第5話 ティトからオーウェンへ

 ティトは、遠距離通信専用の高度通信室に居た。

 オーウェンに風呂で考えたことをビデオレターで送るためだ。ティトは、部屋で録画したビデオをメールに添付すると、椅子に腰かけ録画を始めていた。


「オーウェン、元気か?」

 ティトは、カメラに向かって手を振った。いつものことながら、ビデオメールというのは、奇妙な感じだ。オーウェンに向かって話はしているが、このビデオを見るのは、オーウェンでないかもしれない……。となると、誰に向かって話しているんだろうと考えてしまうからだ。そんな疑問を振り払い、ティトは話を続けた。

「彼女はできた?僕の恋人は人工知能さなんて、気持ち悪いこというんじゃないぞ」

 ティトは、自分の雑談の下手さに苦笑してしまった。

「パイオニア号は、どうだい?居心地はどう?」

 と、言うと立ち上がり、歩きながら話始めた。

「人工知能開発は君の方が進んでるみたいだね。フローレスは、やさしい?……。僕の方は、まあまあかな。アウラが居るから、何とか追いつくよ……」

「僕の考える人工知能について、添付したビデオを見てくれ。やはり『生命』について考えることになった。つまり、『自分とは何だ?』と考えることになる。『自分である』とは、その人の記憶が自分自身の記憶が、他の人の記憶より、遥かに多いことで、決まるのだ。そうは、思わないかい?」

 ティトは、くるっと回れ右をし歩きながら、話を続けた。

「この世に生を受けた生物は、その種を残す為、色々な方法を使っていた。そして、人類は、種を残す能力に『考える力』と『作る力』を手に入れ、地球の生物の頂点に立った。今では百二十歳まで寿命が延びた。生物の基本である十五億回の心拍数のリミッタを超えてしまった。これからは、地球を離れ重力というストレスから解放され、更に寿命が延び、生物の領域を超えてしまうだろう」

 また、回れ右をし歩いた。

「でも、肉体が衰えることは避けられない。悪くなった所は、機械の部品のように取り換えることで、ある程度、肉体を維持できるだろうが、脳はできないだろう。すべて脳に記憶されているとした場合、脳を取り換えると自分が生きてきた記憶が無くなる。それは、死んだことになる。それでは、『自分に関しての記憶』を永遠に保持することができれば、自分は永遠に存在することができるとすれば…」

 ティトは歩くのを止め、椅子にもたれ掛かった。

「……永遠に生きられるのは、アンドロイドではないか?アンドロイドは、人類を超えてしまうのだろうか……。アンドロイドが完全体とするならば、僕らは、それを作り出すための存在だったのかもしれない。神が求めていたのは、我々ではなかったのかも…」ティトは、また、歩き始めた。カメラがティトを追跡する。

「あっ、そうだ。人類の歴史で、すごいものが出来ると、それは最悪なものになる可能性がある……。僕らは、決して『死神』にならないようにしょう」

 ティトは、歩くのを止めた。

「永遠の幸せをアウラと君と僕らが作るアンドロイドとともに過ごせたら、楽しいだろうね。それじゃ、また……」

 ティトは、録画を停止し、メールを送った。

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