第2話 ティトとアウラ

 次の日の昼、ティトは食堂に来ていた。

 食事を食べ終わりコーヒーを飲み始めたばかりだった。

 オーウェンが後から食堂にやってきて、ティトに気付くと軽く手を上げ、自分のトレイに昼食を乗せるとティトの前の席に着いた。

「どの船になった?」

 オーウェンは、スプーンでバターコーンを口に入れながら話を続けた。地球脱出用の宇宙船の事だ。

「連絡なし……、居残り組だったりして……」とティト。

 居残り組というのは、地球を回復させるために地球に残る人たちで、環境学者とアルケミストとサポーターから成っていた。

「……それはないな。アルケミストの家系じゃないだろ」

「勉強して資格でも取ろうかと思って」

「錬金術は、データーベースの資料をだけではマスターできないよ。錬金術を学ぶ方法はアルケミストの行動を通してだけらしい」

「冗談だよ」ティトは答え、コーヒーを一口飲むで、話を切り替えた。

「新しい人工知能だけれど……」

 オーウェンは、最後の二粒のバターコーンをスプーンに乗せようを格闘していたがあきらめて、ティトの視線を移し、スプーンを軽く上げ、話の続きをするように促した。

「この間、話した通りで……。僕らは、どうやって生きてこられたか?……最初は、本能ってヤツだろ。生命ってヤツ。身体の一つ一つの細胞が生きたいと主張してさ」

「それでいいと思うよ」オーウェンは、スプーンを二回振った。

「まだ、頭の中で整理できたいないけど……『快感』がこれまでの人間を作ってきたと思わないかい。……人間は、その快感を得るために行動し、ここまで進歩してきた。本能は生命を維持するために、未来を予測して生命を維持できる可能性が大きければ、快感を感じさせて、それが正しいことと判断させ、人間の行動をコントロールしてきたと考えているんだ。……何かわからないが、そんなものが存在するはずだ」

 ティトは、オーウェンの表情を確認しながら、話を続けた。

「だから、新しい人工知能は、『本能』ってヤツを作るんだ。つまり、自分の存在を維持することを想像または連想させる事象に出くわすと、ある電気信号が出るようにする。『心地よい』とか『快感』を得るみたいな……」

 また、ティトがオーウェンの表情を探る。

「……面白い!」オーウェンの表情が笑顔に変わり、賛同してくれた。

 その時、周りが少しざわつくのを感じた。

 ざわついた理由は、すぐに分かった。

 回りの人たちは、話すのをやめ、ティトの後ろを見詰めていた。

 ティトの背後から肩に手を置かれた。

 ティトは、反射的に振り返り、オーウェンは、ティトの目線を追った。

 そこには、身長一七○センチですらっとした女性が立っていた。

 エンジニアを表す紫色のストレッチ素材の制服が彼女のスタイルの良さを強調していた。黒い髪、黒い目、透き通る程の肌は、ティトとオーウェンの声を奪い、呼吸さえも忘れてしまうほどの美しさだった。

 幼さが残る顔立ちのため、まさに妖精の様だった。

「……あなたが、ティト?」

 女性は、愛らしく微笑んで、二人の顔を交互に見た。

「どっち?……」

「……ぼ、ぼくです」

 ティトが右手を軽く挙げ、立ち上がった。顔が真っ赤だ。

「私、あなたと同じ船……アルゴ号よ、よろしく」

 女性は、ティトと握手しながら言った。

「ティトっていう、天才が同乗するって訊いたから、どんな人か気になって……」

 ティトは、その女性をまじまじと見つめていた。彼女も気付いたらしく。

「私……私は、アウラよ。よろしく、ガイダンスが始まるわよ」

 アウラは、小走りに食堂を後にした。

「……アウラ?」

 ティトは、妖精ような天才エンジニア・アウラが、静止軌道ステーションで、宇宙船待ちをしているらしいという噂を思い出した。

「船……待って」ティトは慌てて、アウラの後を追った。

「開発は、出発に間に合わないから……各々……開発ということで。お互いに研究結果をメールしよう」

 ティトは、オーウェンに振り返って手を振りながら叫んだ。

「ああっ……、後でメールくれ!」もう、ティトの姿は無かった。

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