第16話 カプセル
ルークは、ティトに呼び出されていた。
「ティト、ルークです」扉が開いた。
ティトの部屋の中心には見るからに重々しいカプセルがあった。直径2.5メートルのカプセルは黒く鈍く光っていた。そのカプセルに向かって、ティトが作業していた。ティトの動作を見て、ルークが忠告した。
「ティト、休憩してください」
「設計ファイルを転送中だ。読み込んで理解してくれ」ティトは手を離さずに言って作業を続けた。
「私の言うことを聞いてください。心音が不規則です」ルークは、強い口調で言ったが、ティトは、相変わらず作業を続けていた。ルークに設計ファイルが届いた。
ルークの頭の中で設計ファイルが展開された。
「…これを作るのですか?」ルークはティトを見た。
「ああ、これを組み立てて、動作確認したい……」ティトは、まだ手を止めない。
「疲れたら休んでくださいね。約束ですよ」
ルークは、念を押すと作業を開始した。二人は黙々と作業を続け、完成まで丸一日かかった。
「行こうか。アウラのところへ……」
ティトとルークは、集中治療室へ向かった。アウラは、そこに横たわっていた。アウラの白い肌はさらに白くなり透き通るようだった。
「変化なし……」アウラのバイタルデータを見て、ルークが言った。ティトは、小さく頷いたが、アウラから目を離さなかった。しばらくして、ティトはソファに腰を下ろし、目を閉じた。身体が沈んでいく、どんどん下へ下へと沈んでいく。ティトは、眠ってしまった。
ピーピーピー。
ティトは、飛び起きた。アウラの生命維持装置からのアラームだった。ルークは、すでにティトの横に来ていた。ティトの心臓は、まだ落ち着いていない。
「アウラを移す。手伝ってくれ」
ティトとルークは、集中治療カプセルを部屋まで運んでいき、黒いカプセルの横に置いた。ルークは、アウラを集中治療カプセルからそっと抱き上げ、黒いカプセルの中に移した。
そして、ティトはアウラの頬に触れた。
「アウラ……、アウラ……、聞こえる?」
ティトは、アウラの耳元でささやくように言った。
「……聞こえるわ。とても、疲れたわ……」
それは、アウラの弱弱しい小さな声だった。
「ルーク、ルークは居る?」
「アウラ、僕はここに居るよ」ルークは、アウラの右手を握った。
「……また、あなたの作った苺……食べたかった。ルーク、愛しているわ」
「ティト、眠ってもいい……」
ティトもルークも返事をしたいが、声にならなかった。
「……ねぇ、ティト、私の身体は、もう時期古いぬけがらになるわ。悲しくないわ……ティト、愛しているわ」
「……お休み」ティトは、ゆっくりとアウラから離れた。ティトは、涙はこらえることが出来なかった。止めどなく、涙が流れ落ちていく。
「……ルーク、僕が死んだ時も同じようにしてくれ……」
「何を言っているんですか?……ティト、休んでください、お願いです……」
ルークは、ティトまで失うことを考えたくなかった。
「ああ、わかったよ。もう少しだけ……」
ティトは、スイッチを押した。ブーンというモーター音をたてて例のカプセルの蓋がしまった。ティトは、モニターに映る脳波計や心電図を確認し、キーボードをポンと叩いた。
実行します、アナンスが聞こえる。
ティトは、ソファに深々と腰かけ、目をつぶった。
ティトはすぐに眠りに引き込まれて行った。
そこには、元気なアウラがいた。アウラの健康的ですらっと伸びた足、産毛まで鮮明に見えた。笑っているアウラがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます