第4話 ティトの人工知能

 宇宙船での風呂は贅沢だが、技術革新の為の投資と考えれば、そんなに贅沢でもなかった。ましてや、天才と呼ばれる人たちの発想の手助けになる環境提供は、あまり余るくらいの恩恵を与えてくれるからだ。

 

 ティトは、風呂に入っていた。

 温めのお湯にゆっくりとつかり、考えことをするのが好きだった。

 一日中、一つの事を考え続け、お湯につかって目を閉じていると、時折神様からご褒美をいただけたりする。そう、ピンときた感じだ。


 ティトは、人工知能のことを考えていた。

 ティトが新しい人工知能を作ろうと思ったのは、何か違うと思ったから。

 しっくりこないのは、人工知能は途中から与えられた生命という感じだからだ。

 もう一度、生物や我々が生まれて大人になるまでを見詰め直してみよう。

 人間が受精から出産するまでに、胎内で進化の過程を体験し生まれてくるのは、ちゃんと意味があるのではないか?

 細胞が人体のどの部分になるかを認識し、細胞自身がどんな細胞になるべきかを判断するために必要な過程かもしれない。

 たぶん、なるべくこの世に長く、留まれるように必要な事なのではないか?

 生物は、自分の種が生き残るために色々な方法を使っていた。天敵から身を守るために、数で対抗するものや隠れたり逃げたりして種を守っていた。

 逃げると言えば、面白い例がある。

 蛇を見たことのないサルの群れに蛇のおもちゃを投げ入れてみると、サル達は必死で逃げ回る。

 なぜ、サルは蛇を恐れたのか?

 『蛇が危険だ』と分かっているからだ。

 サルはどこでその情報を入手したのだろう?

 言語を持たないサルがどのようにこの情報を伝達していったのだろう。

 DNAに記憶されたのだろうか?

 もし、そうなら、その祖先は必ず蛇の恐怖を経験しなければならない。

 すべてのサルが、蛇に襲われたり襲われているところを目撃したりして、蛇の恐ろしさを知っていなければならない。

……そんなことが可能だろうか?

 どこからか、情報を得ているのだろうか?

 生物は生き延びるため危険を避ける必要がある。

 そう言った生命を維持するための基本的情報は、生命の種が決まった段階で、ある場所からダウンロードされるのではないか。


 さらに、人間はもう一つダウンロードする必要があるものがある。

 それは、『記憶』だ。

 チベットに住む僧侶は、生まれ変わることができたそうだ。その僧侶が亡くなると生まれ変わりを探し、見つけると検証が行われた。その検証とは、前の人物の記憶が残っているかを質問し確認するらしい。 

 これは、個人の記憶がダウンロードされたかの確認ではないか。


……人はどうやって『自分である』と確信するのか?

 『自分である』とは、その人の記憶が自分自身の記憶が、他の人の記憶より、遥かに多いことで決まる。

 つまり、『自分に関しての記憶』を永遠に保持することができれば、自分は永遠に存在することができる。

 『永遠に生きる』これは残念ながら実証できない。永遠を確認できないからだ。

 もしかして、既に僕らは永遠に存在しているのかもしれない。

 ただ、覚えているか、覚えていないかのだけで……。

 やはり、自分の記憶が、脳の中ではなく、別の所に蓄えられるとすると、すべての辻褄が合うように思える。

 

 身体は、『自分』がこの世を体験するための入れ物にすぎないってこと。宇宙に出るときに着る宇宙服や青い海の中を散歩する時のウエットスーツみたいなもの。

 そして、『自分』が、この世を体験する時間を確保するために入れ物を改良していったのではないか?

 特に多くの入れ物を試していたのが、『カンブリア紀』だったのではないか。

 本当に突然変異であれだけの動植物が存在しただろうか?

 花に姿を似せた虫や虫に姿に似せた花。

 種を遠くに運ぶための仕組み。

 突然変異の偶然だけで説明するには無理がある。

……創造主の意思を感じる。

 この世を体験するための生物という入れ物は、DNAの組み合わせによりつくられ、その入れ物がこの世に存在したときに、入れ物が壊れないように危険を避けるための基本的情報をある場所からダウンロードすると考えれば……。

 生物は、種によって生活空間が決まり、天敵も決まる。種によって生き残るための防衛方法が決まる。種によって決まるということは、DNA配列の何かが影響している。


 DNA配列は我々の身体を作り上げるだけではなく、記憶とのつながりも兼ねているとしたら。つまり、体と記憶をつなぐ鍵のようなもので、全く同じDNA配列のものに記憶をコネクトすることができるのではないか。

 DNAの並びにより発生される何かが記憶との鍵になり、同じ型同士、繋がれる。

 鍵が不安定な場合、複数の記憶と結合することがあるのではないか。

 もしかすると、それが多重人格や交霊者、霊媒師やシャーマンとよばれる人たちは、その鍵が不安定か、複数持っているとしたら、説明がつくかもしれない。


……この仮説だと、永遠に生きられる。

 同じDNAの入れ物があれば、種の基本的な情報と記憶が、ダウンロードされるので、永遠に生き続けられることになる。

 待てよ……記憶だけなら、人工知能搭載型のアンドロイドは、永遠の命を得ることにならないか。そうすると、人間を超える存在になるのでは……。


 人間により近い人工知能が、機械という身体を持ったアンドロイドは、永遠の命を手に入れているかもしれない。

 でも、得た限りなく人間に近い人工知能ができたら、人工知能も悩むかもしれないな。『人工知能心理学』も必要になるかもしれないな。


 アラームがなり、ティトは風呂から上がった。

 忘れないように、ティトは大まかに壁にプロットを殴り書きした。

 急いで服を着て、深呼吸すると、ビデオの録画スイッチをいれた。

「オーウェン、元気か?風呂で考えたことを送るよ。これで、僕が考えている人工知能が分かると思うよ。じゃ、始めるよ」

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