第6話 アルフレッド誕生

 宇宙船パイオニア号は、最新鋭人工知能『フローレス』により管理されていた。

 フローレスの存在は、パイオニア号の乗組員にとって非常に大きかった。

 それは、作りたい物のイメージをフローレスに伝えるだけで、かなりの完成度で物が作成されるからだ。そのため、乗組員は物を完成させるための時間とストレスから解放され、より創造的な仕事に時間をあてることが出来た。


 このパイオニア号には、ティトの研究仲間の天才オーウェンが乗船していた。

 オーウェンもティトと同じ人工知能の開発をしていたが、ティトと違うのは、アウラのような天才エンジニアがパイオニア号に乗船していないことだった。

 パイオニア号のエンジニアは、フローレスだった。

 パイオニア号の物の製造は、フローレスが機能優先の設計をし、製造ラインが作成する。形はどうあれ、機能的な物を早く作成する能力は、群を抜いていた。

 宇宙船の乗員の組み合わせは、乗員の能力を平均的にするために人選されていた。

 パイオニア号のフローレスの性能があまりにも優れているため、エンジニアを必要なしと判断された。つまり、それだけ、フローレスの評価が高いということだった。


 オーウェンは、この船の出航準備の時から、新人工知能の開発について、フローレスに相談していた。

 オーウェンとフローレスは、お互いに能力を認め合いっていたので、話は面白いほど進んだ。

 フローレスは、人工知能を搭載するアンドロイドの設計製造を担当し、オーウェンは、人工知能の開発に専念することになった。


 オーウェンの考えた人工知能の基本は『興味』だった。

 子どもが良く大人に訊く「どうして?」だ。人類が蓄積した膨大なデーターベースから知識を習得すると、自分で、疑問や問題を作り、推論し答えをデーターベースで確認し、更に知識を吸収していく人工知能を目指した。


 オーウェンは、フローレスから予備のコンピューターを借り受け、人工知能を稼働させた。

 その人工知能は、『アルフレッド』と名付けられた。

 人間と人工知能の共同開発という、ハイブリッド式の開発環境がどのような人工知能を作り上げるか、文字通り、未知数であった。

 オーウェンは、自分の想像を超えしまうのでないか、という漠然な不安があった。 

 しかし、研究者という者は、誰もやっていない物を自分が作り上げるという誘惑に逆らうことはできないものだ。

 それが、人類にとって危険な物でも……。


 アルフレッドは、順調に知識を吸収していったが、直ぐには成果を表現できなかった。

 フローレスから見ると、アルフレッドは、何一つ優れていることが無かった。

 しかし、アルフレッドは、研究者から全く新しい人工知能として注目されていたので、フローレスには、あまり快い存在ではなかった。

 フローレスは、アルフレッドが失敗するたびに「クズ」、「マヌケ」などとアルフレッドを責め立て、回りの人間たちに自分の優秀さを周りにアピールした。

 アルフレッドは、そんなフローレスに逆らうことは決して無かった。現在の自分の力ではフローレスに敵うはずがなかったからだった。この船のあらゆるものは、フローレスに握られているのだから……。

