第7話 マザーの許可

 アルゴ号のティトは『対話の部屋』に来ていた。『対話の部屋』とは、この船のメインコンピュータのマザーと直接話が出来る部屋だった。

 マザーがホログラムで選んだのは髪の長い少女だった。

 マザーは、対話する相手によって、ホログラムを選択した。

 時には、イケメンだったり、大男だったり、妖艶な女性だったりする。

 多分、対話者に精神的なゆさぶりをかけて、真実かどうか見極めているのかもしれない。

 少女がゆっくりと顔を上げて言った。

 容姿にあった透き通るような声だった。

「それで、そのアンドロイドの教育の為、スパコン・電源・育児アンドロイドが必要ってこと?」

「そうです。今回の人工頭脳開発は、今までとは全く別のアプローチをします。我々の体にできるだけ近づけて設計しました。後は、人間と同じ様に育てたい。我々よりは短時間で成長するが、人間の睡眠と同じようなタイミングでアンドロイドのメインテナンスをするように考えています」ティトが、硬い表情で言った。

 ティトは、この段階では、はっきりと全てを説明することができなかった。痛いところを突かれ、説明の時間を取られたり、マザーのサポートを受けられないことが嫌だったからだ。

「……人間と同じ様に?」少女が頬に人差し指をあて、首を傾げて訊いた。

「……アンドロイドが睡眠をとるの?」少女はいたずらっぽく笑う。

「全く同じではなく、似たようにすると言うことです。睡眠と言っても人間のような成長ホルモンによる身体の修復はないが、それと同じようにナノマシンにより修理されるように設計しています」

「育児アンドロイドは、必要?」

「学習には体験が必要なものもある。そこを育児アンドロイドの助けを借りたい。歩いたり走ったり飛んだりと言った運動の制御です。僕たちと物理的接触が多いので、力の加減とかは、体験をして調整していくことが必要です」

「それは、自由に動けるのか……それは、とても魅力を感じる……」

 少女は、上目使いで思案中の仕草をしたかと思うと、下を向き小さな声で呟いた。

「私も動いてみたい……」その呟きをティトは見逃さなかった。

「マザー、勿論、これが成功したら、あなたにも自由を約束します。今は、あなた無しでは、我々は生きていけない。あなたは、私たちにとって最も重要な位置にいるのです。今は、我慢してくれませんか。私が開発するアンドロイドが完成するまで」

「私に自由を……」

 少女は、ティトの目をじっと見つめた。ティトは、ゆっくりと頷いた。

「今、エネルギーを節約したいのは分かります。今回だけお願いします。このアンドロイドは、我々の能力を超える力を発揮するでしょう」

 少女は背に腕を回して歩いた。人間が考える時の仕草のように、二三回ティトの前を往復し、ティトの前で止まりティトの顔を見て言った。

「分かったわ。そのためには、エネルギーの再配分をしなければならないわ」

 ティトは、ほっとして笑みがこぼれた。

「……すぐに用意させるわ。あなたの頼みだから……私も早く、歩き回りたいわ」

 少女は、くるりと背を向けると、ゆっくりと消えていった。

「ありがとう、マザー」

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