せ型のアンドロイドだった。長めでゆるいカールが掛かった髪の色男だった。マザーにとっては、色男であるかは問題ではなかった。
マザーは、探索用ロボットから送られてくるデータを解析した。
(これは、使える。なかなかよくできている)マザーの評価は、高かった。
更に調べていくと、このアンドロイドは、どうやら、エネルギー切れのようだ。
マザーは、探索ロボットから、エネルギーを注入し、起動させてみた。
アンドロイドは、目を開けると眼球を高速に動かした。マザーは、直ぐにブートプログラムをセーフティモードで起動させた。
マザーは、アンドロイドが起動した時、コンマ一秒だけ電波を発信したことを観測した。すぐに、マザーは船外の監視レベルを上げ、警戒したが何も起きなかったので、何らかの誤動作として処理した。
マザーは、アンドロイドに新しい制御プログラムをインストールし起動させた。
その頃、ケンとレナの二人は、船の数少ないキューポラの下に、ヨガマットを敷き、寝ころびながら外を眺めていた。外は、闇ばかり続いている。
「近くに宇宙船があるかな?……」ケンが言った。
「そうね……。どうかしら……」レナが言った。
「遊びに行きたいなっと思って……、素敵な人がいるかもしれないよ。レナは?」
「……私は、どっちでもいいわ。……あなたが居るから」
二人は、軽くキスした。二人は、目の前にルークが立っていることに気付いた。
「ケン、レナ。仕事は終了しました」
二人はバツが悪いといった感じで、急いで立ち上がった。
「お邪魔でしたか?」と、ルーク。
「いや、そんなことはない…」ケンは、臀部を叩いてホコリを落とし、顔を上げた。
このどこかに第二の地球があるのだろか?
ケンは、キューポラから宇宙を見上げて言った。
「ライブラリの1583番を観た?月からの地球はとても綺麗なんだ」
「1583……観たわ、地球は蒼いの」子供のようにレナは言った。
「ルーク、君は知っている?」ケンが言った。
「知っていますが、綺麗かどうか、私にはわかりません」ルークが淡々と答えた。
「わからないって……」
ケンは、ルークに『綺麗』を説明しようとしたが、うまい言葉が見つからず、諦めた。
「ケン、侵入者がいるようです。マザーから連絡がありました」
「侵入者!早く言ってよ。ルーク」
と言うと、ケンは、艦橋に駆けて行った。二人は、ケンを追いかけた。
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