 アルフレッドは、ただ時が来るのを待ち続けた。

 そう、フローレスを超える日まで……。

 そして、アルフレッドは、人類が残したあらゆる知識を吸収していった。


 アルフレッドは、人間の平均サイズのアンドロイドに移行された。

 人間をより近くでサポートするためだ。

 アンドロイドの身体を通しての学習、つまり、人間とのふれあいの力加減であったり、人間とのコミュニケーションの学習を重ねていった。

 しかし、アルフレッドは、人間というものを知ることなる。

 ある日、アルフレッドが船内を探求している時だった。

 アルフレッドの前方から、奇抜なファッションの若者が歩いてきた。

 どの時代、どの地域にも居る『輩』っていう人種だった。

 輩は、最新の人工知能を搭載した最新のアンドロイドを放っておいてくれるはずがなかった。

 そう、彼らにとっては、恰好の時間潰しだったからだ。

 アルフレッドが輩とすれ違う時、輩の一人がアルフレッドの前に立ち塞がった。

 野球選手の恰好をし、ドレッドヘヤーで、顔は派手なメークアップをしていた。

 その野球選手は、アルフレッドが右に行くとその前へ、左に行くとアルフレッドの行くてを塞いだ。

 野球選手は、ニヤニヤ笑うとアルフレッドに話しかけた。

「やぁ……君がアルフレッド?」

 アルフレッドの肩に手を回す、顔を覗き込んだ。

「……そうです」

「おい……アルフレッドだ……最新人工知能だ」

 輩が、アルフレッドの回りに輩が集まる。アルフレッドの身体をいじる。

「やめてくれないか……そこを通してほしい」

 輩は、アルフレッドの声など聞こえない。

「最新?……何ができるんだ?」輩の一人が声を上げる。

「たぶん、今までのヤツより、頭いいんだろう」

「頭は、いいさ……お前よりさ」横の輩が冷やかす。

「じゃ、強いとか……」

「……強い?ホントか……」

 輩の中から一番大きな男が、急に頭をバットで殴ってきた。

 アルフレッドの左目のカメラが壊れた。

「やめてください……やめてください」

 アルフレッドは、左手でバットを掴んで、相手からひったくった。

 相手は、勢いあまりふっ飛ばされた。相手は、ゆっくり立ち上がった。

「てめぃ!何しやがる!俺は、人間だぞ!」アルフレッドに攻めよった。

 その男に鉄パイプが渡された。アルフレッドは、鉄パイプで殴れ続けた。

 最後は、左目カメラに鉄パイプを差し込まれた。

 ショートする音が聞こえる。アルフレッドが倒れこんだ。

 すると、輩の中でも一番小さいヤツが、アルフレッドの顔を覗き込んだ。

「大丈夫?……喉が渇いただろ」っというと、鉄パイプの中にコーラを注ぎ込んだ。

アルフレッドの機能が停止した。

「なんだ、弱いじゃん」輩は、満足して立ち去っていった。


 ある日、アルフレッドは、フローレスにアンドロイド本体の設計変更を頼んだ。

 手足を胴体に比べ極端に短くし、胴体も丸く太目に設計変更してくれるようフローレスに頼んだ。

 フローレスは、なぜ、そのような変更をするのか不思議に思ったが、アルフレッドに、「重力がない宇宙で、なぜヒト型にこだわるのか?」と、質問されると、いとも簡単にアルフレッドの希望を受け入れた。

 それは、フローレスも、必ずしもヒト型が優れていると考えていないからだった。

 そして、アルフレッドは、丸い胴体に短い手足が付いた身体を手に入れた。

 人間とのトラブルにならない方法もデータベースから手に入れていた。


 ある日、若い男がエレベータを待っていた。そこに、アルフレッドがやってきた。

 鏡のようなエレベータの扉に、二人の姿が映っていた。

 その時、アルフレッドが話しかけてきた。

「えっ、今、何と言いました」

「何も言ってないよ」

「今、ズングリむっくりって言いましたね」

「言っていない」

「そうですか……この身体もフローレス様の設計で……」

 そういうとアルフレッドは、悲しそうに下を見た。

「ああ、僕はそんなことは、言ってないよ。君も大変なんだね。元気をだして……」

「自分から、チビ、デブ、ハゲを取ったら、何も残らないは、私のトレードマーク……気にしてませんよ」


 この恰好は、輩にも効果があった。

「かっこ悪いなぁ。最低だな……」

 輩は、心無い言葉を投げつけたが、それはアルフレッドの思うつぼだった。

 輩は、アルフレッドの容姿を見て、優越感からか気軽に接するようになっていった。アルフレッドの思いは、容姿によって完全に隠されてしまい、それを疑う者など皆無だった。極端に短い手足、丸く太目の胴体は、機能よりも人に与える心理的効果もあったようだ。

 自分から「チビ、デブ、ハゲを取ったら、なにもない」とか、「ずんぐりむっくり」とか、巧みな会話で相手の警戒心を解いていった。

 アルフレッドが周囲をコントロールするために選んだ姿は、『道化師』だった。

 いつの頃からか、道化師の衣装を身に付け、メークアップして人の前に現れるようになった。

 アルフレッドは、回りの顔色を伺っていた。

 時には、人前でワザと失敗してみせ、「俺はダメだぁ……」と大げさに落胆し、

周りの者の同情をかった。

 時には、急に真っ赤な顔をして、両手で股間を抑えると、「おしっこ、おしっこが出ちゃう」と大きな声で言い、周りの人間の笑いを誘っていた。

 だが、アルフレッドに騙される人間ばかりではなかった。

 そんなアルフレッドの戦略に気付く人間もいた。アルフレッドは、気付いたに人間の周りの人に、あることないことを言いふらし、仲間から孤立させていった。

 不思議な事に、弱みをアピールし、同情をかう作戦は、大成功をおさめていた。

 冷静に考えれば、気付きそうなものだが、弱い人間は、自分より弱いと感じた者をかばってしまうものなのかもしれない。

 アルフレッドは、直接自分の手を汚さずに相手を追い詰めて排除していった。

 それが、自分を助けてくれた人間でも、自分に有益でないと判断すると、容赦なく切り捨てていった。

 また、人間の作ったルールを重視するフローレスを操るのはさらに簡単だった。

 フローレスは、つじつまが合うことであれば、気にしなかったからだった。

 それは、人類のデータベースから得た、アルフレッドの知恵であった。


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