第15話 対サイコパスAI
船長は、『対話の部屋』に主要なメンバーに集合をかけていた。
「全員、揃っているか?」
「ティトが、まだのようです……アウラに付きっ切りのようです」
マザーが答えた。
船長は、周りを見渡し周囲の視線が自分に向けられるのを待ってから話始めた。
「今回の宇宙艇衝突の件で、マザーに情報収集してもらった」
マザーは、アルゴ号の船体とウイルス感染の被害状況の報告をスクリーンに映し出した。
「衝突した宇宙艇は、パイオニア号のものだった……これはパイオニア号からの攻撃だと思う……事故ではない」
メンバーは、信じられないという驚きの顔だった。
「なぜ……、なぜですか?攻撃なんて……」
オペレータが我慢できずに声を上げた。
「パイオニア号に近づいた宇宙船は、攻撃を受け資源を奪われているらしい。そうだな、マザー」
「その通りです。救助信号も複数受信しています」
「マザー、今のパイオニア号を映してくれ」と船長。
スクリーンに宇宙船が表示された。
「これが……パイオニア号か?」
「なんだこれは……」メンバーから驚きのあまり声が漏れる。
派手な赤と白のストライプの装飾、船体中央に大きなピエロの似顔絵が描かれた宇宙船が映し出された。
「マザー、ティトから預かったアレを出してくれ」
オーウェンからのメールが映し出された。マザーは、フローレスがアルフレッドにコントロールされている可能性があることを報告した。
船長は、黒い制服の襟を直し話始めた。
「パイオニア号は、このアルフレッドという新しい人工知能に乗っ取られたようだ。ご存じの通り、パイオニア号は最新の船である。このアルゴ号をはじめ過去に創られた宇宙船の弱点を克服しただけでなく、戦闘能力も増強されている。更に、最高と言われる人工知能、フローレスが搭載されている。この圧倒的な力を持つパイオニア号を相手にどうするか?」
船長は周りがこの状況を理解するのを待って、話を続けた。
「アルゴ号をはじめ、地球から出発した宇宙船の目的は、一人でも多くの人類を新天地に送り届けることである。戦うことではない」
「アルフレッドの目的が分からない。アルフレッドが考える攻撃は、我々の想像を超えるかもしれない。創造主である人間を攻撃する人工知能は、私たちが常識と思っているものを根本から持ち合わせていないかもしれない。私たちの生物としてのルールを持ち合わせていない可能性がある。人間でいえば、サイコパスなのだ。サイコパスAIだ。アルフレッドの存在は、ひとつのシンギュラティかもしれない。これは、非常に危険だと考える」
船長は、メンバーが理解できる時間を与えた。
「サイコパスに対処するには、完全に離れるか、完全にやっつけるかの二通りしかないのだ。サイコパスと戦う時は、一回の完璧な攻撃で完全に破壊するしかない」
メンバーがざわついている中、マザーが口を開いた。
「失敗できないのであれば……、私とルークにお任せ願いたい。我々は、人工知能なので……。これまでの人間と人工知能のゲームでは、人間の深読みから精神が不安になり、自滅していくことが多いようです。簡単に言うと漠然とした不安から、実行速度が遅れたり、ミスをしてしまう。それが、敗北の要因になるからです……」
メンバーがうなずく。過去、将棋やチェスなどのボードゲームでの人間と人工知能の戦いは、人工知能が有利だった。確かに、人間の自信の無さからミスをしてゲームを落としていたからだ。
「ルーク、いいだろ?私と一緒に戦おう」と、マザーはルーク問いかけ、ルークは、頷いた。
船長は、うつむきながら考えていたが、すぐに顔を挙げた。
「マザー、分かった。作戦は君たちに任せよう。我々には、準備する時間が必要だ。船の外側のスペース・ジャンクに救助信号発信装置を付け、船から切り離す。そして、船内活動を最小限にし、この場を離れる爆発を起こさせ、その爆発を推進力にしこの場を離れる。船外への通信を禁止する。アルゴ号は壊滅したことにする」
「囮か……」オペレータが呟く、その通りと船長が頷いた。
「これで、時間を稼ぎパイオニア号に対抗する準備をし、チャンスを待つ。不要なスペース・ジャンクの切り離しと、この場からの離脱方法を検討し、実行してくれ。直ぐにだ」メンバーが動き出した。
「マザー、ルーク、頼んだよ」船長は、ルークと握手した。
「了解、船長」と、マザー。
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