第12話 パイオニア号からの贈り物

 遠くで、何か音がする。

 ずーっと遠くでだ。

 ……アラーム?

 目覚まし?……いや、違う……。

 でも、アラームだ……。

 わかった……わかったよ……今、起きるよ……。 

 ティトが目を開ける。アラームは、着信を知らせていた。

 ティトは、目をこすりながら、身体をゆっくりと起こした。

 オーウェンからのメールだ。

 メールをタップ。そこには、オーウェンの姿が映っていた。

 ティトは、普通でないことがすぐにわかった。食い入るように画面を見つめた。

「……なんだって!」

 ティトがビデオメールを見終わると、急いで服を着て、部屋から飛び出した。

 とにかく、誰かに早く知らせなければと思ったからだ。


 その時、アルゴ号の船長は、食堂で朝食を選んでいた。

 この目的地がはっきりしない航海では、食事が楽しみの一つだった。

 船長は、大好きなステーキを選び、食堂の隅を見つけると腰を下した。

 少しでも他の人の目に触れずに落ち着ける場所だった。

 ステーキと言っても本物ではない。

 食料製造機が味・かおり、食感を再現したステーキもどきだった。

 船長は、そのステーキもどきにナイフを入れ、口に放り込んだ。そのかおりと食感や味は、思わず目を閉じさせ、至福の時を感じていた。

 やはり、わがままを言って、日本製食料製造機を導入させたかいがあった。

 しかし、そういう時には、必ずと言って邪魔が入るものである。

 船長のウェアラブルコンピュータが『警戒レベル』を知らせていた。メガネフレームが光り、腕時計がバイブレータで震えた。

「どうした?……」

 船長は、腕時計のアラームを切ると、オペレーターを呼び出した。

「前方に正体不明の宇宙艇です」

「わかった、艦橋に向かう」

 船長は、ステーキを名残惜しそうにチラっと見て、口を拭いたナプキンをテーブルに叩きつけると艦橋に向かった。


 その宇宙艇の情報は、ティトにも届いていた。

 ティトも艦橋に向かった。

 船長は、艦橋に着くとオペレーターの席に向かいスクリーンを覗き込んだ。

 スクリーンには、『宇宙船検索結果・不明』と表示されていた。

「……UFO?」船長がつぶやいた。

「これは、この船の中型救助艇と同型です」とオペレーター。

「同型?……同じ救助艇ならパイオニア号じゃないか?……」

 船長はスクリーンをじっと見つめている。

「パイオニア号から、連絡は?」

「……連絡は入ってません」

 船長は、スクリーンに映る宇宙艇から目を離さずに言った。

「……水先人を行かせろ。……早いな。これじゃぶつかる!」

 その時、ティトが艦橋に到達したところだった。

「人が乗っている!」

 オペレーターは、宇宙艇の操縦席をアップした。

「オーウェンだ……オーウェン、答えろ!」ティトが叫ぶ。

「知ってるのか?」船長がティトを横目で見た。

「気をつけろ!物につかまれ!」船長は、マイクを掴み叫んだ。

「後、三十秒。二十八、二十七……」カウントが続く。

 宇宙船の中央部に衝突した。船が激しく揺れた。

「オーウェン!オーウェン!」ティトが叫ぶ。

「反応がありません……」

「やってくれるなぁ……マザー、被害状況を知らせてくれ」

 マザーは、船の前後が分断されていることを船長に伝えた。

「レベル2警戒で、乗員待機だ」

 船長は、宇宙艇が衝突した場所に調査チームを差し向けた。

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