第13話 ウィルス感染
アルゴ号に救助艇が衝突してから、一時間が経とうとしていた。
宇宙艇が衝突した箇所に警備隊が配置されていた。
そこに一人の男が近づいていた。
身長一八○センチの痩せ型の男だった。
隊員がライトを向け、男の前に立ちはだかった。
男は両手を肘から軽く上げ、何も持っていないことをアピールした。
隊員は男のヘルメットに携帯用コミュニケーションボックスをコッと張りつけ、ヘルメットを覗き込んだ。
ヘルメットの中に、雑音が流れ込んだ。
男の年齢は、二八歳前後、目は澄んだブルー、髪は長めでゆるいカールが掛かっていた。
「これ以上は入れない……安全確認中だ」
男のヘルメットの中に隊員の声が流れた。男は頷き、そしてゆっくりと言った。
「……その安全確認が、私の任務だ」
男は、胸のポケットを指さした。隊員は身分証明書を見て頷いた。
「まだ、許可が出ていない……入れる訳にはいかない」
「検疫チームからの依頼だ。通してくれ、止めると後で問題になるぞ」
男は、低い声で言うと隊員をじろっと睨み付け、隊員のヘルメットをコンコンと軽くノックした。隊員は、目を伏せ一瞬考え頭を上げた。
「……わかった、通ってよい……」
男は、ニッと笑うと軽く敬礼し、衝突箇所から、アルゴ号の中に入って行った。
男は、アルゴ号の住人であるかのように迷うことなく中へ中へと進んで行った。
男は、あるドアの前で止まった。
そのドアには金色の美少年のプレートが貼られていた。その美少年が持つ瓶からは脈々と水が流れ出していた。そこは、アルゴ号の貯水槽だった。
男は、貯水槽の扉を開け、中に入って素早く扉を閉めた。
背負っていたアタッシュケースを降ろし、蓋を開けた。中には、アンプルが入っていた。それを、貯水槽の中に投げ入れた。
宇宙艇が衝突してから七時間後、二人の男性が立ち話をしている。
制服は医師のものだった。話が終わると一人がカメラを見つめ姿勢を正し、軽く咳をして、大きく深呼吸をすると話し始めた。周りのあわただしさも録画されていた。
「ドクター・カトウ。報告を始める。感染者1052人。既に495人死亡している。症状は高熱、嘔吐、頭痛だ。感染者と感染したと思われる者は全て隔離した。現在、原因を究明中……」
ドクター・カトウは少し考えると話を続けた。
「……未確認宇宙船からのウイルス説が強い。チェック前に誰かが持ち込んだかもしれない。これも調査中。報告完了」
ドクター・カトウが下を向き、頭を左右に振った。
「どこかの馬鹿が……」
ドクター・カトウが吐き捨てるように言った。
この状況をリアルタイムで船長も見ていた。
「こちら、アルゴ号……ウイルス感染のため甚大な被害が出た。救助を要請する」
船長は、遭難信号を発信した。
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