第53話「笑い男」

 ヨーロッパの、とある所に領民として土地を耕している男がいた。そしてある日、男の所に女が嫁に来た。その女の美しい事といったら比べる者がない程だった。


「さて、なんであんな美人が男の所に!?」


「まあ、アイツは話は面白いし、冗談も上手いしな!きっとそんな所だろう」


 と、領民たちの間では噂になっていた。


「なあ、なんで俺と結婚してくれたんだ?」


 男が女に尋ねると……


「だって、あなたと一緒にいると楽しいんだもの」


 と、女はケラケラ笑いながら、男に言った。


「だけどひどい貧乏だし、これから幸せになれるかどうか分からん」


 男がため息をついて言うと……


「私は、あなたと幸せになる為に結婚したのではありません。あなたとなら、どんな不幸な時だって、二人で笑って暮らせる!と思ったから嫁ぎました」


 と、女は優しい笑顔で、男にこたえた。


 二人は貧しいながらも楽しく暮らしていた。そんなある日の事だった。


「そこの者!顔をあげよ」


 二人が頭をあげると、鎧を来た兵士がいた。領地主の伯爵が、家来を従え、馬車で領地を回っていたのだ。馬車の窓から、伯爵の顔が見えた。家来が伯爵の元に走り、何やら話をしていた。そして二人の所に戻って来るとこう言った。


「その女を、今から伯爵夫人とする!すぐに馬車に乗れ」


 二人はびっくりした。兵士は女の腕をつかんだ。男はその間に入ると、仲間の兵士に殴り飛ばされた。


「いや!やめて~」


 泣き叫ぶ女は兵士に担がれ馬車の中へ。男は他の兵士たちに、よってたかって殴られたり蹴り飛ばされた。やがて、ボロボロになった男が意識を取り戻すと、辺りには誰も居なくなっていた。


 それから城では伯爵夫人の為の祝賀会が開かれた。男は自分の妻が捕られたのが分かった。男は傷心のまま、妻を取り返す方法を考えた。


『そうだ!あの森へ行こう』


 そう思った男は、魔法使いが住んでいるという、とある森に向かったのだった。


「何しに来た」


 男は森の奥底で、魔法使いに出会った。男は魔法使いに出来事の全てを話した。そして自分の計画を話すと……


「それは面白い話だな!もし上手くいって、そのあと俺を、城のお抱え魔術師にしてくれるなら引き受けよう」


 と、魔法使いは言った。


「ああ、もちろん」


「だがしかし……修行は辛いぞ?」


 魔法使いは引き受けてくれた。男は、死に物狂いで魔法の修行をした。そして3年が経った。

 

 その頃、城では3年に一度、領民などを集めてのお祭りがあった。男は道化師となって、お祭りに参加した。


「また今回も、楽しんでもらいに来ました!」


 男は周りを沸かせていった。


「アハハハ!本当にお前は面白いなあ。今回も伯爵に見せて来い!」


 あまりの面白さと、領民は自分たちの物という油断から、男は謁見(えっけん)の間まで通されたのだった。


「いや~実に愉快愉快!」


 伯爵は大笑いだった。そして、その脇の夫人も笑っていた。夫人は男と目を合わせる度に、なんとも言えない笑顔を見せていた。


 その笑顔に伯爵は思い出した。夫人は男の妻であった事に。そしてその笑顔に嫉妬した。その瞬間!


「伯爵様!どうでしょうか?一緒に道化で奥様を楽しませませんか?きっと伯爵様ならもっと、楽しませられるかと思いますよ」


 男は、伯爵に提案した。その言葉に、激しい嫉妬を感じた伯爵は、すぐに……


「今、そう思っていた所だ!」


 と、言って椅子から立ち上がった。


「ではこちらで、道化の衣装に!」


 男は伯爵に、自分と同じ道化の衣装を手渡した。しばらくして、道化師に扮した伯爵が現れた。男と伯爵は、道化の仮面と衣装をつけ、謁見の間の中央に立った。


「では参りましょう、道化の舞いを!」


 男はそう言うと、伯爵の周りを踊り歩いた。


「あ~さてさてさて!どっちが目を~回すやら!?あ~さてさてさて!どっちが目を……」


 男は伯爵の両手を握ると、互いの足先をそろえてクルクルと回り出した。


「あ~さてさてさて!どっちが目を~回すやら!?あ~さてさてさて!どっちが目を……」


 二人の道化は、クルクルとコマのように回っていた。


「あ~さてさてさて!どっちが目を~回すやら!?あ~さてさてさて!どっちが目を……」


 やがて、手が離された!すると一方の道化が、凄い勢いで転がっていった。残った道化は何事もなかったかのように立っていた。そして……


ツカツカツカ……


 残った道化は、伯爵の椅子に向かって歩き出した。道化が仮面を脱ぐと、伯爵の顔が現れた。


「まこと!面白い余興であった。だがもうよい、その転がっている道化を外に出せ!!」


 伯爵の言葉に近衛兵が動いた。そして目を回している道化師を担いで連れていってしまった。


◇◇◇


「おい!俺は伯爵だぞ!!」


 門の外で男が、門番に文句を言っていた。


「なに寝言、言ってんだ!もう祭りは終わりだ」


 そして、男は、門番に殴り飛ばされていた。実はこの男、本当は伯爵だった!だが、そんな事とは知らない門番にとっては、『男』の姿の伯爵は、ただの領民だった。


「何見てるんだ!、なにか文句あるのか!!」


 と、拳(こぶし)をあげる門番を見て、その事に気づいた伯爵は、門番にしこたま殴られた末、どこかに行ってしまった。




「あなた!来てくれたのですね」


 城の中でただ一人、伯爵の本当の姿に気づいた人間がいた。


「ああ今はまだ、この姿だがな」


「ああ、あなた!やっぱりあなたは、不幸な時にこそ、私に笑顔をくれる人だわ」


 そう言うと妻は、涙を浮かべ笑顔になった。二人はまた、抱き締めあった。


 その後すぐに、魔法の力で伯爵と入れ替わった男は、森で待つ魔法使いを城に呼んだ。


「まさか、本当にやるとはな!」


 魔法使いは、驚きと嬉しさを持って、男の側近となった。そして家来たちに魔法をかけると、男が男の姿のまま伯爵で居られるようにした。

 

 さて、元の姿になった男は……







「さあ、みんなが幸せになれる場所を作ろう」


 と、妻や仲間と大いに笑いながら、仲良く暮らしたのだった。


おしまい

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