第9話 ルーク起動

 ティトは、新型アンドロイドの部屋に居た。もちろん、アウラも一緒だった。

 新型アンドロイドを起動させるためだった。

 アンドロイドのメインテナンスの為、部屋を用意していた。

 部屋の中央のガンメタリックの球体があり、中がくり抜かれていて、卵の殻のようなものだった。その中には、この前完成したブリキマンが横たわっていた。

「格納庫みたいね……」

 球体の中を見てアウラが言った。

 アンドロイドが、一日の終わりにこの球体に入る。

 次の日の始まりまでに、身体の点検をし故障があればナノマシンにより修復される。ティトの開発した人工知能のサポート機能として、ライフログの整理も行われる。

 アウラが球体をペシペシと叩いた。

 ティトは球体を触りながら、一周すると、頷いた。

「最高だ……アウラ」

 まるで、ティトは、初めて自転車を買って貰った子供のような笑顔だった。

 そんなうれしそうなティトを見て、アウラも笑顔で答えた。

「人工知能もインストール済みよ」

「ありがと、さて、起動させるか……」と、ティト。

「待って……名前……ブリキマンでいいの?」

 アウラが、起動を止めた。直ぐにティトが答える。

「考えてきたよ……『ルーク』っていうんだ、君が良ければだけど……」

「ルークって?」

「チェスの駒の名前さ」

「チェスって、ボードゲームの……」

「そうさ。新しい人工知能だから、僕たちを超える存在になってほしいんだ。人類の次に来る者になる……だから、ルークさ」

「ルーク……。ええ、いいわ、ルークね」アウラが頷いた。 

「じゃ、起動させよう」ティトは、起動スイッチを押した。

 軽いモーター音が流れる。

 アンドロイドが、ゆっくり目を開けた。軽く口を開け、声を上げた。

「あ、あぁ……」それは、大きな赤ん坊の誕生だった。

「いやぁ、気分はどうだい?」ティトが訊いた。

 アンドロイドは、目を大きく開けて情報を収集している。

 ティトが、アンドロイドの前に立ち、目が合うとゆっくりとはっきりとした口調で話しかけた。

「私は、ティトだ。よろしく」ルークは、少し左に頭を傾けた。

「ティト……」

「ああ、そうだ。そして、こちらがアウラ」

 と言って、アウラの左手をぐいっとルークの前に引き寄せた。

「……アウラ」

「そう、アウラよ……よろしく」

「ティト……アウラ……よろしく……」

 ティトとアウラは顔を見合わせ喜んだ。

「君の名前は、ルークだ」

「……ルーク」

「そうだ……ルークだ」

 ティトとアウラは、本当の子供のように接していた。

 さすがに抱っこや高い高いは出来なかったが、なるべくそばに居て、話しかけたり、絵本の読み聞かせをしたりした。

 ティトはの読み聞かせは、声色を変えるので、ルークよりアウラにうけていた。

 身体能力は、人間よりも遥かにあったため、力加減を身に着けるまで、育児用アンドロイドが担当していた。

 力加減の教育は、人間の子供と同じように寝返りから始め、ルークの進化は素晴らしく早かった。あっという間に走り、ジャンプできるようになった。

 ルークが、人間に対する力加減ができるようになると、三人での生活を送れるようになった。


 ある時、ルークがランニングしていると、ティトが後ろから追ってルークを抜いていった。

「遅いぞ、ルーク」

 ルークは、直ぐにティトに笑顔で追いついた。ティトは、もう息が切れていた。

「ティト、遅いぞ」と、言うとルークがとんでもない速さで加速していった。

 ティトが息を切らし、アウラの前に来て腰から砕けるように座り込んだ。

 アウラが、スポーツドリンクを差し出す。

「……年かな……」

「勝てるわけないわ……私が作ったのよ」アウラが大笑いした。


 シミュレーションゲームの腕前も二人をどんどん、追い越していった。

 良く出来た時は、アウラは、ルークを抱擁し褒めた。

 まるで、本当の親子の様に……。

 そんな二人をティトは、微笑んで見守った。

 ティトも同じように幸せを味わっていた。

 ルークは、知識も順調に吸収していき、ティトと議論するレベルに達し、良きサポーターとしてティトとアウラを支える様になっていた。

 その仕事ぶりは、「素晴らしい」の一言であった。

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