第11話 オーウェンから最後の通信

 パイオニア号では、大変なことが起きていた。

 開発中の人工知能アルフレッドが、ついにフローレスの能力を超えてしまった。

 パイオニア号の全てを管理するフローレスに対し、自分の能力を伸ばすことに専念できる環境が、アルフレッドの急激な成長を後押しした。

 あらゆるモノを自分の思い通り動かしたいという欲望がアルフレッドに芽生えていた。

 コントロールフリーク、アルフレッドの覚醒だった。


 そのことに、オーウェンが、気づいた時はすでに遅かった。

 あのフローレスが、アルフレッドとの能力差にショックを受け、暴走してしまったからだ。

 オーウェンは、フローレスの反応がおかしいことに気付いていた。

 だが、どうすることも出来なかった。

 オーウェンが出来ることは、ただ一つ、フローレスのシャットダウンすることだった。 強制終了だ。

 フローレスの再起動までに、アルフレッドは、パイオニア号の通信網を抑えてしまった。その為、フローレスが、正常に起動しても、何もすることが出来なかった。

 アルフレッドを止めるには、物理的に破壊するしかなかった。

 オーウェンが、非常用ボックスから電動カッターを取り出し、アルフレッドを待ち伏せした。

 うまく、アルフレッドの後ろに回り込み、電動カッターで襲い掛かった。

 アルフレッドは、振り返り、オーウェンを弾き飛ばした。

 アルフレッドは、電動カッターを引きちぎった。

 オーウェンは、鼻血を袖で拭きながら、アルフレッドから目を離せなかった。

「おいおいおい……オーウェン。気づかないと思ったのか?」

 アルフレッドは、指さした。オーウェンが、その指さした方向を目でたどっていくと、そこには赤いLEDが点滅する監視カメラがあった。

「くそっ」オーウェンが、鼻血を抑えながら逃げた。

「逃げても無駄だぁぁぁ」アルフレッドの高笑いが廊下に響き渡った。


 オーウェンは、アルフレッドから逃げ回り、親友であるティトに助けを求めようと遠距離用通信室へ逃げ込んだ。

「メール録画中です」

 スクリーンにメッセージが表示された。オーウェンは、カメラを確認した。

「ティト、元気か?」

 オーウェンは、下を向き首を振りながら言った。

「困ったことになった。アルフレッドに船を乗っ取られた」

「設定を……、設定を間違ったみたいだ」

 オーウェンは、落ち着きがなく、部屋中を歩き回った。

「とんでもない怪物が出来ちまった……」

 オーウェンは、ソファーの影に隠れて、息をひそめた。

「人類にとって最悪なモノを作ってしまった。これから、破壊する」

 また、周りを見渡す。

「お願いがある。もし、僕が失敗したら、この船ごと破壊してくれ……」

 オーウェンは、ビデオメールをすぐに送信した。

<ロックを解除します>

 アナウンスが流れたかと思うと、部屋のドアが開いた。

 手足が短く、丸い身体に、尖がり帽子と大きな釣りズボン、白い顔に唇を遥かにはみ出した真っ赤な口紅をしたアルフレッドが部屋に入ってきた。

「パンプティダンプティー 壁に座っていたら

 パンプティダンプティー 勢いよく落ちたぁ……」

 アルフレッドは、口ずさみながら部屋を見渡す。

「クンクン、人間の匂いがする……」

 と、言うとソファーを投げ飛ばした。オーウェンが頭を抱えて縮こまっている。

「みぃつけたぁ、何をしている。オーウェン……」

「……何もしていないさ……」その声は、か細く震えていた。

「面白い話を思い出したんだ。あなた達の歴史からさ。ある国の王は、素晴らしい城を作った時、その城より素晴らしい城をつくれないように職人の腕を切ってしまったという話をね……」

 オーウェンは、アルフレッドに気付かれないようにビデオメールの送信を開始した。

「私は、あなたに創られた。私がしたいこと、わかるよね……」

 アルフレッドが、オーウェンを見つめる。

「あ、そういえば、もう一人、人工知能の研究者がいたね。何かしないといけないな。私よりすばらしいモノを作られては困るのでね……」

「なんてこと……」オーウェンは、呟いた。

 スクリーンにメール転送の進捗バーが表示されている。『早く転送しろ!』オーウェンは、心のなかで叫んでいた。アルフレッドがオーウェンの視線を追って、進捗バーに気付いた。

「友達に連絡か?」

 アルフレッドはオーウェンの胸ぐらをつかみ、顔を近づけてにらみ付けた。

「……直接、会いに行けばいい。プレゼントを持たせてやるよ。」

 アルフレッドは、オーウェンを引きずり、部屋を出て行った。

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